最強のレオナルド?
レオナルドは、突如謎の行動に出るのであった。
突然のレオナルドの行動に、観客は動揺していた。レオナルドは、周りの反応を気にすることなく、俺の方へと一直線に近付いてきた。レオナルドの迫力に、観客はレオナルドから逃げるように遠ざかる。その様子は、まるで大きな地割れのような光景だった。
アイザックも大きく動揺していた。アイザックは、俺の方を心配そな表情で見詰めていた。
「カ、カイン。どういうことだ?この状況。レオナルドは、あきらかにお前の方に向かってきてるぞ。もしや、お前の強さに気付いているんじゃあないのか?」
「そんな馬鹿な。俺は、ただここに座っているだけだ。こんな大勢の中から、どうやって俺を特定出来るんだ?」
全く訳が分からないレオナルドの行動。だが、俺を特定できた理由だけは、なんとなく分かった。
「アイザック。さっき俺は、レオナルドを鑑定したんだ。そしたら、レオナルドは、『強敵察知』という裏スキルを持っていることが分かった。俺を特定出来たのは、裏スキルによるものだろう。」
おそらく、レオナルドは、俺が鑑定のスキルを使ったことにより、そのスキルの気配を察知したのだろう。それが、急激に強くなった俺だから、裏スキルによって、俺を特定出来たんだ。
「なあ、カイン。あまり、目立つようなことはするんじゃないぞ。これだの観衆の目があるんだ。お前の強さがここでバレると、あっという間に国々に広がってしまうからな。」
動揺しているように見えたアイザックだったが、意外と冷静のようだ。今のところは、俺の心配をする余裕があるようだ。
「ああ、アイザック。ありがとう。何とかごまかしてみるよ。」
アイザックと軽く話をしているうちに、レオナルドは俺の目の前まで来ていた。レオナルドは俺の目の前で足を止め、持っていた剣を俺に向けた。
「貴様、何者だ?」
レオナルドは、いきなり俺に質問してきた。しかし、質問の意味が分からない。いったい、どういうつもりなんだ?
「何者だって言われても、俺はただの観客なんだが。」
俺は、レオナルドの質問に対して、素っ気なく目立たないように無難に答えたつもりだったのだが、アイザックの方を見ると、かなり動揺した表情で、首を大きく横に振っていた。それはまるで、全然違う、とでも言っているよだった。
いったい、何が違うというのだ。俺の今の答え方で、どこか間違えていたところがあったのか?
まわりの観客も、俺の方を物凄く珍しい者を見ているかのような表情で見ている。
「俺を目の前にしても、全く動揺しない奴は、しばらく見たことがない。他の者は、俺が近付くだけで、恐怖し、逃げるようにしてある程度距離をとるものだ。だが貴様の反応は、俺のことを恐れるどころか、ただ単に鬱陶しいとしか思っていないように見える。まるで、その他大勢の人間を見ているかのように。」
レオナルドに言われて、俺は、いかに周りの人間と違う行動をとっているのか、初めて気付いた。これも、急激に強くなりすぎたせいで、強さの感覚が麻痺しているせいだ。
一方、レオナルドの表情は、余裕がないように見える。この状況を、冷静になって、客観的に考えてみよう。武器を構えている方が、のんきに座っているだけの者に対して余裕がない。これは、レオナルドが、俺に対して恐怖しているのか?
レオナルドの言うことに対して、何も相手にしない俺に苛立ちを感じたのか、レオナルドは、俺に向けていた剣を振り上げたかと思うと、俺めがけて振り下ろしてきた。
おそらく、俺の反応を確かめるつもりなのだろう。だが、俺は騙されない。こんな遅い剣速では、下手なことをすれば、一発で演技とバレる。レオナルドは、わざとに剣速を限りなく下げている。そんな安易な挑発に乗ってたまるか!
そう思った俺は、レオナルドの振り下ろしてきた剣を、右手で掴んだ。こんな遅い剣速で、やられたフリをしてしまっては、周りの者にも不信感を与えてしまうからな。
だが、この行動自体が、一番の間違いだったことに気付くまでは、時間がかからなかった。レオナルドは、相当な力を入れている表情だったのだ。今の遅い剣速は、レオナルドが手を抜いていたのではない。俺の速力が、レオナルドを大きく上回っていたからなのだ。
「カイン。馬鹿野郎!」
思わず、アイザックは叫ばずにいられなかった。どう考えても、誰が見ても、レオナルドの剣による攻撃を、俺が素手で止めたという状況。アイザックの心配をよそに、俺は、とんでもないことをしてしまったのだ。
「貴様、やはり。どこでその力を手にいれたんだ!そんな力を持っているのに、どうして今まで世に明るみにならず、のうのうと生きてこれたんだ?いいから答えろ!」
レオナルドに余裕は全くない。一体、何を言おうとしているんだ?もともと、レオナルドの行動の意味が分からない。わざわざ闘技大会に参加したのに、試合を放棄するようなことをしている。試合よりも、俺の話を聞くことのほうが重要だとでも?ますます分からない。一応、最低限のことだけ言っておくか。
「いや、俺はこの前、そこにいるアイザックという男の手助けもあり、ブルーウルフを一頭倒しただけなんだが。」
そう言うと、レオナルドはアイザックの方を見た。そして、アイザックの姿を確認すると、また、俺の方へと視線を戻した。
「ということは、あの男が、お前の師ということなのか?」
なんだか、話が変な方向に変わってきている。アイザックは、全力で首を横に振っている。このままだと、さらに面倒なことになりそうだ。もう、手詰まりになってしまった。
「レオナルド選手。試合に参加しないのであれば、失格になります。試合に参加しないのであれば、失格になります。」
丁度いいタイミングで、場内アナウンスがなった。レオナルドも、我に返ったのか、今が自身の試合中だと思い出したようだ。しかし、レオナルドは試合会場に戻ろうとしない。
「レオナルド選手。試合に参加しないのであれば、失格になります。」
繰り返される場内アナウンス。しかし、レオナルドは動こうとしない。
「戻ろうとしても、剣がこいつの手から離れんのだ!」
レオナルドは、必死の形相で場内アナウンスに対し、訴えていた。その様子を見て、俺は、右手でレオナルドの剣を持ったままだったことに気付いた。
しまった。今の俺の腕力は1600もあるんだった。600ちょっとのレオナルドの力では、振りほどくなんて出来やしないのだった。腕力だけで、この差。もうちょっと、自分のステータスについて自覚するべきだったんだ。
「悪い悪い。」
俺は、そう言ってレオナルドに謝り、右手で掴んでいるレオナルドの剣を離した。
「う、うわああっ!」
レオナルドは、急に叫びだし、観客席を転がり転がり落ちていってしまった。ああ、また失敗してしまった。レオナルドは、俺の右手から剣を振り払おうと、必死で、それこそ全力で、目一杯力を入れていたんだ。そんな時、俺が急に剣を離したのだから、慣性の力が働き、後ろへ吹っ飛ぶのは当たり前だったんだ。
レオナルドは、勢い良く、観客席の一番下まで落ちていった。
「がはっ!」
レオナルドはそのまま、気を失ってしまった。静まり返る会場。
「レ、レオナルド選手、失格です。」
場内アナウンスが、むなしく響く。観客も、意味が分からない、といった状況。レオナルドが担架に運ばれて姿を消すまで、会場はずっと静寂を保っていた。レオナルドの姿が見えなくなると、俺の周辺以外の会場全体から、怒号のブーイングが沸き上がった!
「ふざけるな!俺はレオナルドを見に来たんだ!」
「そうだ、俺はレオナルドの優勝に、全財産を賭けてきたんだ!金返せ!」
会場は、完全に混乱していた。だが、俺の周りだけは、静かな範囲気を保ったままだった。俺の周りの観客は、皆俺を見ている。俺がどう動くか、興味本位で待っているんだ。
「アイザック。レオナルドってやつ。本物だったのか?あまりにも、間抜けすぎないか?足を踏み外して、勝手に下まで転んでいき、気絶するなんて。」
俺は、バレバレの嘘をついた。もう、こうするしか方法がないからだ。なんとか、誤魔化せるといいんだが。
「そ、そうか。そりゃそうだよな。あのレオナルドがそんなドジ踏むわけないもんな。」
アイザックは、まるで棒読みのように、俺に合わせてくれた。周りの者も、目の前で起こった状況を信じたくないのかに俺達に合わせてくれた。
『ここに参加したレオナルドは偽物。』
この明らかに嘘である情報は、会場全体に広がっていった。俺の周りにいた者以外は真実をしらない。ただ、レオナルドは偽物、ということだけが独り歩きし、次第にブーイングは収まっていった。
偽物なら仕方がない。今回はレオナルドは不参加だった、ということで、今の騒ぎは何とか収まった。
混乱が収まったことで、闘技大会は再開。順調に試合を消化していく。そして、準決勝第一試合。シード通しの、初の対戦を向かえた。




