闘技大会
アイザックの誘いで、闘技大会を観戦することになったカイン。
トーマスの試合が終わっても、会場の観客はずっとざわついていた。観客からすると、トーマスの強さは予想以上だったのだろう。俺には、そうは思えなかったのだが。
もう、今の時点ですでに、俺の強さの感覚が、他とズレが生じていることに気付いた。俺の強さが周りにバレないようにするためには、安易に感想を言うとものではないなと、反省した。
次の試合が始まるまでに、俺は、今の試合を見たことで、どのようなスキルを手に入れたのか確認することにした。例のように、自分自身を鑑定する。
スキル『二刀流』
スキル『剣の舞い』
裏スキル『剣筋把握』
裏スキル『威嚇無効』
裏スキルの2つは良く分かない。『剣筋把握』は、おそらく相手の剣筋を見極めることが出来るということだろう。『威嚇無効』は、おそらく、格上相手でも怯まないということだろう。トーマスの対戦相手は、トーマス相手に臆することはないように見えた。『威嚇無効』は、トーマスの対戦相手の裏スキルで間違いないだろう。ということは、『剣筋把握』が、トーマスの裏スキルということか。相手の剣筋を見極めることが出来るのなら、二刀流で無防備に連続攻撃している最中でも、相手の攻撃を処理できる。これは、かなり優秀な裏スキルだ。
スキルの『剣の舞い』とは、トーマスの攻撃スキルだろう。取得できたということは、さっきの試合でトーマスが使っていたということ。いつ、使っていたのだろうか?
まさか、あの連続攻撃が、『剣の舞い』なのだろうか?それなら、あまり強いスキルではないように思える。一応、アイザックに『剣の舞い』のことについて聞いてみるとするか。
「なあ、アイザック。さっきのトーマスの連続攻撃。あれって、スキル『剣の舞い』なのか?」
「ほう、カイン。良く知っていな。あの『剣の舞い』こそが、『双剣のトーマス』を有名にしたスキルなんだ。『剣の舞い』は、普段より倍の速度で、相手に流れるように連続攻撃を仕掛ける。周りから見れば、それは華麗に踊っていようにも見える。だから、『剣の舞い』と言うんだよ。あのスキルは、どうやって取得できるかは、誰も分かっていないんだ。」
相変わらずの丁寧なアイザックの解説は、分かりやすかったのだが、俺は違う意味で驚いた。あのスキだらけの攻撃が、倍の速度だったというのか?
もしそうなら、今の俺は、トーマスよりも遥かに高い素早さを持っているということになる。まあ、いちいち驚いてはキリがない。これからは、参加者のスキルの取得に集中するとしよう。
一回戦の試合が順調に消化していき、次は『怪力のハドソン』の出番になった。ハドソンが会場に姿を見せると、観客は大いに盛り上がった。ハドソンは、武器を持っているように見えない。まさか、素手で闘うつもりなのだろうか?
「カイン。良く見ておくんだ。ハドソンは、武闘家の上級職である『拳聖』なんだ。『拳聖』は、武器を装備するより、拳による攻撃が圧倒的に得意なんだ。ハドソンを見ておくことではお前は、優秀なスキルを取得できると思うぞ。」
アイザックの丁寧な説明はありがたい。この解説があると、取得できたスキルの効果を予想することが容易になる。
試合が始まる前、ハドソンはデモンストレーションだろうか?いきなり右手を上に上げて、強く拳を握った。何をするつもりだろうか?
次の瞬間、上げていた右手を一気に振り下ろし、右拳を地面に叩きつけたのだ。ドーンという衝撃音とともに、砂煙が一面を覆った。砂煙が晴れると、ハドソンの足元には、小さなクレーターのようなものができていた。
そのクレーターを見て、ひときわ大きくなる歓声。これは、俺も驚いた。素手であんなことが出来る人間など、信じられない。なるほど、怪力のハドソンとは、良く言ったものだ。ひょっとしたら、今の俺よりも、腕力は上なのではないだろうか?
そう思った俺は、ハドソンを鑑定することにした。
レベル 50
HP 550
MP 100
WP 300
攻撃力 650
防御力 360
素早さ 200
魔法力 100
魔法防御 100
得意属性 なし
弱点属性 なし
なんと、ハドソンの攻撃力は650。何も武器を所有していないため、腕力は650もあるのだ。ハドソンのレベルが50だから、計算すると、腕力の成長素質は13もあることになる。いくら強いとは言っても、成長素質が13なんて、あまりにも馬鹿けていないか?思わず、口に出してしまっていた。
「そんな馬鹿な。腕力が650もあるなんて、化け物か?」
当然、隣にいたアイザックには聞こえていた。
「なんだと?ハドソンは、腕力が650もあるのか?そんな、考えられん。『拳聖』には、『腕力+50』という特性があるらしい。それを引いても、腕力が600だと?それはもう、人間を越えているよ。」
なるほど、上級職には、ステータス補正の特性があるのか。それにしても、腕力が600なんで馬鹿げた強さだ。ハドソンには、腕力が高い秘密があるはずだ。
俺は、もう少し詳しくハドソンを鑑定した。すると、ハドソンの腕力の秘密が明確となった。なんと、ハドソンの裏スキルは、『腕力2倍』だったのだ。
つまり、ハドソンの本来の腕力は300。それが、裏スキルの腕力2倍によって、600となったのだ。ここまで優秀な裏スキルを持っているとは。かなり驚いた。だが、当然、俺も『腕力2倍』を取得したことになる。それによって、今の俺の腕力は、800まで上がってしまったのだ。
闘技大会を見る最初の目的は、優秀なスキルの取得だったのだが、腕力が2倍になってしまった。俺が想定していない強さの上がり方だ。こんなことになるとは。
俺がハドソンを鑑定している間に、試合も終わってしまっていた。当然、ハドソンの圧勝。ハドソンのデモンストレーションを見たことで、相手は完全に臆していまい、ハドソンはスキルを使うことなく勝利したのだ。俺は、ハドソンのスキルを取得できなかったことが悔しかった。
でも、ここで焦っても意味がない。ハドソンがこのまま順調に勝ち上がれば、おそらく準決勝で、トーマスと対戦する。その時は、二人とも様々なスキルを使うだろう。楽しみは、後で取っておくとするか。
続いて、『神速のノーラン』の出番だ。神速とは、なんとも大げさな。いったい、どれほどの素早さを誇るのだろうか。
「神速のノーランは、魔法使いの上級職である大魔法使いだ。もともとノーランは、腕力と速力の成長素質が優れていた。だが、魔法が使いたいという理由で、魔法使いなった。当時は、周りから変わり者と言われていたのだが、大魔法使いになったことで取得するスキルを知って、周りの評価が変わったんだ。」
また、アイザックがお馴染みの解説を始めた。
「大魔法使いが覚えるスキルに、身体強化というものがある。もともと魔法使いは、魔力を外に打ち出すことを攻撃手段にしているのだが、大魔法使いは、それだけでなく、魔力を自分自身に与えることで、爆発的に身体能力を強化することができるらしい。ノーランは、身体能力強化の中でも、速力を上げることが好きらしい。強化した速力による攻撃は、目にも止まらぬ速さだそうだ。」
なるほど。スキルにより速力を強化するのか。それなら、神速というのも頷ける。試合を見るのが楽しみになってきた。
ノーランの試合は、あっという間に終わった。試合が始まると同時に、ノーランは相手との距離を一瞬にゼロにし、右拳を振り上げて、相手の顎をはね上げた。相手は、そのまま気を失い試合終了。
ノーランの試合後、俺のスキル確認をしてみたら、『速力強化』と、『腕力強化』を取得していた。ノーランは速力強化だけでなく、相手を一撃で確実に倒すために、腕力強化もしていたということになる。
ノーランの試合観戦は、腕力と速力の強化という優秀なスキルを取得できたので、俺にとってはかなりの収穫だった。ただし、この強化のスキルは、どのくらいの効果があり、どれくらいの時間持続するのか、検証が必要だ。帰ったら試してみようと思う。
最後のシードである、『最強のレオナルド』の試合が始まる前、アイザックが俺に状況を聞いてきた。
「カイン。どうだ?今のところ、良いスキルは手に入ったか?」
「ああ、ハドソンの裏スキルと、ノーマンのスキルはかなりの収穫だったと思う。」
「ハドソンの裏スキル?」
「ああ、それこそがハドソンの怪力の秘密だったんだ。ハドソンの裏スキルは、腕力2倍。だからこそ、あのふざけた拳の威力だったというわけだ。」
「腕力2倍?そんな裏スキルがあったのか!そりゃあ、強くなるに決まってる。何が、一番重要視されるのは成長素質だ。結局、優秀な裏スキルを持っている者が、一番強くなるんじゃないか!」
アイザックは、物凄く不機嫌になっていた。その気持ちは分かる。今まで、強さで一番重要な要素は成長素質だと言われてきたんだ。腕力2倍なんて裏スキルがあったなら、成長素質の優劣なんて、簡単に吹き飛んでしまう。
俺の裏スキルも同じだ。俺の成長素質は最弱だったが、今こうして途方もない強さを手にいれようとしているのだから。
アイザックが文句を言っている間に、会場の雰囲気が静になっていき、緊張感が増していった。観客は皆、『最強のレオナルド』を待っているのだ。もうすぐ会場に姿を表す。その姿を目に焼き付けようと、観客は必死なのだ。
そして遂に、レオナルドが会場に姿を表した。レオナルドの姿に、俺も驚いた。今までの参加者とは、明らかに雰囲気が違う。なんて言えば良いだろうか。とにかく、とてつもなく強いと感じさせる姿なのだ。気になった俺は、レオナルドを鑑定した。
レベル 50
HP 1100
MP 500
WP 500
攻撃力 630
防御力 600
素早さ 500
魔法力 500
魔法防御 500
レオナルドのステータスは、全て500を越えているのだ。この数値は、今のレベル400の俺よりも強い。レベル50にしてこのステータスは、あり得ない。この異様なステータスは、絶対に裏スキルが関係しているはずだ。
裏スキル『全能力値2倍』
裏スキル『強者察知』
なんと、レオナルドの裏スキルは、全能力を2倍にするものだった。これは、明らかに反則級の裏スキルだ。ふざけるなと言いたい。こんな裏スキルを持っているのなら、最強になるに決まっている。この闘技大会は、レオナルドの優勝で決まりだ。試合を見なくても、結果は分かりきっている。
レオナルドに対して、怒りの感情しか湧かなかったのだが、ふと、自分の裏スキルのことについて思い出した。俺はあわてて、自分自身の鑑定をした。
カイン
レベル 400
HP 800
MP 800
WP 800
攻撃力 1620
防御力 820
素早さ 800
魔法力 800
魔法防御 800
レオナルドの全能力値2倍は裏スキルなのだから、当たり前のように俺もこの裏スキルを取得していた。しかも、ハドソンの裏スキルである腕力2倍も、合わさって、腕力は4倍になり、攻撃力は1620という、現実味のない数値になっていた。
この時点で、俺は最強であるはずのレオナルドよりも、強くなってしまったのだ。
レオナルドが会場に姿を見せてから、結構時間が経ったのだが、まだ試合が始まらない。どういうことだろうか。レオナルドは対戦相手に対して構えようとしないのだ。構えの姿勢を取らないのだから、試合が始まらないのだ。
「おい、カイン。レオナルド、なんかこっちの方を見てないか?」
アイザックに言われて、レオナルドの方を見ると、確かに、レオナルドの体はこちら側に向いていた。どういうことだ?
レオナルドが何を考えているのか表情を確認しようとした時、予想だに出来ないことが起こった。
なんと、レオナルドは、俺を見ていたのだ。その証拠に、今、確実に俺と目があったのだ。あわてて俺は目を反らした。
「カイン、どうした?」
「アイザック。レオナルドは、俺を見ていたんだ。」
「なんだと?おい、カイン!大変だ。レオナルドが、観客席に侵入し、こちらに向かってきてるぞ!」
「なに?」
俺は、レオナルドの方を見直すと、レオナルドは確実に俺の方へと向かってきていたのだ。




