アイザックの誘い
最強になったカインは、これからどうするのだろうか?
あれから2日、俺は今まで通りに寮にいた。畑の管理といえば、最初の薬草の収穫までは、特にすることはないから、結構退屈だ。退屈だからといって、どこかに出かける気にはなれなかった。初めてのモンスターの戦闘は、精神的にも肉体的にも疲れていたからだ。
2日間休んだことで、そろそろ疲れがとれてきた。さあ、これからどうするかと考えていたところ、寮長が俺に話しかけてきた。
「おい、カイン。お前に来客だ。アイザックだ。食堂に待たせてある。」
アイザックが俺を訪ねてきたということは、依頼の手伝いだろうか。ちょうど疲れもとれてきたところだ。力になれるだろう。
俺は、アイザックが待っている食堂へ向かった。アイザックは、食堂のど真ん中のテーブルに体重をかけて、何か小さな紙を見ているようだった。あれは、依頼書だろうか?
俺が食堂に着くなり、アイザックは俺を発見したのか、すぐに声をかけてきた。
「おう、カイン。どうだ?初のモンスターとの戦闘は。けっこう疲れただろう?」
「ああ、そうだな。でも、2日休んだことで、大分疲れがとれたよ。もう、いつでも手伝うことが出来そうだ。」
俺がそう返事すると、アイザックは小さく首を横に振った。
「はは、お前は真面目な奴だなあ。今回は違うんだ。お前と一緒に行きたいと思っているところがあってな。」
「一緒に行きたいところ?」
俺の質問に対して、アイザックは答える前に、手に持っていた小さな紙を俺に見せてきた。それは、闘技大会の観戦チケットだった。
「これから、ちょうど年一回の闘技大会が行われる。お前も見るといい。絶対に収穫があるぞ。特にお前にはな。」
アイザックはそう言って、俺の手に無理やり闘技大会の観戦チケットを入れてきた。何がなんでも、俺に闘技大会を見せようとしているようだ。だが俺は、他人が戦うことに、あまり興味がない。今まで、戦いとは無縁の生活をしてきたからだ。それに、俺は成長素質がオール1だったことで、何かを競うということに、少なからず嫌悪感があったんだ。
「アイザック、せっかく観戦チケットを手に入れてくれたんだが、俺は、そういうのは、あまり興味がないんだよ。」
俺がそう言うと、アイザックは周りを気にしながら、俺のと距離をつめ、小声で忠告をしてきた。
「カイン、今は、興味があるとか、そういう次元の話をしているんじゃない。闘技大会はお前の裏スキルの、スキルラーニングを生かせる、最高の機会だろう?」
アイザックの忠告を受けて、完全にアイザックの言いたいことが分かった。闘技大会は、実力の高い者が、頂点を目指して戦う大会。当然、戦うときには参加者はスキルを使用する。しかも、闘技大会に参加する者は強者ばかりだ。より強いスキルを使う可能性は極めて高い。俺は、そのスキルを見るだけで使えるようになるのだ。つまりは、闘技大会を観戦するだけで、参加者全てのスキルを取得することが可能なのだ。これは、俺の裏スキルの、最も有効な使い方だろう。
しかし、心配な点はある。それは、強力なスキルを取得することで、俺はますます強くなってしまうことだ。闘技大会に出るほどの強者たちのスキルを全て使えるようになるなんて、まさに規格外の強さ。こんなこと、明らかに脅威でしかない。周りに危険視されないだろうか?
「なあ、アイザック。そんなことして、俺を危険視する奴が増えるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だろう。お前は、自分の裏スキルのことを誰にも言わなければいいだけだ。それなら、お前は周りから見れば、ただの観戦者にすぎない。
強力なスキルを大量に手に入れる絶好のチャンスじゃないか。これを生かさないのは勿体ない。もうすぐ会場の時間だ。さあ、行くぞ。」
アイザックに言われて、俺は闘技大会を見に行くことになった。アイザックの言う通り、強力なスキルを大量に手に入れる絶好のチャンスなのは間違いない。
だけど、裏スキルの把握は、かなり面倒なことになりそうだ。この闘技大会はかなり規模の大きなものだ。当然、相当な数の観客が来る。観戦中、俺の視界には、かなりの観客が映るだろう。視界に入った人間全ての裏スキルも、勝手に取得してしまうんだ。どれくらいの数の裏スキルを手に入れるか、想像もつかない。
闘技大会の会場に向かう途中に、アイザックにその事を相談したのだが、
「そんな悩みは贅沢だ。とにかく、闘技大会を見ることだけ考えてろよ。」
と言われてしまったので、俺は仕方がなくアイザックの言う通りにした。
会場に着くと、すでに沢山の観客が来ていた。この闘技大会は自由席なので、俺達も急いで入場受付を済ませて、少しでも良い席を取るために急いだ。席に座ると、会場のモニターに、出場選手一覧が表示されていた。
「カイン、絶対に見ておいたほうがいい奴を四人教える。その四人の戦うところは、絶対に見逃すんじゃないぞ。
『双剣のトーマス』
『怪力のハドソン』
『神速のノーラン』
『最強のレオナルド』
この四人は、他の参加者に比べて、圧倒的に前評判が高い。何せ、世界に数少ない上級職なんだ。特に、『最強のレオナルド』は、優勝候補だ。」
上級職と聞いて、その四人には、確かに興味が湧いた。果たして、上級職の者達は、どれくらい強くて、どんなスキルを使うのだろうかと。アイザックに連れられて仕方なく着いてきたのだが、何だか俺も楽しみになってきている。この四人の試合が待ち遠しくなってきた。
闘技大会開始の時間になり、場内アナウンスで参加者紹介が始まった。アナウンスにて参加者の説明をする際にはモニターには、参加者の顔が表示される。
前評判が高い四人の紹介の時には、ひときわ大きな声援があった。会場の観客は、物凄く興奮しているようだ。
モニターを見ていて気付いたことがある。モニターに映っている人間を見ても、その人の裏スキルは取得できないということだ。スキルラーニングにてスキルを取得する時には、実際に本人を見る必要がある。今回、この闘技大会に来たことで、自分の裏スキルについて大分分かってきたぞ。その点は、アイザックに感謝だな。
全ての参加者の説明が終わると、いよいよ闘技大会が始まった。闘技大会は、参加者16名の、一対一での戦いによる、トーナメントで行われる。前評判の高い四人は、それぞれシードとなり、準決勝まで当たることはない。
早速、第一試合にて、シードてある『双剣のトーマス』が登場した。トーマスが会場に姿を表すと、今日一番の大きな歓声が上がった。トーマスは、その歓声に答えるように、右手を上げて拳を握った。
対戦相手も姿を見せ、遂に第一試合が始まった。すると、トーマスは両手に剣を持ち、右半身を1歩前に出すように、半身に構えた。右手は前に突きだし、剣を縦に構えて、左手は顔の高さにし、剣を水平に構えた。
「あれは、トーマスの職業である『剣闘士』のスキルである二刀流だ。普通の人間がただ二本剣を持つのとは訳が違うんだ。片手で剣を持っても、力強く剣を振ることができるんだ。」
横で、アイザックがトーマスのことを詳しく解説してくれた。トーマスが剣を二本持って構えたところを見ることで、俺も『二刀流』のスキルを取得したことになる。本来は、上級職の『剣闘士』にならないと取得できない『二刀流』を、ただただ見るだけで取得してしまったのだ。
試合が始まると、一分もしない間に決着した。トーマスの強さは相手を圧倒していた。二刀流の攻撃は、圧倒的に手数が多い。相手は、トーマスの怒涛の連続攻撃に、何もできずに完敗したのだった。
だけど、俺の目からすると、トーマスの攻撃と攻撃の間に、いくらでも自分の攻撃を当てる合間があるように思えたんだ。
「なあ、アイザック。さっきのトーマスの攻撃。トーマスは、あまりにも無防備すぎないか?攻撃と攻撃の合間、いくらでもこっちの攻撃を当てられるじゃないか。」
俺がそう言うと、アイザックは相当驚いていた。
「お、お前!あのトーマスの連続攻撃の、どこにスキがあったって言うんだよ。あんな早い攻撃。俺じゃどうしようもないよ。」
アイザックの反応を見ると、トーマスは少なくともアイザックよりは遥かに強いのだろう。でも俺には、トーマスがそんなに強いとは思えなかった。やはり、これは、俺が強くなりすぎてしまったせいなのだろう。さすがに、その事まではアイザックには言わないでおいた。




