準決勝トーマス対ハドソン。そして、決勝戦。
準決勝第一試合、遂に、シード同士の直接対決。
準決勝第一試合。双剣のトーマスと、怪力のハドソンの対決だ。いよいよ、注目同士の直接対決だ。ようやく、優秀なスキルを使ってくれるだろう。二人がスキルを使えば使うほど、俺はそのスキルをどんどんと取得していく。
ステータスだけが上がっても、優秀なスキルがないのでは、強者とは言い難いもの。俺は、二人の対戦に大いに期待した。
試合が始まると同時に、トーマスはバックステップをして、少し距離を置いた。武器を持たないハドソンと、二刀流のトーマスとでは、攻撃範囲が圧倒的に違う。まず、距離をとったトーマスの作戦は、正解だろう。
しかし、距離をとられたハドソンは、不適な笑みを浮かべている。その笑みを見たトーマスは、先程と同じような、半身の構えをとった。
構えをとったトーマスを見て、ハドソンは、足元に右拳を思い切りぶつけた。ドーンという衝撃と同時に、ハドソンの周りは砂煙が立った。おそらく、目眩ましを狙ったのだろう。トーマスは、砂煙が邪魔に感じたのか、さらにバックステップをする。その瞬間、砂煙の中からハドソンが姿を出し、トーマスの右側に回り込んだ。
トーマスの構えは、半身の姿勢で右手を前に出している。つまり、トーマスの右側は、トーマスの構えの唯一の死角となるポイントなのだ。ハドソンは、砂煙を利用して、瞬時にトーマスの死角へと入ったのだ。
死角へと入ったハドソンは、左拳を回り込むようにして横からトーマスの後頭部目掛けて殴りこむ。トーマスは、バックステップのモーション中のため、避けようがない。
ハドソンの攻撃が入ると思ったが、トーマスはハドソンの左拳を、左手の剣を背にして何とか防いだ。しかし、ハドソンの左拳の攻撃が強く、トーマスの左手の剣は弾き飛ばされた。
「ちい。」
一撃で仕留め損なったハドソンは、バックステップをして、一旦距離を置いた。だが、最初の作戦は成功だったと思う。双剣のトーマスの片方の剣を奪うことに成功したからだ。これで、双剣ではなくなったことは、大きな収穫だ。
剣を一本失ってしまったトーマスは、両手で剣を持ち直し、剣を顔の右側に斜めにし構えた。しばしの硬直。会場の観客も緊張している。
「双剣ではなくなった、トーマスがやや不利な状況かな、と思っているだろう、カイン?」
アイザックが試合の分析、解説をいきなりしてきた。本当に解説が好きだな、アイザックは。
「片剣になったトーマスだが、リーチは断然トーマスが有利だ。さっきのハドソンの攻撃は、奇襲に近い。同じような攻撃では、もうトーマスは対処してくるだろう。カイン、お前がハドソンなら、次はどう攻める?」
「ハドソンの突進力は、なかなかの物だと思う。だから、ガンガン前へ行き、距離を詰めて拳を叩き込むしかないと思う。」
実際、ハドソンは素手。距離をゼロにするしか、攻撃手段がないんだ。
「カイン。確かに、ハドソンは距離を詰めるしかないんだが、おそらくトーマスは、そう簡単には距離を詰めさせてくれないぞ。トーマスの職業『剣闘士』には、とあるスキルあるんだ。」
トーマスは、構えから剣を振り下ろそうとしていた。しかし、今のハドソンとの距離では、絶対に攻撃は当たらない。何をしようとしているんだ?
トーマスが剣を振り下ろすと、ハドソンに向かって一直線に砂柱が向かっていく。砂柱が当たるやいなや、間一髪で、ハドソンは横にステップしてかわした。
「あれは?」
「あれは、剣闘士のスキル『飛翔閃』だ。剣闘士の鋭い斬撃は空をも切り裂く。つまりは、斬撃を飛ばしているんだ。」
斬撃を飛ばすだと?ということは、あの砂柱は、トーマスの斬撃で切れた地面の砂埃ということか。思いもしなかったトーマスの遠隔攻撃。これでは拳をゼロ距離で当てるしかないハドソンには、非常に有効だ。斬撃だから、防御もできず、避けるしかない。防御しながらだと、少しずつ距離を詰めることが出来るかもしれないが、避けるしかないとなると、距離を詰めることは出来ない。
片剣になったトーマスが不利になると思ったんだが、これでは、トーマスが勝利濃厚だな。
トーマスは、飛翔閃を連続で繰り出す。ハドソンは、この攻撃を避けるしかなく、何度も避けていくうちに、ハドソンの息が上がっており、徐々にハドソンの動きが鈍くなってきていた。飛翔閃がハドソンに命中するのも、時間の問題だな。
トーマスも、勝利を確信しているのだろう。これまでで一番大きく振りかぶり、飛翔閃を放った。
ハドソンは、覚悟を決めたのか、避けようとしていない。これで勝負あり、と思ったのだが、ハドソンは右拳を腰の後ろ側まで下げた後、一気にトーマスに向けて右拳を突き出した。すると、ハドソンの右拳から、光の玉が出現。トーマスの斬撃を飲み込み、光の玉はトーマス目掛けて飛んでいった。
大きな動きをとって攻撃に出たトーマスは、避ける動作に入ることが出来ずに、光の玉が命中した。その瞬間、小規模ではあるが爆発が起こった。会場一面砂埃が発生。
砂埃が晴れると、うつ伏せになり、倒れているトーマスの姿があった。この試合は、ハドソンの勝利だ。
ハドソン勝利のアナウンスが流れると、ハドソンは右膝をついた。よほど疲れたのだろう。おそらく、ハドソンが最後に放ったあの攻撃は、WPの消耗が激しいのかもしれないな。だから、あそこまで追い詰められるまで使用を控えていたのだろう。決勝に向けて、体力を温存するために。
先程のハドソンの攻撃、取得したスキルで確認したところ、『爆気弾』というらしい。威力は素晴らしいが、WP消耗を考えると、使いどころを選ぶスキルのようだな。
「カイン。すごい試合だったな。二人が使ったスキルは、かなり良かっただろう?」
アイザックの言う通り、俺は、この試合を観戦することで、『飛翔閃』と、『爆気弾』の2つのスキルを取得できたのだ。両方とも、遠距離攻撃のスキルだ。これで、俺の攻撃手段の幅も大きく広がったことになる。
準決勝第二試合は、あっけなく終わった。、神速のノーランの圧勝だった。
これで、決勝戦は、怪力のハドソン対、神速のノーラン、ということになった。
決勝戦を前に、アイザックは何か考え事をしていた。
「アイザック、どうしたんだ?」
「いや、決勝戦は、前評判通りの四人の中から出た2人だ。つまりは、強くなるには、上級職になるのが必須条件だと思ってな。ただ、上級職になるためには、レベルを30まで上げなくてはならない。レベルが30になると、神殿にて、上級職に転職できるようになるんだ。だが、どうやってレベルを30にすればいいんだ?と思ってな。」
「レベル30になるためにはモンスターを倒していくだけでは駄目なのか?」
「いや、そんなことはない。いずれはレベル30になれるのは間違いない。だが、できるだけ早い段階でレベル30になるためには、どうすれば良いんだろうな、とおもったんだ。やはり、冒険者ランクをCに上げ、高難度のモンスター討伐依頼を受けるのが一番か。」
俺達冒険者のランクは、無謀な依頼挑戦を防ぐためにできた制度だ。当然、経験値の高いモンスターの討伐も、高い冒険者ランクが必要になる。早い段階でいかに冒険者ランクを上げるのかが、強くなるための必要条件ということなのだ。
「そのために、カイン。お前の力を貸してほしい。明日から、ガンガン依頼を受けるから、協力頼むよ。なあに、俺が依頼を達成すれば、手伝ってくれたお前も依頼を達成したことになるんだ。俺とお前がパーティーだということでな。」
アイザックは、ただ手伝って欲しいと言うだけではなく、俺の冒険者ランクのことも気遣ってくれていた。アイザックを手伝うことで、俺の冒険者ランクも上がる。これぞ、Win-Winの関係。
「ああ、こちらこそよろしくな。」
「ガハハ!やっぱりお前は良い奴だな。さあ、いよいよ決勝戦だな。」
アイザックとの、今後の予定を決めたところで、いよいよ決勝戦も始まろうとしていた。やや、疲労が残っているハドソンと、万全なコンディションのノーラン。これは、ノーランが圧倒的に有利だ。
実際、ハドソンが万全だとしても、ノーランの速力アップのスキルを使用した動きに、ついていけるのかどうか。
ノーラン有利の予想の中、決勝戦が始まった。疲労が残っているハドソンは、短期決着をするために、一気にノーランとの距離を詰めるために前進した。
ノーランは、ハドソンの狙いが分かっているのか、今までの戦いとは違い、ハドソンとの距離を広げようと後退する。後退するノーランのスピードは、ハドソンの前進するスピードより勝っている。やはり、速力アップのスキルの影響は大きい。
だが、次の瞬間、ハドソンは、急に前進するスピードが上がり、ノーランとの距離を一気に消し去った。
どういうことだ?ハドソンも、速力アップのスキルが使えるのか?あれは、大魔法使いが覚えるスキルではないのか?
距離を詰めたハドソンは、ノーランの腹目掛けて、右拳を叩き込んだ。その衝撃で、後ろに吹き飛ぶノーラン。ハドソンの一撃が見事に決まった。これは、勝負あったか?
「あのハドソンの動きは、武闘家が覚えるスキル『ダッシュ』だ。一瞬だけだが、速力を上げることが出きる。今のように、相手との距離を詰める時に使用する。武闘家のオーソドックスな戦い方の一つだ。
だが、大魔法使いの速力アップとは違い、持続時間がほんの一瞬だけなんだ。もし、あの一撃がかわされていたら、逆に吹き飛んできたのは、ノーランのカウンター攻撃を受けたハドソンだっただろう。」
丁度いいタイミングで、解説魔のアイザックの説明が入った。なるほど、ハドソンの動きと、ノーランの動きは、別々のスキルというわけか。
決着が着いたかに思えたのだが、ノーランは何とか立ち上がった。立ち上がったハドソンは、ノーランを警戒し、深い構えをとった。
「なるほど、ノーランは、『体力アップ』のスキルも使っていたのか。それで防御力が上がり、ダメージを軽減できていたんだな。それにしても謎だな。一体、いつの間に『体力アップ』のスキルを使っていたんだ?さっきの後退する動きは、まさしく速力アップした動きだったのに。」
アイザックの疑問は、俺も思っていたところだ。一回戦の時もそうだった。ノーランは、速力と腕力アップの2つのスキルを使っていたんだ。疑問に思った俺は、ノーランを鑑定し、スキルを確認した。すると、ノーランは、『スキル複数同時発動』というスキルを所持していることが分かった。だから、複数の能力値を上げることが出来ていたのだ。俺は、そのことをアイザックに伝えた。
「なるほど、スキル複数同時発動か。なんて万能性の高いスキルなんだ。それなら、攻撃パターンが広がるな。」
ノーランが立ち上がってからは、暫く膠着状態が続いた。追撃しようにも、会心の手応えだった一撃を受けても立ち上がるノーマンを見て、ハドソンは警戒していた。何より、ハドソンは疲労が溜まっている。残りの攻撃回数も、限りがあるのだろう。
ノーランも、体力アップでダメージを軽減してはいるのだが、ハドソンの一撃は、相当重かったようだ。見るからにダメージを受けており、なかなか動けないでいたのだ。
互いに決め手をかく状況だったのだが、この膠着状態を利用してはノーランは強い呪文の詠唱を完成させていたようだ。
ノーランの周囲に、色の違う宙に浮かんだ槍が、数本いきなり表れた。
「あ、あれは、エクスプロードランスに、サンダーランス、それに、アイスランスまで!」
宙に浮かぶ槍を見て、アイザックは得意の解説をしながら驚いていた。赤い槍がエクスプロードランス、黄色の槍がサンダーランス、青い槍がアイスランスで間違いないだろう。
「あの魔法は、とにかくとんでもない速さで発射され、相手を貫くんだ。まさに、神速のノーランが使う魔法といったところか。三属性を同時に出すことにより、属性防御をさせないつもりなのだろう。」
ノーランは、さらに、槍の数を増やしていき、全部で15本までの数になった。当然、全ての槍は、ハドソンに狙いをつけている。
15本の槍を見ても、ハドソンは諦める様子はなく、爆気弾の構えをとった。消耗の激しい爆気弾では、あれだけの数の槍に対抗できるはずがないのに。
ノーランの槍が、次々と放たれた。槍がハドソンに当たる寸前に、ハドソンはダッシュのスキルを使いかわしていく。1本、2本、3本、4本、と、どんどんかわすことに成功していく。そして、かわしながらも、徐々に、二人の距離は縮まってきていた。13本、14本、そして、最後の15本目の槍の全てを、ハドソンはかわすことに成功したのだ。しかし、ハドソンは、驚愕の表情をしていた。ハドソンの目の前には、ノーランの姿はなかったのである。
なんと、ノーマンの15本の槍の魔法は囮だったのだ。ノーランは、15本の槍に紛れて、ハドソンの後ろをとっていたのである。ハドソンの背中に、渾身の一撃を叩き込むノーラン。ノーランの一撃を受けて、ハドソンは遂に力尽き倒れた。
こうして、闘技大会は、ノーランの優勝で幕を閉じたのだ。




