直球という名の魔球
感覚だけ加速していく―――
不思議な感じだった。まるで重力から解放されるような、それでいて何かに束縛されるような両極な感覚がした。
そして、ゆっくりと意識も加速していく。
二球目、平戸はストレートで来る。
今まででストレート以外はこなかった。それでも抑えられる、それほどの逸材。
針の穴に糸を通すコントロールでも、大きく曲がる変化球でも、連投してもへたれることのないスタミナでもなく、何よりもこの『ストレート』こそが平戸という投手のすべてを物語っていた。
分かっているのに打てない。
当てにいけば凡打となり、強く振れば当たらない。
無理に振るスイングで当てたときは、バットが使い物にならなくなった。
そのストレートが迫ってくる。
左足を力強く踏み込み、右足で勢いよく地面をえぐる。
だが、腰を回す直前で無理やり止める。
ほんの少しだけ高い。
大体の球審ならストライクのジャッジだが、今日の球審は高目を厳しく判断する。
いやらしい配球だった。ほんの少しの球審の差すら利用する。
それほど全力で闘っている。
勝てる勝てないじゃない、純粋に楽しいと思える。
そんな意味の笑み。顔には自然にそんな笑みが張り付いていた。
一瞬だけだが、平戸もマウンドの上で笑っているように見えた。
それからはただ、投げては打ち投げては打ちの繰り返し。
楽しい時間が続くことを願って、ただ無理やりでもすべての球をはじいていく。
もう何球打ち返したのだろうか。
一瞬のようで永遠に続いたような、そんな気がした。
球場全体は静かに、それでいて興奮していた。
完全試合がかかっている。歴史的瞬間に立ち会えるか、それとも最後の最後で打たれるか。
いつまでもいたちごっこを続けるわけにはいかない。
この打席の前に既に80球近くほうっている平戸はそろそろ、限界が近いはずだ。
―――勝負に来る―――
必ず抑えに来る。打たせないために、完全試合のために。
言い方を変えれば、ストレートで来るということに等しい。さっきまではじいていたのも、すべて変化球だった。そこまで、ストレートを投げていないのは、二球に投げたストレートの感覚をなくすため。
変化球とはいえ、他の投手と比べ物にならない球威のせいか、手に電流が走るがごとく、痛み出していた。そんなことにもお構いなく痺れ気味の右手でバットを強く握る。
最後の一球という覚悟の球、間違いなくストレートで来ると。
そう平河は直感していた。
次の更新予定は次週金曜日です。




