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アルトたちは、案内された魔力測定室へと向かった。
室内には測定を待つ受験生たちが数人並んでおり、部屋の奥に置かれた台座の上には透明な水晶のような物が置かれていた。受験生たちは順番にそれに手をかざし、測定を行っている。その傍らでは、担当の教師が指示を出しながら測定結果を確認している。
「では、次の方。こちらへどうぞ」
順番が来て、呼ばれたアルトは教師の前に進み出た。
「この水晶に手を置いて、ゆっくり魔力を流してください。力む必要はないですよ。家の魔道具を使うときと同じ感覚で大丈夫ですから」
「わかりました」
アルトは言われたとおり、水晶に右手を添えた。意識を集中させ、体内の魔力を少しずつ流し込んでいく。
すると、水晶の内部が淡く光り始めた。光は徐々に強くなったものの、やがて一定の明るさに落ち着く。
「はい、そこまで。もう手を離していいですよ」
アルトが手を離すと、教師は水晶に浮かび上がった数値を確認し、手元の記録版に入力した。
「魔力量は112。平均より少し多いくらいですね。特に問題はありません」
「112…」
アルトは頷いた。自分の魔力量がどの程度なのか、これまで正確に測ったことがなかったため、少し興味はあったものの、結果を聞いても特別な感慨は湧かなかった。
中等部に進学する12歳前後の子供の場合、魔力量の平均はおよそ80~100程度とされている。そう考えれば、アルトの魔力量は平均よりやや多い。恵まれている方ではあるが、特別な才能を持つ天才というほどではないようだ。
もっとも、魔力量は生まれ持った素質だけで決まるわけではない。成長に伴って自然に増えていくほか、訓練によってもある程度は伸ばすことができる。今後どこまで伸ばせるかは、本人の努力次第でもあるのだ。
「これで測定は終了です。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
礼を言って測定室を出ると、待っていたカイルがすぐに声をかけてきた。
「どうだった?」
「平均より少し多いくらいだってさ。特に問題ないみたい」
「数値は確認した? どれくらいだった?」
「112だって」
「くそっ、負けた! おれ98」
「魔力量を競っても仕方ないだろ」
「少ないより多い方がいいだろ? 筆記試験は負けねーからな!」
魔力測定は、これで終わり。少なくとも、アルトにとっては何の変哲もない、ありふれた検査のひとつだった。
10時からは学力テストが行われる。
試験科目は、読み書き、算術、一般教養。各40分割り当てられ、一教科終わるごとに5分の休憩が入る。
読み書きでは文章の読解や簡単な作文、算術では四則演算や文章問題、一般教養では歴史や地理、自然科学に関する基礎知識などが出題される。
受験者はいずれも初等アカデミーで基礎教育を受けてきた子供たちだ。そのため、難解な問題を解かせるというよりも、初等部で学んだ知識がきちんと身についているかを確認することが主な目的となっている。
とはいえ、アルトもカイルも勉強が得意というわけではない。授業にはそれなりについていけていたし、普段の課題もこなしていたが、試験となると話は別だ。特に得意科目があるわけでもなく、二人とも平均点を取れれば上出来といったところだった。
最初の読み書きでは、文章を読み解く問題に少し頭を悩ませながらも、何とか解答を埋めていく。続く算術でも、計算そのものは問題なかったが、文章問題になると何度か手が止まった。
休憩時間、廊下で顔を合わせたカイルは、どこか疲れた様子で肩を落としていた。
「なあ、あの文章問題、ちょっと難しくなかったか?」
「どれのこと?」
「ほら、最後の方にあったやつ。計算は簡単なのに、何を求めればいいのか分かりにくいやつ」
「ああ、あれな。確かにちょっと難しかったな。てか問題文が遠回しすぎて意味理解すんのに時間かかった」
「だよな。おれ、あれで結構時間を使っちまったよ」
「まだ一般教養が残ってるぞ」
「分かってるよ…。ああ、早く終わんないかな」
カイルのぼやきにアルトが苦笑する。
二人とも決して出来が悪いわけではない。ただ、勉強よりも体を動かしたり、実際に何かを試したりする方が性に合っているのだ。
5分の短い休憩時間はすぐに終わり、最後の戦場である一般教養のテストを受けるため、重い足取りで席に着いた。
一般教養の試験も終わり、午前中の試験はすべて終了となった。時刻は12時をとうに過ぎており、ここから昼休憩となる。
筆記試験を終えた受験生たちは、解放感からあちこちで安堵の声を漏らしている。アルトもようやく一息つき、凝り固まった肩を軽く回した。
「やっと終わった~…」
「思ったより疲れたな」
「だな。とりあえずお昼! 弁当食おうぜ!」
「切り替え早っ」
「腹が減っては戦はできぬってね」
カイルはそう言って、持ってきた弁当を軽く掲げて見せる。弁当からちょっといい匂いがしてきた。
「それもそうだな。どこで食べる?」
「天気いいし中庭に行こうぜ」
「おっけー」
そんな会話を交わしながら、二人は試験会場を後にした。
この後は昼休憩を挟み、午後から面接が行われる。受験生たちはそれぞれ昼食を取った後、指定された時間に面接会場へ向かうことになっていた。
筆記試験とは違い、面接ではどんな質問が飛んでくるのか分からない。アルトも多少の不安と緊張を感じていたが、今からあれこれ考えたところで仕方がない。まずは昼食を取って気持ちを落ち着けようと、カイルを追いかけるように中庭へと向かった。
二人が中庭に出ると、そこにはいくつものテーブルと椅子が並んでいた。昼休憩に入った人たちが大勢集まっており、それぞれ空いている席を見つけては弁当を広げたり、友人同士で談笑したりしている。
アルトとカイルも空いているテーブルを見つけると、向かい合うように腰を下ろした。二人は持ってきた昼食を広げ、さっそく食べ始める。
中庭には大勢の受験生が集まっていることもあり、あちこちから話し声が聞こえてくる。試験を終えたばかりということもあってか、話題の多くは午前中の試験に関するもののようだった。
「なあ、聞いたか? さっきの魔力測定で、とんでもない数値を出した奴がいたらしいぜ」
近くのテーブルから、そんな声が聞こえてきた。
「とんでもない数値って?」
「詳しい数字までは知らないけど、同年代の平均を大きく上回ってたらしいって。測定を担当した先生たちも驚いてたって話だ」
「へえ…。そんな奴がいるのか」
「しかも、ただ平均より高いって程度じゃないらしいぜ。将来は優秀な魔術師になるんじゃないかって、先生たちの間でも話題になってるとか」
どうやら、かなりの逸材がいたらしい。
「そんなにすごい奴がいたのか」
カイルが興味深そうに呟いた。
「魔力量には個人差があるからな。生まれつき多い奴もいるんだろうな」
「いいよなあ。魔力が多いってだけで、将来の選択肢も広がりそうだし」
「魔力が多ければ何でもできるってわけでもないだろ?」
「それはそうだけどさ」
別の方向からも声が聞こえてくる。こちらは筆記試験の話をしているようだ。
「今回の筆記試験、思ったより簡単だったな」
「そうか? 俺は算術の最後の計算問題でちょっと引っかかったけど」
「僕は全部余裕。初等部で習ったことばかりだったし」
どうやら、筆記試験にかなり自信のある受験生もいるらしい。ちょっと鼻持ちならない。
「いろんな奴がいるもんだな」
カイルは周囲の話し声に耳を傾けながら、感心したように呟いた。
「ま、得意なことも人それぞれだろ」
「それもそうだな。俺は俺なりに頑張ったし、あとは午後の面接だけだな」
カイルはそう言って、残りのおかずを口に運んだ。
アルトも頷きながら昼食を続ける。
どうやら、自分たちが思っていた以上に優秀な生徒が集まっているようだ。特に、先ほど話題に上がった魔力量の多い受験生には少し興味を引かれたが、今のところ名前も顔も分からない。
いずれ顔を合わせる機会もあるかもしれない。
そんなことを考えながら、アルトは午後の面接に備えて昼食を済ませることにした。




