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グレイスフィールドの風  作者: 青葉
冬至の光市と占い師
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28/38

㉘


 クレープを食べ終わり、巡回を続けるテオたちと別れ、アルトとカイルは再び夜市の賑わいへと足を向けた。

 たくさんの人が行き交う中、ふと視線の先、奥まった木陰に隠れるようにひっそりと佇む天幕が目に留まる。そこだけ夜市のざわめきから切り離されたように、静かな空気が漂っている。

 中が見えないように全体に紫色のドレープがかかっており、見るからに怪しげだ。

「なんだろ、あの店」

「看板がある…光占い、だって」

 二人は不思議な力に引き寄せられるように近づいていき、天幕の中へ足へ踏み入れた。


 薄明りの中、奥には白いローブをまとった女性が座っていた。

 深くフードを被り、わずかに見えるのは形の整った口元だけ。机の上には、こぶし大ほどの透明な水晶が置かれている。

「いらっしゃい、小さなお客様」

 耳に届くのは、柔らかな落ち着いた声。

「ここでは光占いをしています。一人銅貨3枚。占ってみますか?」


 アルトとカイルは返事をするのも忘れ、ただ無言のまま天幕の中をぐるりと見回した。

 女性の後ろに置かれた棚には無数の小瓶が整然と並んでおり、その中には淡い光が漂っている。それはまるで水面に映る月や星々のように、不安定に揺らめいていた。


 二人の視線の先に気づいたのか、女性が静かに口を開く。

「この瓶の中身は『巡り星』の光を封じたもの。巡り星とは時の精霊の記憶の残滓。数多の可能性を寿ぎ、導くもの」

「え…?」

「巡り星…?」

 掴みどころのない説明を淡々とされ、アルトとカイルは思わず間の抜けた声を出してしまった。

 戸惑う二人を前に、女性は唯一見える口元を笑みの形にして、もう一度問いかける。

「占ってみますか?」


「ええっと…何を占ってくれるの?」

 アルトが恐る恐る尋ねると、女性はゆったりとした口調で答えた。

「何でも。明日の運勢でも、恋占いでも、失くし物の所在でも。あなたが知りたいことなら」

「え~…でも、おれ別に占ってほしいこととかないかな…」

「おれも別に…」

 カイルが肩をすくめ、アルトも同意するように首を横に振った。

「…じゃ何でここ入ったの」

「え…何となく?」

「興味本位?」

 二人は顔を見合わせ、曖昧な笑みを浮かべる。

「……」

 二人の言葉に占い師の女性がフードの奥でそっと目を閉じ、何事かを思案する。五秒ほどの沈黙の後、決意したように口元を引き締め、はっきりと言い放った。

「わかりました、総合的な運勢鑑定を致しましょう…!」

 そう宣言すると、返事も待たずに勝手に水晶に魔力を流して占いを始めた。

「えっ、ちょっ、まっ…」

「占うって言ってない!」

「おひとり銅貨三枚ですので!」

「金取る気満々だこの人ー!」

 水晶の奥で、霧のような光が渦を巻き、柔らかな光が机の上を照らし出す。

 やがて光がパッとはじけ、天幕の中に小さな星屑が舞い散った。


「…あら」

 占い師の女性が何かに気づいたように、小さく声を漏らす。

 キラキラと舞い落ちる光の粒の中、手元で鈍く輝き続ける水晶玉を覗き込んだ。

「霊力の欠片…あなたたちのどちらかに…」

 ゆっくりと顔を上げ、目の前の二人を見比べる。そして、何かを見定めるように目を細めた。

「…黒髪の子の方ね」

「え…な、何?」

 アルトがびくりと肩を震わせる。

「あなた、世界をつなげる鍵を持っているわね。正確には、その可能性を秘めている」

「はぁ…? 鍵??」

「そう、鍵。でもつなげるのはあなたじゃない。でも鍵を開けるのはあなた」

「???」

 アルトの頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。抽象的過ぎて何を言っているのか全く分からない。驚いて固まったままのアルトに代わり、カイルが口を開いた。

「あの、それってどういう意味なんですか?」

 ある意味当然の質問に、女性は口元に笑みを浮かべたまま、どこか楽しそうに、歌うように言の葉を紡いでいく。

「時の巡り、星の巡り、人の巡り。今はまだ気付いてないかもしれない。でも周りをよく見て。大切なものはきっとすぐそばにいる」

 またしても独特な言い回し。そしてその言葉が天幕の空気に溶けると同時に、舞っていた星屑もふっと消えてしまった。

 光が失われ、室内は再び淡い紫の影に包まれる。水晶玉も輝きを止め、ただ冷たい透明さだけを残していた。


 二人は顔を見合わせる。

 占い師の女性はそのまま、何事もなかったようにそっと左手を差し出した。


「一人銅貨三枚」


「…って、結局それかよ!」

「いや、てゆか、おれ占ってもらってない! 支払うのアルトだけだよね!?」

「裏切んのかカイル!」

「あ、もう一人の金髪の子ね。んーっと、今日これから足元に凶相がでてるわね。段差に気を付けて。はい、占った」

「やっつけ占いー!? おれの適当過ぎない!?」

「なんだよここ! ぼったくり占いかよ!」

「ぼったくりなんて失礼ね。まあ、いいわ」

 女性は小さく笑みを浮かべ、声を少し柔らかくした。

「私の光占いに触れていただいたお礼に、巡り星をお譲りいたします」

 その言葉と同時に、後ろの棚に並んでいた小瓶が二つ、ふわりと浮き上がる。そのままアルトとカイルの元へゆっくりと移動し、ふたりが思わず手を差し出すと、その手の中へぽとりと落ちてきた。

「あなたたちと巡りたがっている。連れて行ってあげて」

 手の中の、不思議な光が入った小瓶を覗き込む。瓶の中の光は二人の視線の先、ゆらゆらと揺蕩い続けている。

 

「はい、てことで、銅貨三枚ね」

「…」

「ブレない人だ…」

 あまり納得のいかない占い結果ではあったが、占ってもらったことには変わりない。

 業腹だが占い代金として銅貨を3枚ずつ支払い、ぶつぶつ文句を言いながら二人は天幕を出た。


 夜市の喧騒と灯りが再び視界に広がった、その瞬間――

「うわっ!」

 カイルが見事に段差につまずき、前のめりに転びかけた。

「…マジかよ」

 アルトが口元を引きつらせ、ほんの少しだけ視線を背後に向ける。


 天幕の中の女性の笑い声が、鈴の音のように小さく響いた。







ざっくり貨幣の価値

 銅貨:100円

 銀貨:1,000円

 金貨:10,000円

白金貨:100,000円


※100万以上は紙幣。

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