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グレイスフィールドの風  作者: 青葉
魔導結晶輸送隊護送作戦決行
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18/37

⑱



 襲撃犯たちは庁舎に隣接して建てられた勾留施設へと連行されていった。施設の地下には独房が並び、彼らはそこで拘束されることになる。

 その中でも、アキレス腱を斬られたリーダー格の男は仲間たちから引き離され、応急処置を受けた後、単独で尋問室へと移された。


 今回の襲撃事件で押収された証拠品は、魔導通信機、刻印入りの銀バッジ、そして工房の銘が刻まれたロングソードや短剣。

 魔導通信機の履歴には襲撃前夜に交わされた通信記録が残っており、その通信相手として、はっきりと『R・C』の文字が表示されている。それは、以前巡回ルートを探っていたゴロツキたちの通信履歴にも記されていた符号だ。

 『R・C』とは、裏組織クロノワールの幹部の一人、ラッド・クロウ――その頭文字を使ったものである。


 そして銀バッジにはクロノワールの内部専用の符印が刻印されていた。

 アジトへの立ち入りにはこれが必須であり、これを所持している時点で組織の一員であると言っているようなものだろう。


 さらに襲撃犯たちが所持していた各種武器。刃や柄に刻まれた工房印から、それらが隣町ダスクヘイブンの鍛冶工房製であることが判明している。個人購入の可能性も否定できないが、購買履歴や販売ルートを追えば、武器の卸し先、つまり今回の襲撃の背後にいる人物へと、すぐに辿り着けるだろう。


 黒幕の目星はほぼついていた。だが、襲撃犯のリーダーから直接証言を引き出すには骨が折れるだろうと、長期戦を覚悟していたのだ。


 しかし予想に反し、男はあっさりと口を開いた。

「俺はまだ死にたくねぇんだ」

 そう言って、彼は交渉を持ちかけてきた。

 知っていることをすべて話す代わりに罪を軽くすること、そして、クロノワールの手の届かない場所での保護を条件に、男は自分が知る限りの情報を余すことなく暴露した。




「直接指示を出していたのはラッド・クロウ。今回のリーダー役は奴の直属の部下で、提示された計画をそのまま実行したようです」

 尋問官ダリウス・オルドレンは、先程の尋問室で得た情報を支部長レオニード・ヴァルクへと報告した。

「襲撃の狙いは、交易路を襲撃し物資と人質を確保すること。町を経済的に締め上げ、交易路の利権を奪うのが目的と思われます」

「襲撃に加わったチンピラ共も組織のメンバーか?」

「いえ、できるだけ組織の痕跡を残さないようにと、裏ルートで集めた傭兵崩れのようです」

 ダリウスは首を横に振り、手元の記録版(タブレット)に記録された内容を確認しながら続けた。

「計画では騎士団との交戦が始まり次第、遠方から魔法による支援攻撃が加えられる手筈だったようですが…」

「実際には行われていないんだな?」

 レオニードは眉をひそめ、椅子の背にもたれた。

「はい、終始騎士団側の優勢で、危なげなく奴らを捕縛できたと報告を受けています」

「不利と見て切り捨てたか」

「おそらくは」

 逃げ延びた魔法担当は、すでにこの状況を組織の幹部連中に報告しているだろう。

 奴らが言い逃れの口実を整える前に、こちらから乗り込む必要がありそうだ。


「ふむ…」

 レオニードは顎に手を当てしばし考えた後、傍に控えていた騎士へ視線を向けた。

「レイナスを呼んできてもらえるか」

「はっ」

 騎士は短く答え、素早く部屋を後にした。


 








 グレイスフィールドから早馬で四時間ほどの距離にある隣町、ダスクヘイブン。

 中心街から少し外れた場所にある、比較的大きな造りの建物。そこが、裏組織クロノワールの表向きのアジトだ。

 表面上はカジノ経営のルミナリエ・ホールとして知られ、煌びやかなネオンと笑い声が夜通し絶えない。しかし、豪奢なシャンデリアの下でカードを切る音の裏側には、冷たい取引と密やかな情報戦が渦巻いている。



 魔導灯のランプの明かりが、冷たい石壁と床を照らし出している。中途半端にひかれた厚いカーテンが外の景色を半分隠していた。部屋の上座にある玉座めいた椅子には、クロノワール頭領――ドレイガン・マルロックが悠然と腰掛けている。


「……よくもまあ、ここまで見事にしくじってくれたな」

 低く響く声は、怒りよりも冷笑を帯びている。

 R・C――ラッド・クロウは、額に汗を浮かべながら必死に言い訳を並べた。

「誤算だったんだ、ボス! 護衛が増えてたんだよ、あれじゃ――」

「黙れ」

 その一言で、空気が凍りつく。

 ドレイガンはゆっくりと立ち上がり、ラッドの顎を無造作に指先で持ち上げた。

「お前のせいで、騎士団が俺たちの匂いを嗅ぎつけた。しかも証拠まで残してきやがって…魔導通信機だと?」

 ラッドの喉がひくりと動く。

「俺は……まだ役に立てる。挽回の機会を――」

 ドレイガンは笑った。だがその笑みは氷のように冷たい。

「役に立つ? ああ、立つさ…最後に役に立ってくれ」

「えっ…」

 その言葉が終わるより早く、部屋の隅に控えていた部下たちが音もなく動いた。

 ラッドの両腕を乱暴に掴み、抵抗する彼を引きずるようにして容赦なく暗い廊下へと連れ去っていく。

 いやだ、助けてくれ、という悲鳴は扉の向こうへ消えていった。


「…すべての責任を彼に?」

 傍に立つ秘書が、特に感情の乗らない声で問うた。

「おや? 襲撃の計画を考えたのも実行したのも奴だ。俺は何も知らん」

「…ええ、そうですね。そのとおりです」

 秘書は特に反論などもせずドレイガンの言葉に是を返す。

「ふん…そのうち隣町(グレイスフィールド)から騎士団の使いが来るだろう。うまいことあしらっておけ」

「承知しました、ボス」


 短いやり取りが終了し、部屋に静けさが戻ったその時。

 背後の扉がノックもなく開けられ、軽やかな足音が石床に響いた。

「相変わらず手際がいいな、ドレイガン」

 癖のある艶やかな金髪を揺らし、上質な衣服を身に着けた20代後半ほどの若い男――ルシアン・グリム子爵が姿を現した。


「おや、ルシアン様。お越しとは存じませんでした」

 ドレイガンは即座に愛想笑いを浮かべ、息子ほど年の離れた子爵を迎えた。だがその目は全く笑っていない。それにルシアンは気づく様子もなく、軽く顎を上げて言う。

「ああ、襲撃を失敗したと聞いてな。つい足を運んでしまった」

 不満を隠そうともしない声音で、先程までドレイガンが座っていた椅子に遠慮もなくどっかりと腰掛ける。

「このままじゃ例の計画も始められないだろう。どうするつもりだ?」

「そうですねぇ…時期をずらすのが最良かと」

「ずらす?」

「ええ。今は騎士団に目をつけられている状況ですからな。しばらくは大人しくしておいた方がよろしいかと」

「今回ほど大がかりじゃなければいいんじゃないか? 護衛がいない商隊を狙うとか、孤児院の寄付金とか…」

 すっ、とドレイガンの目が細くなる。

「いいえ、騎士団はおそらくこちらに監視をつけるでしょう。クロムハルト子爵も動き出したようですし」

「…ちっ、クロムハルトが出てきたのか」

「ええ。ですから、ここはしばし大人しくしておきましょう。…しかし、先程の提案、さすがはルシアン様。次に行う計画ではぜひ参考にさせていただきます」

「ん、そうか。そうだろ? 俺って頭いいだろう?」

 ルシアンは得意げに笑い、褒められたと信じて鼻高々だ。


「まあ、そういう話であれば仕方ない。俺もしばらく静かにするとしよう」

 勝手に座っていた椅子から立ち上がり、軽く服の裾を払って部屋を出ようとする。

 扉の前でふと振り返り、ドレイガンに指を突き付けた。

「いいか、騎士団側には俺とお前らが関わっていると気取られるなよ!」

 じゃあ勝手に来るなよ、とはドレイガンも秘書も口にはしない。

「…もちろんですとも、ルシアン様」

「抜かりないようにな!」

 そう言い残し、ルシアンはようやく部屋を出ていった。



「…いい加減、イラつくのですが。あのドラ息子」

 秘書の毒づきに、ドレイガンは肩を揺らして苦笑する。

「まあ、そう言うな。前の子爵ほど頭も固くないし、おだてれば簡単に思い通りに動いてくれる……いい子爵様じゃないか」

「都合がいい、ですか?」

 その言葉に、ドレイガンが冷ややかに笑った。






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