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拘束された襲撃者たちが腕を背中で縛られ、騎士たちに囲まれて連行されていく。
中には悔しげに歯を食いしばる者もいれば、うつむいたまま何も言わない者もいた。
やがて一行が騎士団支部庁舎前に到着すると、そこには支部長レオニード・ヴァルクと尋問官ダリウス・オルドレンが待ち構えていた。
「ご苦労。あとは我々が預かる」
「はっ」
掛けられた声にブランは頷き、縄を握っていた騎士に引き渡すよう指示する。
襲撃者の一人が、最後の抵抗とばかりにレオニードに向かって唾を吐きかけたが、横にいたダリウスが無表情でその顔面を殴りつけ黙らせた。
押収された武器や魔導具は、従騎士たちの手で木箱に詰められ、情報班の待機する詰所へと運び込まれていく。
着々と片付けが進む様子を横目に、ブランはここまで同行してくれた冒険者たちへと振り返り、一礼した。
「今回の護衛任務に参加してくれたこと、心より感謝する。ありがとう」
「いえいえ! こちらこそお世話になりました! 無事に終わってよかったです!」
エリシアが笑みを浮かべながら答える。
「君も参加してくれていたのか…重ねて礼を言う」
ブランの声がわずかに和らぎ、その視線も柔らかくなる。
「エリシア? 隊長さんと知り合いなの?」
親し気な空気を敏感に察知したミーナが、目を丸くして問いかけた。
「えっとね、アルトのお父さんだよ」
「えっ!?」
「アルトの!?」
その言葉に、周囲の冒険者たちも一斉に反応する。どうやら彼らもアルトとは知らぬ仲ではないらしいと気づき、ブランが苦笑する。
「あなた方にもアルトが世話になっているようだ。…愚息が、何かと迷惑をかけていないか心配でね」
「がっはっは! 迷惑なんてとんでもねえ! あいつはいい奴ですよ、隊長さん!」
ゴルドが腕を組み、豪快に笑う。
「ちょっと無茶するけど、そこがまた面白ぇんだ!」
「…無茶、か」
ブランは小さくため息をき、しかし口元にわずかな笑みを浮かべて呟いた。
「昔からそうだ。注意すれば一時はおとなしくなるが、気づけばまた先頭を走っている。まったく、誰に似たのやら」
「…隊長さんとか?」
ミーナがいたずらっぽく口にすると、
「…否定はしない」
ブランは肩をすくめ、少しだけ照れ臭そうに視線を逸らした。
その時、片づけを終えた従騎士の少年が一人駆け寄ってきた。
「フェルナード隊長、報告です。襲撃者たちの身柄引き渡しは完了、押収品はすべて情報解析班へ回しました」
「よし、ご苦労。持ち場へ戻れ」
「はい!」
元気よく返事をして去っていく若い従騎士の背中を見送り、ブランは再び冒険者たちに向き直る。
「本当に助かった。君たちのおかげで、予想よりも早く解決できた。ギルド長にはもう連絡してある。ギルドに戻ったら報酬を受け取ってくれ」
「また合同任務があったら参加させていただきますね!」
エリシアが元気に答え、それに合わせてゴルドもうなずく。
「そん時はアルトも騎士になってるかもな」
ブランはその言葉に、ほんの一瞬だけ遠くを見るような眼をした。
「…それは…楽しみだな」
零れた声には、父としての想いと、まだ見ぬ未来への期待が静かに滲んでいた。
騎士団庁舎を後にした冒険者6人は、そのままギルドへ向かって歩きだした。冷えた空気の中、石畳を踏みしめる複数の足音がやけに大きく響いてくる。
時刻は既に夕暮れ時。ついさっきまで朱色に染まっていた空は、今や濃い群青色へと変わりつつあった。街灯の明かりがぽつぽつと灯り始め、橙色の光がうっすらと積もる雪を柔らかく照らす。
「ふぅ……やっと終わったな」
ゴルドが腕を大きく回すと、肩の奥でバキンと音が鳴った。戦いの緊張が解け、普段の空気がやっと戻ってきた感じだ。
「でも、思ったより早く片付いたよね」
ミーナが吐息を白く散らしながら言うと、その言葉にエリシアが小さくうなずき、少しだけ眉を寄せる。
「うーん、敵さんの人数少なかったからかな。なんかあっとゆう間に終わっちゃった。変な感じ」
「事前の説明では、もっと多い予想だったのにね」
リックも襲撃犯の人数が少なかったことに疑問を感じていたのか、エリシアに同意する。
「まあ、探索機であいつら以外敵の気配はなかった訳だし…罠の心配はないとは思うけどね?」
そう言って肩をすくめる。
いずれにせよ、ここから先のことを考えるのは騎士団の役目だ。
「今回の件に関しては俺らの仕事はもう終わりだしな。アルトの父ちゃんたちが、きっと上手くまとめてくれるさ」
ゴルドが笑いながらリックの背中を軽く叩く。その勢いで、リックは2、3歩前によろけ、慌てて体制を立て直した。
「…まあ、こうして無事に帰れたし。俺としてはそれで充分かな」
後方を歩いていたスティングが、手をポケットに突っこんだままぼそりと呟く。
「そうだね。俺はもう、帰ってからの事しか考えてないよ」
リックと同じ弓使いのテリーが、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「あのさ、あのさっ」
ミーナが急に声を弾ませる。
「フェルナード隊長ってメッチャかっこよくない!?」
「おお…急に話題変えてくるな」
その唐突とも言える切り替えの早さに、ゴルドは思わず半歩引いた。
「だーって、見た目も結構イケてるのにあんな優しくて頼りになりそうで…もう、マジ推せる!」
ミーナの瞳は、まるで夜空に瞬く星のようにキラキラと輝いている。
「出た…ミーハーミーナ」
リックがげんなりしながら呟いた。
「……アルトも、あんな風になるのかな」
エリシアがマフラーに顔を半分埋めながらぽつりと呟いた。ゴルドはその横顔をちらりと見て、口の端でにやりと笑った。
「なるだろうよ。あいつ、妙に芯が強ぇからな」
「ふふっ、じゃあアルトは有望株だね」
エリシアは吐息と一緒に笑みをこぼした。
「ふふん…芯の強さなら、僕も負けちゃいないよ?」
横から割って入ったのは、リック・フェザーだ。寒空の下、わざわざマントを大げさに翻し、片足を前に出して妙なポーズを決めている。風がマントの裾を揺らし、本人はそれを絵になると信じて疑わない。
「はいはーい、リックはカッコいいカッコいい」
ミーナがすばらしき棒読みで流すと、そのやりとりにゴルドが肩を揺らして笑った。
「お前の場合、芯より先に見栄が立ってんだよ」
「見栄じゃないよ、『美学』だよ~」
どこまで本気か分からないが、リックが真顔で言い返した。
寒さは相変わらず肌を刺すようだったが、仲間たちのやり取りが、その冷たさを少しだけ和らげてくれるように感じられる。
やがて彼らは冒険者ギルドの扉の前にたどり着いた。中からは普段通り賑やかな笑い声が漏れ聞こえてくる。
「よし、報酬もらって、今日は飲もう!」
ゴルドの提案に、全員が笑顔でうなずき、冷えた手で扉を押し開けた。




