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グレイスフィールドの風  作者: 青葉
魔導結晶輸送隊護送作戦決行
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17/37

⑰



 拘束された襲撃者たちが腕を背中で縛られ、騎士たちに囲まれて連行されていく。

 中には悔しげに歯を食いしばる者もいれば、うつむいたまま何も言わない者もいた。


 やがて一行が騎士団支部庁舎前に到着すると、そこには支部長レオニード・ヴァルクと尋問官ダリウス・オルドレンが待ち構えていた。

「ご苦労。あとは我々が預かる」

「はっ」

 掛けられた声にブランは頷き、縄を握っていた騎士に引き渡すよう指示する。

 襲撃者の一人が、最後の抵抗とばかりにレオニードに向かって唾を吐きかけたが、横にいたダリウスが無表情でその顔面を殴りつけ黙らせた。

 押収された武器や魔導具は、従騎士たちの手で木箱に詰められ、情報班の待機する詰所へと運び込まれていく。



 着々と片付けが進む様子を横目に、ブランはここまで同行してくれた冒険者たちへと振り返り、一礼した。

「今回の護衛任務に参加してくれたこと、心より感謝する。ありがとう」

「いえいえ! こちらこそお世話になりました! 無事に終わってよかったです!」

 エリシアが笑みを浮かべながら答える。

「君も参加してくれていたのか…重ねて礼を言う」

 ブランの声がわずかに和らぎ、その視線も柔らかくなる。

「エリシア? 隊長さんと知り合いなの?」

 親し気な空気を敏感に察知したミーナが、目を丸くして問いかけた。

「えっとね、アルトのお父さんだよ」

「えっ!?」

「アルトの!?」

 その言葉に、周囲の冒険者たちも一斉に反応する。どうやら彼らもアルトとは知らぬ仲ではないらしいと気づき、ブランが苦笑する。

「あなた方にもアルトが世話になっているようだ。…愚息が、何かと迷惑をかけていないか心配でね」

「がっはっは! 迷惑なんてとんでもねえ! あいつはいい奴ですよ、隊長さん!」

 ゴルドが腕を組み、豪快に笑う。

「ちょっと無茶するけど、そこがまた面白ぇんだ!」

「…無茶、か」

 ブランは小さくため息をき、しかし口元にわずかな笑みを浮かべて呟いた。

「昔からそうだ。注意すれば一時はおとなしくなるが、気づけばまた先頭を走っている。まったく、誰に似たのやら」

「…隊長さんとか?」

 ミーナがいたずらっぽく口にすると、

「…否定はしない」

 ブランは肩をすくめ、少しだけ照れ臭そうに視線を逸らした。


 その時、片づけを終えた従騎士の少年が一人駆け寄ってきた。

「フェルナード隊長、報告です。襲撃者たちの身柄引き渡しは完了、押収品はすべて情報解析班へ回しました」

「よし、ご苦労。持ち場へ戻れ」

「はい!」

 元気よく返事をして去っていく若い従騎士の背中を見送り、ブランは再び冒険者たちに向き直る。

「本当に助かった。君たちのおかげで、予想よりも早く解決できた。ギルド長にはもう連絡してある。ギルドに戻ったら報酬を受け取ってくれ」

「また合同任務があったら参加させていただきますね!」

 エリシアが元気に答え、それに合わせてゴルドもうなずく。

「そん時はアルトも騎士になってるかもな」

 ブランはその言葉に、ほんの一瞬だけ遠くを見るような眼をした。

「…それは…楽しみだな」

 零れた声には、父としての想いと、まだ見ぬ未来への期待が静かに滲んでいた。




 

 騎士団庁舎を後にした冒険者6人は、そのままギルドへ向かって歩きだした。冷えた空気の中、石畳を踏みしめる複数の足音がやけに大きく響いてくる。

 時刻は既に夕暮れ時。ついさっきまで朱色に染まっていた空は、今や濃い群青色へと変わりつつあった。街灯の明かりがぽつぽつと灯り始め、橙色の光がうっすらと積もる雪を柔らかく照らす。


「ふぅ……やっと終わったな」

 ゴルドが腕を大きく回すと、肩の奥でバキンと音が鳴った。戦いの緊張が解け、普段の空気がやっと戻ってきた感じだ。

「でも、思ったより早く片付いたよね」

 ミーナが吐息を白く散らしながら言うと、その言葉にエリシアが小さくうなずき、少しだけ眉を寄せる。

「うーん、敵さんの人数少なかったからかな。なんかあっとゆう間に終わっちゃった。変な感じ」

「事前の説明では、もっと多い予想だったのにね」

 リックも襲撃犯の人数が少なかったことに疑問を感じていたのか、エリシアに同意する。

「まあ、探索機(スコープ)であいつら以外敵の気配はなかった訳だし…罠の心配はないとは思うけどね?」

 そう言って肩をすくめる。

 いずれにせよ、ここから先のことを考えるのは騎士団の役目だ。


「今回の件に関しては俺らの仕事はもう終わりだしな。アルトの父ちゃんたちが、きっと上手くまとめてくれるさ」

 ゴルドが笑いながらリックの背中を軽く叩く。その勢いで、リックは2、3歩前によろけ、慌てて体制を立て直した。


「…まあ、こうして無事に帰れたし。俺としてはそれで充分かな」

 後方を歩いていたスティングが、手をポケットに突っこんだままぼそりと呟く。

「そうだね。俺はもう、帰ってからの事しか考えてないよ」

 リックと同じ弓使いのテリーが、穏やかな笑みを浮かべて言った。


「あのさ、あのさっ」

 ミーナが急に声を弾ませる。

「フェルナード隊長ってメッチャかっこよくない!?」

「おお…急に話題変えてくるな」

 その唐突とも言える切り替えの早さに、ゴルドは思わず半歩引いた。

「だーって、見た目も結構イケてるのにあんな優しくて頼りになりそうで…もう、マジ推せる!」

 ミーナの瞳は、まるで夜空に瞬く星のようにキラキラと輝いている。

「出た…ミーハーミーナ」

 リックがげんなりしながら呟いた。

 

「……アルトも、あんな風になるのかな」

 エリシアがマフラーに顔を半分埋めながらぽつりと呟いた。ゴルドはその横顔をちらりと見て、口の端でにやりと笑った。

「なるだろうよ。あいつ、妙に芯が強ぇからな」

「ふふっ、じゃあアルトは有望株だね」

 エリシアは吐息と一緒に笑みをこぼした。

「ふふん…芯の強さなら、僕も負けちゃいないよ?」

 横から割って入ったのは、リック・フェザーだ。寒空の下、わざわざマントを大げさに翻し、片足を前に出して妙なポーズを決めている。風がマントの裾を揺らし、本人はそれを絵になると信じて疑わない。

「はいはーい、リックはカッコいいカッコいい」

 ミーナがすばらしき棒読みで流すと、そのやりとりにゴルドが肩を揺らして笑った。

「お前の場合、芯より先に見栄が立ってんだよ」

「見栄じゃないよ、『美学』だよ~」

 どこまで本気か分からないが、リックが真顔で言い返した。


 寒さは相変わらず肌を刺すようだったが、仲間たちのやり取りが、その冷たさを少しだけ和らげてくれるように感じられる。

 やがて彼らは冒険者ギルドの扉の前にたどり着いた。中からは普段通り賑やかな笑い声が漏れ聞こえてくる。


「よし、報酬もらって、今日は飲もう!」

 ゴルドの提案に、全員が笑顔でうなずき、冷えた手で扉を押し開けた。





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