【第8話】月下の戦い
開始の合図が鳴った瞬間、
レオスの姿がふっと消えた。
(……速い!)
観客席からどよめきが起こる。
対戦相手の剣士が反応するより早く、
レオスの左手が剣を操り、
鋭い軌道を描いた。
キィン!
火花が散る。
金属がぶつかる高い音が夜空に響く。
(この音……この速さ……)
セレナは目を離せなかった。
レオスの剣筋は、
ただ速いだけではない。
左手で扱っているとは思えないほど正確で、
無駄がなく、
まるで“流れる水”のようにしなやかだった。
対戦相手が大きく踏み込む。
レオスは一歩だけ後ろへ下がり、
砂を軽く払うように足を滑らせる。
その動きが、
あまりにも美しくて、
観客席から息を呑む音が漏れた。
(……これが、レオス様の戦い)
静と動。
光と影。
月光に照らされた剣が、
弧を描くたびに光を散らす。
相手の剣が振り下ろされる。
レオスは左手で柄を トン と叩いた。
(……え?)
その瞬間、
レオスの動きが変わった。
迷いのない、鋭い軌道。
痛みを押し殺すような強さ。
観客席が一気に沸き立つ。
「すごい……!」
セレナの胸が震える。
そして——
決着。
相手の剣が弾かれ、
砂の上に落ちた。
レオスは静かに剣を持ち上げ、
シュッ と音を立てて鞘に収める。
その所作は、
戦いの激しさとは対照的に静かで、
まるで儀式のように美しかった。
(……レオス様)
セレナの胸の奥で、
何かが静かに、確かに揺れた。




