【第26話】話を聞いてほしい
月光が、仮面の縁を照らしていた。
レオス様の指が、
その仮面をゆっくりと持ち上げる。
胸が苦しくて、息ができない。
そして——
仮面が外れた。
黒い仮面の下から現れたのは、
金の髪。
見慣れた横顔。
いつも、隣で見ていた人。
「…………え」
声にならない声が漏れた。
観客席がざわめく。
「第二王子殿下……!?
レオスは……殿下だったのか!?」
でも、そんな声は遠くに聞こえた。
セレナを取り巻く世界だけが、
完全に静止していた。
(嘘……
嘘……
そんな……)
レオス様が。
わたくしの推しが。
あの漆黒の剣士が。
ヘリオス殿下だったなんて。
足が震える。
心臓が痛い。
頭が真っ白になる。
殿下は仮面を手にしたまま、
ゆっくりと国王陛下の前に進み出た。
そして——
跪いた。
その姿は、
いつもの優雅な王太子ではなく、
どこか不器用で、
必死で、
胸が締めつけられるほど真剣だった。
「……僕の望みは」
殿下の声が震えていた。
殿下が震えるなんて、初めて見た。
「セレナ・アルディスに——
もう一度だけ、話を聞いてもらうことです」
完璧な言葉ではなかった。
王太子らしい威厳もなかった。
ただ、
ただひたすらに、
セレナだけを見ていた。
胸が熱くなる。
息が詰まる。
そして、涙が溢れた。
理由なんて分からない。
でも止まらなかった。
殿下はゆっくりと立ち上がり、
観客席のセレナを見つめた。
その瞳は、
いつもよりずっと弱くて、
ずっと強かった。
(……殿下)
もう何も分からなかった。
ただひとつだけ確かなのは——
この瞬間、世界で一番泣いていたのは、セレナだった。




