【第25話】月下の決勝
夜の闘技場は、月光に照らされて神秘的だった。
観客席のざわめきが遠くに感じるほど、心臓は激しく脈打っていた。
(……レオス様)
「決勝戦——レオス選手、入場!」
漆黒の剣士が月光を背に歩み出る。
胸元のデルフィニウムが、夜風に揺れた。
対戦相手は歴代最強と名高い剣士。
その剣が振り下ろされた瞬間——
「っ……!」
レオス様が押される。
昨夜の左手の傷をかばうように体勢が崩れ、
砂が舞う。
(危ない……!)
胸が締めつけられる。
その瞬間だった。
レオス様の左手が、柄を軽く「トントン」と叩いた。
(……え)
昨日も見た、あの癖。
幼い頃、稽古の後に殿下が無意識にしていた仕草。
胸がざわつく。
次の瞬間、
レオス様の動きが変わった。
痛みを押し殺すように、
迷いを断ち切るように、
鋭く、速く、強く。
観客席がどよめく。
「すごい……!」
わたくしも息を呑んだ。
そして——
勝負が決まった。
相手の剣が弾かれ、
砂の上に落ちる。
勝利の瞬間、
レオス様は剣を静かに持ち上げ——
「シュッ」
風を切るような鋭い音を立てて、
鞘に収めた。
(……この音)
幼い日の記憶が、鮮明によみがえる。
——訓練場で聞いた、あの音。
——殿下が剣を収めるときの、あの音。
胸が苦しくなる。
そして、
レオス様は深く一礼した。
それは、
王族だけが行う、あの独特の所作。
(……そんな)
頭の中で、
レオス様とヘリオス殿下の像が重なりかける。
(まさか……)
レオス様がゆっくりと顔を上げ、
わたくしの方を見た。
心臓が跳ねる。
そして——
仮面に手をかけた。
(やめて……
見たくない……
でも……見たい……)
月光が仮面の縁を照らす。
仮面が、外れようとした。




