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【第2話】ひだまりの笑顔が苦手……のはずなのに

サロンに満ちる香りは、

上質な茶葉と焼き菓子の甘い匂いだった。


けれどセレナにとっては、

そのどれよりも――


目の前の第二王子ヘリオスの“距離の近さ”のほうが、

よほど落ち着かない。


「セレナ嬢、こちらの茶葉はお好きですか?」


「……ええ。香りが良いと思います」


いつも通り、丁寧で冷静な返答。

氷の令嬢と呼ばれる自分にふさわしい声色。


けれど胸の奥では、


(ち、近い……!

 どうしてそんな自然に微笑めるの……)


と、別の声が震えていた。


ヘリオスは、誰に対しても柔らかい。

陽だまりのような、あたたかい笑顔。


それが苦手だったはずなのに――

今日はなぜか、胸の奥が落ち着かない。


(……なんで、こんなに緊張しているのかしら)


「セレナ嬢は、今日もお美しいですね」


「……殿下。お世辞は不要です」


「お世辞ではありませんよ」


ヘリオスは、少しだけ困ったように笑った。

その笑顔に、セレナの心が一瞬だけ跳ねる。


(……え? 今の……何?)


理由の分からないざわつきが胸に広がる。


沈黙が落ちる。

けれど気まずさはない。

ヘリオスは静かに紅茶を口に運んでいる。


セレナはそっと視線を落とした。


(……夜になれば、レオス様に会えるのに)


推し活のことを考えると胸が高鳴る。

しかしその高鳴りは、ヘリオスの前では決して見せられない。


「セレナ嬢。何か気になることでも?」


「い、いえ。何でもありません」


(推し活のことなんて言えるわけないでしょう……!)


そのとき、

ヘリオスの左手の指先が、机を トン、トン と叩いた。


小さな音。

けれどセレナの胸には、妙に引っかかった。


(……退屈しているのかしら?

 でも……何か違う気もする……)


理由の分からないざわつきが、胸の奥に残った。


お茶会は穏やかに終わり、

セレナは深く礼をしてサロンを後にする。


廊下に出た瞬間、

胸の奥に溜め込んでいた息をそっと吐き出した。


(……疲れた。

 でも、今夜はレオス様に会える……)


その瞬間だけ、

氷の仮面はふっと溶けて、

少女のような笑みがこぼれた。


(どうして……殿下の前だと、あんなに落ち着かないの……?)


その問いの答えは、

まだ誰にも分からない。

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