表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/30

【第18話】左手の記憶(ヘリオス視点)

夜の訓練場は、月光だけが頼りだった。

静寂の中、剣を振るたびに空気が震える。


(……また、来てくれていた)


弓張月の夜。

闘技場の観客席に、変装したセレナの姿を見つけた瞬間——

胸の奥が熱くなった。


本当は、もう出場するつもりはなかった。

剣の腕を磨くために始めた“レオス”としての戦いは、

数回で終えるはずだった。


だが。


(……彼女が、見てくれている)


その事実が、すべてを変えてしまった。


剣を握る左手に力が入る。

セレナが見てくれるのは、

ヘリオスではなく“レオス”としての自分。


(本当の僕は……彼女を苦しませてしまうだけなのに)


胸が痛む。

それでも、彼女の視線が欲しい。


「……情けないな、僕は」


自嘲気味に呟き、剣を構え直す。


明日は、王城主催の武術大会。

国王が優勝者の望みを叶えるという、特別な大会。


(この大会で優勝すれば……

 堂々と、彼女に告げられる)


本当の気持ちを。

本当の名前を。

本当の自分を。


隠し続けてきた想いを。


だが同時に、胸の奥に重い影が落ちる。


(……セレナ嬢は、レオスを見ている。

 ヘリオスではなく)


嫉妬と自己嫌悪が入り混じり、胸が締めつけられる。


それでも——

彼女の前で、最後に一度だけ正直になりたい。


ヘリオスは、そっと鎧の胸元に触れた。

そこには、彫り直したばかりのデルフィニウムの紋章。


セレナの誕生花。

彼女の瞳の色。


「……これが、僕たちの花だ」


月光が紋章を照らし、青く輝く。


そして、机の上に置かれた紙に視線を落とす。


そこには、

明日の大会で使う“仮名”が記されていた。


セリオス


(……彼女の名前から、一文字だけ)


声に出すと、胸が熱くなる。


「……ずっと、そばにいたかったんだ。

 名前の中にでも」


不器用で、臆病で、情けない。

それでも——

彼女を想う気持ちだけは、誰にも負けない。


シュッ。


ヘリオスは静かに剣を収めた。


(……明日、すべてが変わる)


ヘリオスは月を見上げた。


「セレナ……

 どうか、僕を——見ていてほしい」


その声は、夜風に溶けて消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ