【第17話】武術大会の噂
王都の大通りは、いつもよりざわついていた。
露店の呼び声に混じって、同じ単語が何度も耳に入ってくる。
「武術大会だってよ!」
「国王陛下が優勝者の望みを叶えるって話だ!」
(武術大会……?)
屋敷に戻ると、ちょうどリディアから手紙が届いていた。
“セレナ、聞いた? 今年の大会は特別らしいわよ!”
胸がざわつく。
手紙を読みながら、自然と推し活手帳を開いてしまう。
(レオス様……大会に……?)
ページの端には、これまでの試合のメモがぎっしりと並んでいる。
左手の剣。
デルフィニウムの紋章。
足音のリズム。
そして——
「シュッ」
剣を収めるときの、あの鋭い音。
(……あの音だけは、幼い頃から覚えている)
幼い日の記憶がふっと蘇る。
父に連れられて見た訓練場。
夕暮れの光の中で、ひとりの騎士が剣を収めた瞬間の、あの音。
胸の奥が、なぜか熱くなる。
「セレナお嬢様」
侍女が声をかけてきた。
「王城からお手紙が届いております」
差し出された封筒には、見慣れた紋章。
(……殿下から?)
震える指で封を切る。
“武術大会を一緒に観覧しないか。
もしよければ、隣に座ってほしい。”
胸がぎゅっと締めつけられた。
(どうして……こんなに苦しいの)
推しを見たい。
レオス様の試合を、この目で見たい。
でも——
ヘリオス殿下の隣に座るのは、
どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろう。
「……わたくし、どうしたら……」
推し活手帳を胸に抱きしめる。
そのとき、リディアの言葉が脳裏をよぎった。
(レオス様も出るんじゃない?)
「そんなはず……ないわ」
闘技場の剣士が、国王主催の大会に出るはずがない。
そう言い聞かせる。
でも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
(レオス様……
もし、もし本当に出るのだとしたら……)
セレナはそっと窓の外を見上げた。
弓張月が、薄く光っていた。




