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【第13話】レオスの噂

昼下がりの陽光が差し込むカフェは、

春の風と甘い焼き菓子の香りに満ちていた。


セレナは、向かいに座る友人――

同じ侯爵家の三女、リディアの笑顔を見て、

自然と頬が緩んだ。


「本当に……おめでとう、リディア」


「ありがとう、セレナ。

 まさかお父様が、あの方との結婚を認めてくれるなんて……夢みたい」


リディアの婚約相手は伯爵家の長男。

身分はリディアより下だが、誠実で優しい青年だ。


(……いいな。

 好きな人と、ちゃんと想い合って……)


胸が少しだけ痛む。


リディアは紅茶を口にしながら、

ふとセレナを覗き込んだ。


「ねえ、セレナ。

 王子殿下とは……最近どうなの?」


「っ……!」


セレナは思わずカップを落としそうになった。


「ど、どうも……何もありませんわ。

 わたくしと殿下は……ただの婚約者ですもの」


「ただの、ねぇ……?」


リディアは意味深に微笑む。


(な、なにその顔……)


「わたくしのことはいいの。今日はリディアのお祝いなんだから……!」


セレナが慌てて話題をそらすのを見ながら、

リディアは心の中で思う。


(……殿下のセレナを見る目、どう見ても“ただの婚約者”じゃないのに)


そんな時――

隣の席から、若い女性たちの弾んだ声が聞こえてきた。


「ねえ知ってる? 剣闘士のレオス様!」


「もちろん! 無敗の“月下の黒騎士”でしょ?」


セレナの心臓が跳ねた。


(レオス様……!)


思わず耳がそちらへ向く。


「左手の剣さばきがすごいんだって!」


「わたし、一度でいいから生で見たい……!」


女性たちの黄色い声に、

セレナの胸の奥に小さな棘が刺さる。


(……わたくし……やきもちなんて……)


リディアがくすっと笑った。


「そういえば最近、町ではレオス様の話でもちきりなのよ」


セレナはびくりと肩を揺らした。


「“月下の黒騎士”って呼ばれてるんだって。

 あの胸の紋章……セレナの誕生花と同じデルフィニウムよね?」


「っ……!」


セレナは息をのむ。


リディアは続けた。


「……それに、今気づいたんだけど……

 色までセレナの瞳とそっくりじゃない?」


セレナは固まった。


(……っ!?)


「た、たまたまですわ……!」


慌てて否定する声が震える。


(そんな……偶然……

 偶然よね……?)


胸がざわつく。

苦しいほどに。


レオスの紋章。

デルフィニウム。

青い花。


(……どうして、こんなに胸が苦しいの)


リディアは、セレナの様子を見ながら優しく微笑んでいた。

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