【第12話】二人きりの散策(ヘリオス視点)
庭園に出ると、朝露を含んだ花々が静かに揺れていた。
セレナの家の庭は、王城とは違う温かさがある。
ヘリオスは、隣を歩くセレナをそっと見た。
(……彼女の家の庭は、こんなにも穏やかな場所だったのか)
緊張を押し隠しながら、
自然に話そうと口を開く。
「セレナ嬢の庭園は……どの季節も美しいのだな。
こうして歩くのは初めてだが……とても落ち着く場所だ」
セレナは少し驚いたように振り返った。
「そ、そうでしょうか……?
わたくしは、見慣れてしまって……」
「見慣れていても、美しいものは美しい。
……セレナ嬢は、どんな花が好きなのだろうか」
自然に聞いたつもりだったが、
声がわずかに震えていた。
セレナは少し考え、
恥ずかしそうに答えた。
「わ、わたくし……誕生花のデルフィニウムが好きですわ。
小さくて……でも凛としていて……」
(デルフィニウム……)
ヘリオスの胸が熱くなる。
青い花。
彼女の瞳の色。
そして、レオスの胸に刻んだ紋章の花。
「……とても、セレナ嬢らしい花だと思う」
自然と微笑みがこぼれた。
セレナはその笑顔を見て、
一瞬だけ足を止めた。
(……どうして、今……胸がドキッとしたの?)
自分でも分からない感情に戸惑っている。
ヘリオスは、
その表情に胸が締めつけられた。
歩き出すとき、
ヘリオスは自然な流れで手を差し出した。
「足元が少し悪い。気をつけて」
セレナはその手を見つめた。
じっと、
まるで何かを思い出すように。
(……あ)
ヘリオスは気づいた。
セレナの視線が、
自分の“左手”に向いていることに。
(しまった……)
慌てて左手を引き、
代わりに右手を差し出す。
「……すまない。こちらの方が良いだろう」
セレナは小さく首を振った。
「い、いえ……ただ……
殿下は左利きだったな、と……思い出しただけですわ」
その声はどこか遠く、
胸の奥を探るような響きだった。
(……僕のことを……覚えていてくれたのか)
胸が跳ねる。
痛いほどに。
けれどセレナは、それ以上何も言わず、
そっと右手を添えた。
二人の歩幅がゆっくりと揃っていく。
庭園を渡る風が、花々を揺らし、静かな時間が流れた。
すれ違いながらも、
距離はほんの少しだけ縮まっていく。
(……この時間が、ずっと続けばいいのに)
ヘリオスはそう願いながら、
隣を歩く彼女の横顔をそっと見つめた。




