【第11話】翌朝のざわつき
朝の光がカーテン越しに差し込んでいるのに、
セレナの体はまだ夜の余韻に包まれていた。
(……レオス様……)
名前を思い浮かべただけで、胸が熱くなる。
昨夜の光景が、まぶたの裏に焼きついて離れない。
漆黒の甲冑。
左手の剣。
青い紋章。
そして――
自分の方向を向いた、あの一瞬。
(……夢みたい)
ぼんやりと鏡の前に座っていると、
侍女ミーナがくすりと笑った。
「お嬢様、なんだか……恋する乙女みたいですよ?」
「っ……!?」
セレナは思わず背筋を伸ばした。
「こ、恋なんて……そんな……!」
「だって、顔がずっと赤いんですもの」
(赤い……? そんなはず……)
鏡を見ると、確かに頬がほんのり染まっている。
(これは……違う。違うはず……)
レオスのことを思い出すと胸が高鳴る。
でも、ヘリオス殿下を見ると胸が苦しくなる。
(どうして……こんなに心がざわつくの)
自分でも分からない感情に、胸が落ち着かない。
ミーナが髪を整えていると、
ノックの音が響いた。
「お嬢様、王城より使者が参りました。
……第二王子殿下がお越しです」
「っ……!?」
胸が跳ねる。
理由は分からない。
ただ、ざわつきが一気に広がった。
急いで身支度を整え、
セレナは応接室へ向かった。
扉を開けると、
朝の光を受けた金の髪が目に入る。
ヘリオスが立っていた。
穏やかな微笑み。
けれど、セレナの胸は――
なぜか苦しくなる。
「おはよう、セレナ嬢」
「お、おはようございます……殿下」
ヘリオスは少しだけ眉を寄せた。
「顔色が……良くないように見えるが?」
「い、いえ……大丈夫ですわ。
ただ、少し寝不足で……」
ヘリオスは心配そうに近づいた。
「寝不足……? 熱はないか?」
すっと手が伸びる。
セレナの額に触れようとしたその瞬間――
胸がぎゅっと締めつけられた。
(……どうして、あなたを見ると苦しくなるの)
レオスを見たときの高鳴りとは違う。
もっと複雑で、もっと痛い。
セレナは思わず一歩下がった。
「だ、大丈夫です……!
風邪ではありませんから……!」
ヘリオスの手が空中で止まる。
「……そうか。
無理をしないでほしい」
その声は優しいのに、
セレナの胸はさらにざわついた。
(どうして……こんな気持ちになるの……?)
理由が分からない。
分かりたくもない。
ただひとつだけ確かなのは――
昨夜のレオスの姿が、まだ胸の奥で輝いているということ。
ヘリオスは少し息を整え、
静かに言葉を続けた。
「ちょうど近くへ来る予定があったんだ。
急ではあったが……様子を見に寄らせてもらった。
もしよければ――少し、散歩でもしないか?」
その誘いに、
セレナの胸がまたざわつく。
けれど、断る理由も見つからない。
「……はい。少しだけなら」
小さくうなずくと、
ヘリオスはほっとしたように微笑んだ。
その笑顔に、
セレナの胸はまた苦しくなる。
(……どうして)
自分でも分からない感情が、
静かに、しかし確実に膨らんでいった。




