第6章 「私は優しくあるために、あえて残酷でなければならない」[Part 2 of 2]
「違う!」
青年は、思わず声を荒げた。
「もしお前の言ってることが正しいなら――俺たちは、いつ休めばいい!? いつ、幸せになれるんだよ!?」
言葉は次第に熱を帯びていく。
「お前や……俺みたいなのはいい!」
「でもな――世の中には、もう疲れ切ってる人間がいくらでもいるんだ!」
その声には、苛立ちと、どこか切実な響きが混じっていた。
「はあ!? お兄ちゃん、冗談で言ってるの? 今まで一度も寝たことも、幸せだと感じたこともないの?」
カリナは困惑した表情で問いかけた。
「違う、そういう意味の休みや幸せじゃないだろ、バカ! 俺が言いたいのは――」
青年の言葉を気にも留めず、カリナはそのまま、冷たい声で遮った。
「分かってるよ。誰もが生き続けられるほど強いわけじゃない。逃げることだって、醜くて、重くて、厄介で、最後には魂にも血筋にも刻まれる“罪”になる。」
静かな口調で、カリナは言い切る。
「でも――」
「だからこそ、“心”があるんだよ!」
カリナは、自ら作り出した冷たい空気を打ち破るように声を張り上げた。
「心……?」
青年は眉を上げる。
「そう! 心だよ! 幸せが生まれる場所!」
「心さえあれば、人は幸せになれる!」
「たとえ世界があなたを苦しめて、罵って、踏みつけたとしても――覚えておいて!」
「それでも、その心に生まれる幸せまでは、誰にも支配できないんだから!」
カリナは、青年の胸を指さしながら叫んだ。
その言葉を聞いた瞬間、青年の胸が締め付けられるように痛んだ。
これは――呪いか?
それとも――強制か?
あるいは――誘いか?
(違う……これは……)
かつて、血で満たされ、重く感じていたはずの両手が――
今は、妙に軽く感じられる。
「……心……?」
青年は、小さく呟いた。
そして、幼い頃の記憶がよみがえる。
自由のままに走っていた少年。
何も知らずに笑っていた少年。
愚かさゆえに泣いていた少年。
「だから、忘れないで!」
カリナの声が、その記憶を断ち切る。
「幸せは、自分の中から生まれるもの! 心から! 外じゃない!」
そう言って、カリナは自分の胸を叩き、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ……今まで俺は、自分の“心”を忘れていたっていうのか……?」
青年はかすかな声で問いかけた。
「ははは、もういいよそんなの。さっきのは忘れて!」
カリナはまるで気にした様子もなく笑う。
「だってさ、こんな話を誰かに聞かれたら、きっと“頭のおかしい扇動者”だって言われて、父さんたちに告げ口されちゃうし。」
「あ、そうだ!」
カリナはふと思い出したように声を上げる。
「お兄ちゃん、忘れてるかもしれないけど、絶対に父さんと母さんを怒らせちゃダメだからね。だって――」
その言葉は、不意に途切れた。
「だって……何だ?」
青年は問い返す。
「だって、あの二人、すっごく口うるさいんだから!」
カリナは不満そうに頬を膨らませる。
「自分がちょっと変なのは分かってるけどさ! でもお願いだから、人前で怒るのはやめてほしいんだよね!」
その愚痴を聞いて、青年は思わず笑みをこぼした。
そして目の前の女騎士が、ただの一人の少女でしかないことを、改めて思い出した。
「へえ、意外だな。お前にもまだ羞恥心ってやつがあったんだな。」
青年はからかうように言った。
「はあ!? お兄ちゃん、私を誰だと思ってるの!?」
カリナは胸を張って言い放つ。
「私はね、伝説の“七聖騎士”のリーダーの妹だよ! 私が一歩踏み出せば、みんなが振り向く!」
「私が髪をかき上げれば、みんなが見惚れる!」
「そして私が笑えば、みんな恋に落ちるんだから!」
その言葉を聞いて、青年はぎこちない笑みを浮かべながらカリナを見つめた。
その反応を見た瞬間、カリナの顔が赤くなる。
「ねえ、笑いなよ。」
カリナは命じるように言った。
「ん? なんでだ?」
青年は首をかしげる。
「今の、冗談なんだから! だから笑いなよ!」
「はあ!? 今の全部、冗談だったのか!?」
「当たり前でしょ! 本気であんなこと言うわけないじゃん!」
「でも……その冗談、あんまり面白くないぞ。」
「だから笑えって言ってるの!」
「は……はは……は?」
青年はぎこちなく笑った。
「……」
その作り笑いを聞いても、カリナの表情は変わらない。
むしろ、さらに不満げに頬を膨らませる。
(ああ……怒ってるな……)
青年は心の中でそう思った。
ずっと騒がしくて落ち着きのなかったカリナのせいもあって、
青年は今になって気づく。
この街は――妙に静かすぎる。
以前、セシリアという女と共にこの街へ入ったときは、
もっと活気に満ちていたはずだ。
だが今は――
美しく整えられたこの街は、まるで命そのものを失ってしまったかのように、静まり返っていた。
「はあ……静かすぎるな。なあカリナ、この街がこんなに静かな理由、知ってるか?」
青年は窓の外を見ながら言った。
「前に初めてこの街に入ったときは、どの通りも馬車や人でいっぱいだったのにさ。」
「でも……なんで今はこんなに静かなんだ? まるで死んだ街みたいだな、はは……」
そう問いかける。
「……」
カリナは答えず、ただ隣の窓から夕空を見上げている。
青年は小さくため息をついた。
「なあ……カリナ、聞いてるのか?」
もう一度問いかける。
「……」
それでもカリナは何も言わない。
「つん、つん。」
青年は人差し指でカリナの頬を軽くつついた。
その瞬間――
カリナは勢いよく立ち上がり、鋭く叫んだ。
「アルベルト! すぐに私たちを広場の祭りへ連れていきなさい!」
突然の大声に、青年は驚いて跳ね上がり、そのまま背中を座席の背もたれに強く打ちつけた。
「うわっ!? なんで急にそんな大声出すんだよ!? それにアルベルトって誰だ!? 俺の名前はウォレスだろ!?」
すると前方から、落ち着いた大人の男の声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、お嬢様。しかし奥様からは、まずウォレス様をお屋敷までお送りするよう言われております。祭りは明日でも――」
御者のアルベルトがそう答える。
「バカ言わないで! 明日じゃ祭りは終わっちゃうでしょ!」
カリナは即座に言い返した。
「しかし、お嬢様のご両親がウォレス様のために歓迎の準備を――」
「うーん……それもそうね……」
カリナは顎に指を当てて少し考える。
そして数秒後、ぱんっと手を打った。
「アルベルト、そういえばさ。この前、屋敷の庭で鞭を振り回して遊んでたとき――」
「うちの母さんの大事な植木鉢、割ったよね?」
にやりと笑う。
「なっ!? お嬢様、見ていたのですか!?」
アルベルトの首筋に冷や汗が流れる。
「ふふん、どこに破片を埋めたかも知ってるけど?」
カリナは腕を組み、顎を上げた。
「どうか……それだけはご内密に……奥様に知られたら、私は……仕事を失ってしまいます……!」
アルベルトは必死に懇願する。
「じゃあ――すぐに祭りへ行きなさい!」
カリナは高らかに命じた。
「ですが――」
言い終える前に、
カリナは突然、狂ったように叫んだ。
「お母さーん! アルベルトが植木鉢を壊したよー! まだお菓子を食べられたこと、根に持ってるみたい!」
人気のない通りに、その声が響き渡る。
「お嬢様、どうかそれは……」
アルベルトは困り果てた声を上げる。
「で?」
カリナは短く返す。
「……分かりました。祭りへお連れします……」
アルベルトは小さな声で答えた。
先ほどまでカリナとアルベルトの会話を黙って聞いていた青年は、ようやく口を開いた。
「えっと……本当に家に帰らなくていいのか?」
青年はカリナに尋ねる。
「はあ!? お兄ちゃんまで私に逆らうつもり!?」
カリナは鋭く言い返した。
「いいから黙って、私の言うことを聞いてなさい! 今日は私が、お兄ちゃんをちゃんと休ませて、幸せな気分にしてあげるんだから!」
「はあ!?」
青年は驚いた声を上げる。
(……さっきの話のせいか?)
青年は心の中でそう思った。
そして、“脅迫者”の命令により、馬車は進路を変え――
祭りが開かれている、街の広場へと向かっていった。
「KK:やっほー! みんなが元気で、ずっと幸せでいてくれるといいな! (ノ◕ヮ◕)ノ*:・゜✧」
「???:はあ……気づけばもう第六章か。で、物語の拡張についての話し合いはどうなったんだ?」
「KK:どうやら上の判断で、無理に広げる必要はないってさ。つまり、原作通りでいくってこと。 ┐(´~`)┌」
「???:そうか…… (´・_・`)」
「KK:なんだよその反応。まあ、読者が意見をくれれば、もしかしたら原作よりも長くなるかもしれないし。それに、第一プロジェクトのこと、まだ覚えてるだろ?」
「???:忘れてはないけど……でも、この話がワンショットで終わるのは、やっぱりもったいないよな……」
「KK:まあな……」
「???:……」
「KK:……」
「???:……」
「KK:……」
「???:おい!」
「KK:あっ、そうだ! ごめん! もう時間だった!」
「『えーっと、これまで応援してくれてありがとう、読者のみんな! これからもこの物語の続きを楽しみにしていてくれると嬉しい!』」
「『それと、自分の願いに向かって、これからも頑張り続けてくれ!』」
「『ハヴ・ア・ナイス・ウィーーーク!』」
「ヽ(〃^▽^〃)ノ」




