第7章 「私はこの世で、あなた以外の伴侶を望みません。」[Part 1]
夕日が沈み始め、夕空は徐々に暗さを増していく。街灯も守衛たちによって一つ、また一つと灯されていった。
先ほどまで静まり返っていた街の空気は、広場へ近づくにつれて次第に賑わいを取り戻していく。まるで彼らを導くかのように、白い石畳の街路は街灯の光を反射し、馬車の進む道を淡く照らしていた。
夜の闇を追い払うように色とりどりの魔導灯が灯され、耳をつんざくような音楽が祭りの会場に響き渡る。
やがて馬車は止まり、アルベルトがカリナと青年に降りるよう促した。
青年は慎重に馬車から降りる。
その視線の先に広がっていたのは、壮麗であまりにも美しい祭りの光景だった。
光の鳥が空を舞い、小さな妖精たちが鈴のような音を鳴らし続け、人々や子供たちは楽しげに笑い合っている。
青年はただ立ち尽くし、そのどこか現実離れした幻想的な光景を見つめていた。それはまるで物語の中の国のようだった。
「……すごいな。これが、祭りか……」
青年は小さく感嘆の声を漏らす。
「うん、これが祭りだよ。」
カリナは軽く頷いた。
「まあ、これは小規模なものだけどね……いつか夏の休暇には、もっと大きな祭りにも行けるかもね。」
そう言いながら、彼女は後ろを振り返る。そこには御者席でうなだれているアルベルトの姿があった。
「ねえアルベルト、あなたも一緒に来ない?」
「いや、私はここで待っています……はあ……」
アルベルトは深いため息とともに答える。
「本当に?」
「はあ……本当ですよ。あなた方を屋敷へお送りするはずが、こんな所へ来てしまって……後でご両親に何と説明すればいいのか……」
弱々しくこぼすアルベルトを見ても、カリナはまったく意に介していなかった。
青年はその様子を横目に見てから口を開く。
「なあカリナ、やっぱり家に戻った方がいいんじゃないか? 俺も早く父さんたちに会いたいし……」
「はあ!? 私が楽しむって言ったら、楽しむの!」
即答と同時に、カリナは青年の手を掴んだ。
「ほら、早く! 店の食べ物がなくなる前に行くよ!」
次の瞬間、二人はアルベルトの前から姿を消す。
残されたのは、沈んだままのアルベルトと馬車だけだった。
その後、二人はすぐにアルベルトの存在すら忘れ、祭りの中で食べ、飲み、笑い、思い切り楽しんでいた。
「楽しいな!」
青年が声を弾ませる。
「でしょ!? これが人生だよ、これが幸せ!」
カリナは即座に笑顔で応じる。
「どうして外にあるかも分からない天国を追い求めるの? それより、ここで確かな天国を作ればいいじゃない! みんなが幸せになれる天国を!」
「……あ、ああ! そうかもしれない!」
青年は周囲の喧騒に溶け込みながら答えた。
「これこそが……
俺の神が言っていた天国なのかもしれない……!」
苦しみを呑み込む笑い声。
苦味を蝕む甘さ。
闇を覆い隠す眩い光。
すべてが――
かつて幸福を忘れていた青年にとって、
あまりにも美しく映っていた。
「……ああ……」
「きっとこれは――」
「……神からの報いなんだ……」




