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転生先にマカロンがないからどうにかこうにか作ってみたよ  作者: 櫻木サヱ
甘さの行き先、作り手の行き先

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それでも、手で作る

 工房の窓から、柔らかな朝の光が差し込む。

 オーブンの熱と甘い香りが漂う中、不器用なおじさんは再び泡立て器を握った。

 手首は痛い。腕はだるい。前世なら、もう諦めて寝ていたはずだ。


「……でも、手で作るしかない」


 思い出すのは、あの集落の子どもたちの顔。

 小さな手でマカロンを受け取った時の驚き、そして喜び。

 味の評価ではなく、純粋に「おいしい」と言ってくれた瞬間。


 その感覚が、体の奥を熱くする。

 効率や数字だけじゃ、絶対に再現できないものだった。


 今日もリーネが横に立っている。

 装飾や計量の手際は流石で、見ているだけで心が落ち着く。

 だが、彼女の手は補助。決して代わりにはならない。


 粉をふるい、卵白を泡立てる。

 砂糖を加え、色粉を混ぜる。

 手際は悪いが、ゆっくりでも確かに形になっていく。


「……割れた」


 焼き上がり、形が崩れたマカロンを見てため息をつく。

 だが、リーネがそっと手を添え、装飾で誤魔化してくれる。


「大丈夫です。味はそのままです」


 その言葉に、心の奥で小さな火が灯る。

 手で作ることの意味。

 ここでしか、味わえない温度がある。


 午後、工房にひとりの旅人が訪れた。

 道に迷ったらしい。小さな村から城へ行く途中で、疲れきった顔をしている。


「何か、甘いものでも……」


 そう言われ、無意識にマカロンを差し出した。

 割れていても、形が不揃いでも構わない。


 彼がひと口食べると、顔がほころぶ。


「……ああ、これだ」


 その一言に、不器用なおじさんは肩の力が抜ける。

 味は伝わった。手は疲れても、作る意味が確かにあった。


 夕暮れ、オーブンを消して工房に座る。

 手首の痛みは変わらない。

 だが、胸の中は少し軽くなった。


「数字や効率じゃなくても、作る意味はある」


 リーネが小さく笑った。


「それが、私があなたを信じる理由です」


 彼女の言葉に、思わず頷く。


 効率の悪さも、不揃いさも、失敗も。

 全部、自分の手でしか生まれない価値だった。


 夜が深くなり、星が一つずつ顔を出す。

 不器用なおじさんは、静かに決意する。


(……それでも、手で作る。俺は、作り手として、ここにいるんだ)


 甘さの行き先はまだ見えない。

 だが、作り手の行き先だけは、自分で選べる。

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