同じ形、違う味
異変に気づいたのは、市場に出た日のことだった。
「……あれ」
白い菓子が、並んでいる。
見覚えのある形。
見覚えのある大きさ。
だが、違う。
「……似てるな」
屋台の奥に立つのは、見知らぬ菓子職人。
腕は細く、手際はいい。
「新作だよ!」
「軽くて甘い菓子だ!」
人だかりができている。
「……名前は」
「『白蜜菓』だ」
胸の奥が、少しだけ沈む。
「……来たか」
ガルドが、横で小さく言った。
「予想は、してた」
「……ああ」
並べてみると、違いは分かる。
表面は綺麗。
焼き色も揃っている。
「……器用だな」
一つ、買ってみる。
銅貨三枚。
包みを開け、一口。
「……甘い」
二口。
「……重い」
悪くはない。
だが、三口目で、喉が止まる。
「……これで、終わりだな」
隣で、別の客が言った。
「見た目は、綺麗だね」
「でも、もう一つは、いいや」
その言葉に、少しだけ救われる。
「……似せるのは、簡単だ」
「……続けるのは、難しい」
ガルドが、俺を見る。
「で?」
「どうする」
「……怒らない」
「……作り続ける」
「それでいいのか」
「……いい」
視線を、自分の菓子に戻す。
しぶ甘菓。
表面は、少し歪んでいる。
だが、香りは、負けていない。
「……味で、残る」
そう信じて、呼びかける。
「軽い甘さだ」
「仕事の合間に、どうだ」
一人、足を止める。
二人、止まる。
「……前に、食べた」
「これだ」
声が、繋がる。
夕方。
売れ残りは、少ない。
完全勝利じゃない。
だが、負けてもいない。
片付けの途中。
「……真似、されましたね」
声をかけてきたのは、若い職人だった。
「……ああ」
「……悔しく、ないんですか」
少し考える。
「……悔しい」
「……でも」
「……想定内だ」
「……なら」
「……どうやって、勝つんですか」
しぶ甘菓を見る。
「……勝たない」
「……続ける」
若い職人は、首を傾げた。
「……続けられるのは」
「……不器用なやつだけだ」
そう言うと、彼は少しだけ笑った。
「……変な人ですね」
「……よく、言われる」
城へ戻る道。
夕焼けが、街を染めている。
「……真似されるってのは」
「……広がった、ってことだ」
甘さは、もう一人歩きしている。
「……なら」
「……置いていかれないように、作るだけだ」
不器用でも、歩幅は変えない。




