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「ごめん、ヘレナ……」


エリス様は軽く頭を下げた。


「あ、謝るのは私ですよ! 申し訳ございません! からかっちゃって……」

「い、いいんだよ! ……嬉しかったし」



……お互いに恥ずかしくなり、しばらく沈黙の時間が流れた。


「そ、そうだ! この間読んだ小説なんだけど……」

「え、えぇ!」



「もう夕方だね」

「そ、そうですね」


気が付くと、もう日が落ちる時間になってしまった。

はぁ……エリス様……。

私はエリス様に見とれてしまって、会話の内容は2割くらいしか入っていない。

やはり、私はエリス様の事が……。


「じゃあそろそろ帰るね、今日はありがとう」

「お、お待ちください!」


私は思わず、エリス様を引き留めた。


「な、なに?」

「あ、あの……その……」


私は何を言うべきか分からなかった。

どうしましょう……引き留めたからには何か言わないと……。


「その……エリス様は、その……女性にご興味は……あるのですか?」

「……それ、どういうこと?」

「え、えーっと……その……恋愛……対象とか……」

「え……?」


エリス様は再び顔が真っ赤になった。


「いや、あの、私じゃなくて、お友達が……ご興味があるみたいで……同性に……」

「だ、だよね! そうだよね! あはは……」


どうしましょう……エリス様に変な誤解を与えてしまったのでは?


「ボクは別に……興味があるかないかといえば……ある……かな」

「え……?」

「ボクはほら……男として育てられたから……元々女性と結婚する予定だったんだ。でも弟が産まれてからそれが帳消しになって……ボクは彼女の事、好きだったんだけど……彼女はその後男性と結婚して……」

「……」


どうしましょう……エリス様のお顔が暗くなっていく……。

……昔、女性の恋人がいらっしゃったのですね。

何か元気づけられる言葉を……そうだ!


「あ、あの! エリス様!」

「……」

「私は……エリス様はエリス様のままでいいと考えます!」

「……え?」


恥ずかしい気持ちもあったが、率直な意見を言ってみた。


「エリス様は、その方の事、お好きだったんですよね?」

「う、うん……」

「その気持ちは……別に持ったままでも別にいいと思います!」

「……」

「上手くは言えませんけど……私はそう思いますよ!」


私が個人的な意見を言うと……エリス様は……笑い出した。


「……ふふふ、ボクのまま、か」

「……えぇ」

「ありがとう、ヘレナ。なんか落ち着いたよ」

「ど、どういたしまして……」


……エリス様の笑顔、とてもかわいい。

見た目は男性的だけれども、笑顔はとても女性的で、魅力的だ。

なんでしょう……この気持ちは……やはり、私はエリス様の事が……。


「じゃあボクはそろそろ帰るね、今日はありがとう」

「あ、お見送りします!」


私たちは玄関へと向かった。


「だから掴まなくても……」

「ダメです! 転ぶかもしれませんから!」

「……うん」



「ボクのまま……」


家に帰ると、ボクはヘレナに言われたことを振り返っていた。

……確かに、ボクは男として振舞っていた時の恋人は心の底から好きだった。

彼女も、ボクを男として見てくれていた。

……でも、彼女は男としてのボクを愛していて、女としてのボクを見てくれてはいなかった。

でも、ヘレナは、ボクを両方の目線で見てくれていると、ボクをボクとして見てくれているような……そんな気がする。


「ヘレナ……」


……ずっと思っているこの気持ち。

ボクはやはりヘレナの事が……。


「ダメだ! ボクはもう女だ! 女であるボクが女を愛すなんて……おかしいよ!」


ボクは頭を抱えて自分に言い聞かせた。


『エリス様は、その方の事、お好きだったんですよね?』

『その気持ちは……別に持ったままでも別にいいと思います!』

『上手くは言えませんけど……私はそう思いますよ!』


……ヘレナはそう言ってくれた。

そうだ、別に女を愛そうが、別にいい。

ボクは彼女の事を愛していた、それは彼女が女だったからじゃない。

ボクは彼女そのものを愛していたんだ。

そして今は……。


「ヘレナの事が……」


ヘレナ、もう一回、君に会いたい。

そして、君に気持ちを伝えたい。

……そうだ、今度はこっちから招待状を送ろう。

家に招くよりも……どこか景色がいい所が良いな。

この辺で良い場所は……そうだ!



「エリス様……」


エリス様がお帰りになって既に数時間。

私はずっとエリス様の事を考えていた。

エリス様は見た目はとても男性的だ、でも所々に女性らしさを感じられて……かわいい。


「どうしましょう……エリス様……」


結婚するなら、エリス様のような男性と結婚したい。

でも、エリス様は女性、女性が女性を好きになるなんて……ましてや結婚なんて……。


「……エリス様、私はどうすればいいのでしょう?」


エリス様は……私の王子様なのかもしれません、男爵家のご令嬢なのですが……。


「お嬢様、お手紙が届いております」

「私にですか?」


私宛に手紙が届いたようだった、その内容は……。


『拝啓 伯爵家令嬢ヘレナ・モルドバ―グ様、次の日曜日、我が領地内にあるディディウス海で、語り合いたいと存じます、お返事をお待ちしております。 ピエリス・サーロス』


エリス様だった。

エリス様からの初めてのお手紙……私は歓喜した。

私は返事をすぐに書いた、答えは勿論YESだ。

エリス様にまたお会いすることができる……それだけでも嬉しい。

私は次の日曜日が楽しみで仕方がなかった。



次の日曜日。

お屋敷にエリス様がいらっしゃった。

エリス様はいつもの男装ではなく、白いワンピースをお召しになっていた。

……かわいい。


「お待たせヘレナ! ってうわぁ!?」


エリス様は相変わらずだった。

私は転びそうになったエリス様を支えた。


「大丈夫ですか?」

「ごめん……」


エリス様のドジなところ、私は大好きだ。


「じゃ、じゃあ、行こうか!」

「えぇ」


エリス様にエスコートされ、私は馬車に乗り込んだ。

私は今、エリス様のお隣に座っている……。

近くで見るエリス様は……格段に美しい。

私はエリス様に見とれた。


「な、なに? ヘレナ」

「い、いえ! なんでも!」


私は思わず目線を逸らした。

馬車には気まずい空気が漂っている。

この間会った時にあんな話をしたので……意識されていると思われているのでは?

そう考えると……恥ずかしいですね……。

って! エリス様がそんなこと思われるわけ……。


「ねぇヘレナ」

「は、はい!」

「その……今向かっているディディウス海だけど……」

「え、えぇ……」


エリス様が空気を換えようと話題を振ってくれた。

……あぁもう! 私ったら何をしているのでしょう! エリス様に気を遣わせて!

私は恥ずかしい気持ちを抑えつつ、エリス様と会話を楽しんだ。



「さ、着いたよ」

「は、はい……」


結局また会話の内容を覚えられなかった。

何度話を合わせようと苦労したことか……。


「どうしたの? もしかして……楽しくない?」


エリス様は苦い表情を浮かべている。


「い、いえ! そんなことは! 無いです! ありえません!」

「そ、そう……?」


はぁはぁ……危なかった……。


「じゃ、じゃあ、海を眺めながら……お話でもしようか!」

「は、はい!」


使用人の方がシートを敷き、私たちはそこに座り込んだ。

き、緊張します……ちゃんとお話ができるのでしょうか……?


「そ、そういえば、この間読んだ小説なんだけど……」

「え、えぇ!」



「……もう夕方だね」

「はい……」


またも、お話をしていたら既に陽が沈もうとしていた。

あの時と……同じ……。


「で、ではそろそろ戻りましょうか!」


私がそう言って立ち上がろうとした……その時。

腕が引っ張られるような力が働いた。

ふと腕を見ると……エリス様が私の腕を掴んでいた。


「……エリス様?」

「……ヘレナ……もうちょっと、海……眺めない?」

「え、えぇ……」


私は再び腰を掛けた。

エリス様は未だ私の手を掴んでいる。

……え?


「ねぇ……ヘレナ」

「な、なんでしょう……って……」


エリス様は両手で私の手を掴んだ。


「……ヘレナ」

「え、エリス様……?」


エリス様はまっすぐ私を見つめている。

な、なんでしょう……心臓が高鳴って……。


「ボクの言う事、しっかり聞いて欲しいんだ」

「は、はい……」

「ボク……ヘレナに言われたこと、あれからずっと考えていたんだ」

「私の……言ったこと?」

「うん……ボクはボクだって話」

「はい……」


私は真剣にエリス様の言っていることを聞いていた。

エリス様は……顔を赤くしていた。


「ボクは確かに……前の恋人の事、愛していたんだ。それは彼女が女だからとかじゃなくて、一人の人間として……」

「……」

「……でも、彼女は男としてのボクを愛していたんだ、だからボクが女だと分かると、違う男の所へ行ってしまった」

「……」

「ボクはその時、とても辛かった、悲しかった……女である自分を呪った……でも、ヘレナはボクはボクだと言ってくれた……」


なんでしょう……エリス様は……恥ずかしがっているように見えます……。


「だから……男とか女とか関係なく、ボクとして……この言葉を伝えたい……」

「……言葉?」

「……うん」


私の手を握るエリス様の力が強くなり……私をまっすぐ見つめたまま、エリス様は口を開いた。


「ヘレナ……ボクは君の事が好きだ!」

「……え?」


今……何と仰いました?

エリス様が……私の事を……好き?

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