1
「どの男性も、似たような人ばかりですね……」
ここは貴族の夜会。
私は婚約者探しのために今、ここにいる。
私は「ヘレナ・モルドバ―グ」、モルドバ―グ伯爵家の娘。
お兄様は既に結婚していて、子どもも生まれている。
お父様は「好きな人と結婚しなさい」と仰ってくれた、理由は自身が好きでもない人と政略結婚されたから、らしい。
お母様が聞いたら憤怒するだろう……。
……とは言っても、どの男性も興味をそそられない。
顔は貴族なので皆平等に良い、だがほとんどの人が口にするのは自分の名誉とか財産とか、どこが優れているとか……。
私はそんなものには興味がない、ただ私をまっすぐ見つめてくれて、愛してくれる人がいい……。
とは言っても、そんな男性は現れるわけがない。
現れるわけ……。
……あら? あの男性……何故他の女性とお話しされていないのでしょう?
椅子に座ってただ飲み物を口にしているだけ……?
なんでしょう、すごい気になる。
ちょっと他の人に聞いてみましょう。
「すみません、あの殿方をご存じですか?」
「殿方? あの人は女性ですよ」
「……え?」
「貴方知らないのですか? あの方は……」
話しかけたご令嬢は彼……じゃなくて、彼女について教えてくれた。
彼女はサーロス男爵家の令嬢である「ピエリス・サーロス」様
サーロス家は長らく男の子が産まれず、彼女は男性として育てられたらしい。
……だが、彼女が15歳の頃、即ち10年前に男の子が産まれ、彼女は突然、相手の男性を見つけるように父親から言われたという。
しかし、長らく男性として育てられた影響で、いきなり女性としての立ち振る舞いを行うことができず、相手が見つかっていないらしい。
……辛いでしょうね、いきなり女性として相手を見つけろなんて言われても。
……男性と話すのも飽きましたし、彼女と話をしてみましょう。
「あの……お隣、座ってもよろしいですか?」
「え、えぇ……」
彼女の声は確かに女性にしては低かった。
だが、男性の野太い声とは違い、彼女の声は何故だが落ち着く。
「……お相手、見つかりましたか?」
「いや……どれもボクには合わない、どいつもこいつも偉そうに話しかけてきて嫌だね、そんなんじゃ女性に好かれるわけないのにさ」
「……えぇ、そうですね」
彼女の言っている事には共感できた。
確かに、皆偉そうに私たちに話しかけてくる。
「はぁ……全く、なんで結婚なんかしなくちゃいけないのかな?」
「……確かに、疑問ですね」
「だよね! なんで家の為に好きでもない人を引っ掛けないといけないのかな? ボクはそんなの嫌だね、もしも結婚するなら、ボクが心から好きと言える人としたい」
「私も……結婚をするなら、好きな人としたいですね」
「お、ボクたち意見が合うね!」
「……ですね」
私たちはお互いに笑いあった。
「ボクはピエリス・サーロス! エリスって呼んで!」
「ヘレナ・モルドバ―グと申します、よろしくお願いします、エリス様」
「うん! よろしくね! ヘレナ!」
私たちはお互いに握手をした。
「さて、じゃあ今から飲み物のお替りでもぉ!?」
「エリス様!」
エリス様は立ち上がって飲み物を取りに行こうとしたところ……テーブルの脚に引っ掛かって転倒した。
「いてて……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ご、ごめん……ボクいっつも何かで転ぶんだよね」
もしかしたら……椅子に座りっぱなしだったのはこれが理由!?
……かわいい。
「あはは……ごめん、かっこ悪い所見せちゃったね」
「い、いえ! それよりもお怪我は……」
「大丈夫! ほらこの通り!」
エリス様は一回転して健在であることをアピールした。
「さ、行こうか!」
「え、えぇ……気を付けて歩いてくださいね!」
「大丈夫だって、足元に気を付けぇ!?」
エリス様が転びそうになったので、私はすかさず抱えた。
……周りを見ると、皆私たちに注目していた。
「だ、大丈夫ですか? エリス様」
「だ、大丈夫……ありがとう……」
エリス様は周りに注目されるのに慣れていないのか……顔が真っ赤になっていた。
……かわいい。
私はエリス様を立ち上がらせた。
「さ、さぁ! 行こうよ! ヘレナ!」
「えぇ……」
エリス様は顔を真っ赤にしたまま、歩き出した。
「エリス様、前!」
「え? うわぁ!?」
◇
飲み物を取りに行き、私たちはお互いについて話すことにした。
「へぇー、ヘレナの趣味って読書なんだ、ボクもなんだ!」
「そうなのですか?」
「うん! ファンタジーとか冒険譚を読むのが好きかな」
「私もです! 実は同性でそれを読んでいる人が少なくて……」
「そうなんだ、あと男性に趣味を話すとドン引きされるから困っちゃうんだよねー」
「ほんとそうですよね!」
なんと、私たちは趣味が同じなようだった。
私たちはそのまま、最近読んだ本について語り合った。
そして気が付くと……夜会のお開きの時間になった。
「もう終わり!? 早いね」
「とても楽しい時間でしたよ、エリス様」
「ボクも! すごい楽しかった!」
……なんだろう、エリス様と別れるのがとても辛い。
こんなに楽しい時間を過ごしたのはいつ以来だろうか?
もう一度会いたいですね……。
「あの、エリス様」
「何?」
「今一度……お会いしたいのですが……今度、私の家に来ていただけないでしょうか?」
「……うん! いいよ!」
「では、明日、招待状を送りしますね!」
「待ってるね! ヘレナ!」
私たちは再会を約束して、帰路に就くことにした。
◇
「……エリス様」
私は帰りの馬車の中で、エリス様の事を考えていた。
エリス様は男性にはない物を持っているように見える。
気品のある男装、性格も口調も男性的なのですが……おっちょこちょいなところがあってかわいい。
エリス様の事、もっと知りたい。
趣味は知ったので、今度は……好きな異性のタイプとか、好きな人とか……。
って私ったら何を考えているのでしょう!
エリス様は女性なんですよ!
でも……エリス様が男性だったら……お付き合いしたいですわ。
エリス様……。
「お嬢様、お屋敷に到着いたしました」
「え!? あ、はい!」
エリス様の事を考えていたら、既に屋敷に到着していた。
エリス様は、私の事、どう思っているのでしょう……?
◇
「ヘレナ……」
帰りの馬車の中で、ボクはヘレナの事を考えた。
まさかファンタジー小説好きの人と出会えるなんて、思ってもみなかった。
ヘレナ……かわいい女性だったな。
ボクのお嫁さんにしたい……ってダメダメ! ボクはもう女なんだ! 相手は男性じゃないと……。
でも……ヘレナは魅力的な女性だ。
笑顔がとても素敵で女性らしい、それで、ダメなボクを支えてくれる……ような気がする。
ヘレナ……早く彼女の屋敷に遊びに行きたいな。
……やっぱりボクは男性に興味が湧かない。
元々そういう風に育てられたし、それに……。
「彼女は……元気なのかな」
◇
「はぁ……緊張します……」
今日はエリス様が遊びに来る日……。
同性のお友達は何度か屋敷に招いているが、今日はどういうわけか緊張している。
何故でしょう……? やはりエリス様が魅力的な方だからでしょうか……?
いやいや! エリス様はまだお友達です! まだ……。
「お嬢様、サーロス男爵家のご令嬢が……」
「エリス様!」
私は思わず玄関を飛び出した。
◇
「エリス様!」
「ヘレナ!」
私たちはお互いに握手をした。
「会いたかったよ! ヘレナ!」
「私も会いたかったです!」
私たちは再会を分かち合った。
「さぁ、中へどうぞ」
「うん!」
私はエリス様をエスコートした。
「あ、あのさ……」
「なんですか?」
「そんなに強く腕を掴まなくても……」
「ダメです! また転んで怪我をしたらどうするつもりですか!」
「……うん」
エリス様はまた顔が真っ赤になった。
やはりエリス様はかわいい、私は思わず彼女に見とれた。
「うおぉ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」
◇
「でねー、弟が……」
「あはは、それは大変ですね」
私たちはお互いの家族について話した。
エリス様は、弟が大変わがままで、こんなことでは次期当主が務まるかどうかを話された。
「かわいい弟だけどさぁ……ほんと、ボクが次期当主になった方が良いんじゃないかって思うよ……」
「そこまで不安にならなくても、その頃の男の子はそんなものですよ、私の兄もそんな感じでしたし」
「そうかなぁ……」
エリス様は大変弟思いなのだろう。
かわいいからこそ、不安になる。
「まぁ、ボクもおっちょこちょいだから、当主は務まらないよね……」
なんだろう、エリス様は自分に自信が無いのでしょうか?
励ましてあげよう。
「そんなことないですよ! エリス様は確かにおっちょこちょいなところもありますが……その……かっこいいですよ!」
「か、かっこいい……?」
「あ……」
私は思わず思ったことを率直に言ってしまった。
エリス様は顔を真っ赤にして……下を向いた。
あ、えーっと……そうだ!
「それと……かわいいです!」
「かわいいって……それ当主とか関係ないじゃん……」
「あ、申し訳ございません……」
「もう……」
エリス様……やはりかわいい。
エリス様は手で顔を覆い、下を向いている。
耳まで真っ赤なお姿……見た目のクールさとギャップが大きい。
そこがエリス様のいいところだ。
「エリス様……恥ずかしいんですか?」
「当たり前だよ……今までそんな風に言われたこと……無かったし……」
……なんだろう、こういう姿を見ていると、更にいじめたくなる。
「エリス様は……かわいいです! かっこいいです!」
「……」
エリス様は黙ってしまった。
もっとからかおう……と思ったその時。
エリス様は……私を抱きしめた。
「え、エリス様?」
「もう……やめて……耐えられない……」
密着したエリス様の心臓はかなり早く、体温も風邪をひいているみたいに熱かった。
荒い息遣いが私の耳に伝わり……私も自然と恥ずかしくなっていった。
からかった私が悪いのですが……不思議と心地よく感じた。
「ねぇ……ヘレナ……」
「な、なんですか!?」
「ボク……」
エリス様は何かを伝えようとしていたが……やはり途中で黙ってしまった。
エリス様は何も伝えずに、私の体から離れた。




