Vol.75
定期考査前日。
優太と衣は学校の近くのコーヒーショップで猛勉強をしていた。
「もう!だからさっき教えたでしょ!これはそっちを使うの!」
「えーさっきの問題となにが違うんだよぉ」
「これのどこが?!全然違うでしょ?!」
衣が先生で優太が生徒なのは一目瞭然。
どうやら2人は数学をやっているらしい。
多分そんなに難しい問題ではないようなのだが、どうやらどの公式をどの問題で使えばいいのか優太はさっぱりわかっておらずそれに衣がだいぶイラついている……そんな按配だろう。
「……なになに。あぁ優太、これはさ……」
突然男が脇から登場し優太に解説をし始めた。
「……で、違うのはここ。この言い回しがヒント。こっちが出てきたら、公式はこれ。で、こっちの言い回しが出てたら、使う公式はそれ。わかった?」
実に手際よく説明を終えた男は優太の前に4つ折りの紙をすっと出した。
「……聖じゃん」
「……どうも」
2人は聖を見上げ同時に全く違うことで聖に声を掛けた。
「どうですか、テスト勉強は」
聖はコーヒーが入ったマグカップを片手に空いている椅子に腰掛けた。
「あたしは大丈夫なんだけど優太がね」
「なんだよ、衣が教えんの下手くそなんじゃんか!」
「なによ!じゃ、自分でやんなさいよ!」
聖がいるのも忘れて2人はまたくだらない論争を始めた。
普段はこういうときに怒るのは衣だけなのだが、どうも今回は優太はかなり追い詰められているらしくて受け流す余裕がないらしい。
「はいはい。……じゃあいいよ、優太は俺が面倒見るよ。そのほうがお互いのためだろ」
どう?と間に割って入った聖が2人を見比べた。
「そりゃその方がいいな、聖のほうが教えんのうまいし。衣下手すぎなんだよ」
「なによ、優太が理解できなさ過ぎなのよ!」
優太の余計な一言でまたいらぬ口喧嘩が勃発しそうになっていた。
「はいはいはい、そこうるさいから。だから『学年1のバカップル』とか言われるんだって」
いーだっ!という顔で向き合う優太と衣に聖は今度は手まで使って2人の間を取り持った。
「でもいいの?西倉くん自分の勉強は?」
優太のお守りがどれだけ重労働かをわかっている衣は実に当たり前の心配をした。
「今回はもう諦めた。実力で受けるつもり」
「うえーそんなセリフ、1回でいいから言ってみてぇ」
聖の答えに優太はなんで聖が実力で受けることになったのかもわかってないで純粋に羨ましがった。
「ふーんそうなんだ……じゃあ今回は頑張って学年トップ取ろうかな。今回は王者が試合放棄してるし」
実は密かに聖をライバル視している衣は「しめしめ」と言わんばかりに頬杖をつき、聖にほくそ笑む。
「どうぞ。でも次はないから」
聖も負けじと衣にニヤリと笑いながら足を組み、偉そうに椅子の背もたれによりかかった。
「あ、言ったな……てことは、もう結論出たんだ?」
途中までは笑い混じりに喋っていた衣だったが最後の方は真面目な口調になっていた。
「だからこれ、優太でも小橋でもいいんだけど、頼まれてくれないかな」
言いながら聖はもう一度2人の前に4つ折りの紙を差し出した。
「……衣やって。俺この前渡したら、未散にボロクソに文句言われたからもうヤダ」
面倒くさいのはもうイヤ!という表情で、優太は衣の前に紙を移動させた。
「ボロクソって?」
胸ポケットに入っている生徒手帳に紙を挟みながら衣は優太に聞いた。
「もっとちゃんと保管しろって怒られた」
未散はでっかいくせに器ちっちゃいんだよ、と優太はぶうと膨れた。
「……どうせポケットに入れっぱなしにしてしわくちゃにして渡したんでしょ、それは怒るって」
西倉くんにも失礼じゃん、と衣は完全に未散の味方をした。
「このデジタルの時代にあえてアナログにしてんのにそれが優太にはわかんないかなぁ。……悪い、俺もできれば今回は小橋に頼みたいわ」
よろしくお願いします、と聖は衣に頭を垂れた。
「確かにお預かりしました。綺麗に渡すからね」
衣は言いながら生徒手帳を胸ポケットにしまった。
「……はい、ごもっともです」
すんません、と優太は聖にぺこりと頭を下げた。
「あ、西倉くん、これいつ渡せばいいの?テスト終わったら?」
さっきの手紙なんだけどさ、と言いたげに衣は胸ポケット越しに生徒手をとんとんと叩いた。
「……いや、明日のテストが終わるまでにお願いしたいんだけど」
聖からは思いもしない答えが来る。
「え、だって明日って……」
テスト初日じゃない、と衣が言おうとするが聖にこう遮られた。
「いいの、明日俺が誕生日なの」
「……なるほどね」
聖の回答に2人はあえてそれ以上は何も聞かず、ただ聖に笑みを返した。
その頃未散は、教室でずっと勉強をしていたが見回りに来た先生に「もう帰れ」と追い出されてしまったので帰ろうとしていた。
とてもいい調子で問題を解いていたのに先生に全てぶち壊れ、未散は少々イライラしていた。
靴を履き替えようと上履きを脱ぎ、下駄箱に入れ、そのまま靴を取り、ちょっと投げ気味にアスファルトに置く。
しかしそれがいけなかったらしく左足の靴だけひっくり返ってしまった。
そこでちゃんと手を使ってしまえばすぐに元に戻るのに、膝を曲げるのが面倒と思った未散はなんとか足だけで戻せないかと足の指を使って靴を動かす。
だがこういうときに限ってまったく靴は動かない。
「あーもう!」
足もむずむずし始めてイライラは倍増し始めていた。
そのときだった。
「吉岡未散さん?」
不意に誰か女の人の声が自分の名前を呼んだ。
「はい?!なんでしょうか?!」
もうなによ、こっちは忙しいのに!という感情丸出しの表情で未散は声のしたほうに顔を上げた。
「はじめまして、雨貝日和っていいます。……吉岡未散さん、だよね?」
未散に声を掛けたその彼女は、衣によく似た笑顔で雨貝日和と名乗った。
――聖くんの元カノさん……いや、彼女さん……。
未散は驚いた顔のまま姿勢を元に戻した。
こんばんは、愛梨です。
前回『優太と衣のバカップルぶりをお伝えします』と書いたものの、『バカップル』って普通は超甘々の状態を指すんだよな……ということにあとで気がつきました。
なので……すんません、またもや嘘をつきました(汗)。
実際は夫婦漫才ですね。
それともう1つ。
ここでは言い争うシーンはまだ入らないです。
次回になるのでそれも……すんません。
ということで、次回はいよいよ日和VS未散でお送りします。
まぁ昼ドラのようなドロドロにはならない(だってそれだとあまりに現実味がない)とは思いますが……もしも、そういうのが苦手な人は様子を見ながら読んでくださいね。
ということで、またです。




