Vol.73
佳佑に失礼を働いた聖はカッカしたまま学校を出た。
カリカリしながら駅まで歩き、イライラしながら電車を待った。
そして電車に乗っても車内に大げさに言えば殺気立った雰囲気を振り撒き、降りてからも明らかに怪訝悪そうにまた歩く――。
そんな聖の行き先は、転校してきてから高校の入学式を迎えるまでほぼ毎日のようにたむろっていた隼の家だ。
「お久しぶりです」
「あらあら聖くんいらっしゃい」
「おじゃまします……って、え」
玄関に入って隼の母上に挨拶して靴を脱ごうと足元を見て聖はぎょっとした。
ざっと見、10足前後の男物の靴やらシューズやらが無造作に並んでいたのだ。
「『聖が来るって言うから来ました』ってみんな言って上がってったわよ。学校が聖くんだけ別方向だからなかなか会えないからってここぞとばかりにぞろぞろ来てるわよ」
隼の母上はそう言うと「どうぞごゆっくり」となにやら揚げ物が入っているっぽい箱を5つほど聖に渡した。
落とさないようにしながら階段を上ると、すでに聞き覚えのある大爆笑の声が壁から漏れていた。
――隼のヤツ、絶対面白がってやがる。
隼の部屋に入るのが聖はだんだん億劫になってきた。
多分隼と2人でというのはないだろうとは思っていたとはいえ、集まった人数が多すぎる。
メールでは10行ぐらいで説明しただけなのにいったい隼はみんなに何をどう話したのか、考えただけで恐ろしい。
「なぁ、聖遅くないか?」
1人が言い始めた。
「なんか先輩に捕まったって言ってたからそのせいだろ」
これは多分隼。
「もしかして、その先輩までこの三つ巴に加担してたりして?」
また誰かが突っ込んだ。
「うわードロドロじゃんそれ」
また他かが口を挟んだ。
「そんなの俺には一生縁がない話だと思ってたけど、体験者が近くにいるってなんかすげぇ」
……彼らは聖の深刻な話で、本人がいないことをいいことに完全に遊んでいた。
――こいつら……ッ!
聖はムッとしてちゃんと閉まってないドアの隙間に足を入れるとそのまま廊下に引っぱった。
開いたドアの音に部屋にいた全員がいっせいに聖を見た。
「はーん、じゃあ代わってくれよ。……なんだよ、人が悩んでるっつーのにお気楽言いやがって」
悪気ゼロなのがわかっているので本気で怒るわけにもいかず、聖は引きつり笑いをしながら部屋にいる面々に言い放った。
「まあまあそんなに怒るなって、みんな恋バナに恵まれないからひがみやっかみの裏返しなんだからさ」
はいはい主役はココね、と隼は聖から箱を受け取り絨毯の上に聖を促した。
「そうそう。俺なんか男ばっかだから何にもねーもん、そんな色気話」
「俺もない」
「贅沢言うなよ、学校に行けば女いるだろおまえは」
「いりゃいいってもんじゃねーだろ。量じゃねーよ、質よ、質」
「……おまえ、俺に喧嘩売ってる?」
聖が座ろうとしている間にまた話が始まっていた。
どうやらここにいるメンバーは諸事情により女性との接触の機会があまりないらしい。
「……で?なんだっけ?吉岡さんと日和先輩がどうしたって?」
「うっそ、なにそれ」
「吉岡さん、おまえと高校おんなじなの?」
聖への質問は隼だけだったはずが、気がつくと質問は2つに増えている。
「ついでに言うと並木優太同じ学校だよ。今、コンビ組んでる」
質問から思いついて、聖は隼から貰ったウーロン茶のプルタブに手を掛けながら全く質問とは関係ない話を振った。
「うえーそれ最強じゃん。敵にしたくねーコンビだな」
「だから今年おまえの学校強かったのか」
話が反れているのに全く気づかず、みんな聖の話にうんうん頷いた。
今日いるメンバーは、全部で12人。
そのうち『元』も『現役』も関係なく数えるとバスケットマンは9人いる。
そのため、中学時代は学校は全く違っていたが訳アリで有名な優太と未散の話をしてもついてこれるメンツが今日は多いのだ。
「並木優太のことはもういいよ、男の話はいらん」
誰かが話を遮った。
「あーそうだよ、俺らが聞きたいのは吉岡さんと日和先輩の話」
「で、なに?なになになに?」
部屋にいる全員がワクワクした顔で聖を見た。
――ちっ、せっかく話話を逸らせたと思ったのに。
残念に思うがしょうがない。
「はいはいわかりました。話せばいいんだろ、話せば」
聖はそう切り出し話を始めた。
時々質問、お決まりの突っ込み、庇護、さらには異論反論も入ったせいでそれがなかったらものの5分で終わる話が45分かかった。
「……贅沢な悩みだよそれは、っては思うけど……俺がおんなじ目に遭うのは勘弁だなぁ」
「しかも日和先輩と吉岡さんだろ?外見的にはどっちも捨てがたいわ」
「あーそれわかる。どっちかがもっと普通だったら悩まないかも」
「え、そこ論点か?」
「いや、この際だからそこもかと」
みんな完全に他人事。
そんなような感想を口々に述べていた。
――やっぱりコイツらに言うとこうなるんだよなぁ……。
聖はついつい渋い顔でウーロン茶を飲んだ。
「……でもさ」
隼がポテトチップを取りながら聖を見た。
「もう随分前だけど、聖から『またバスケやることにした』ってメール貰ったときは俺ホントに驚いたんだよね」
「え?そうなの?『ふーん、わかった』しか送ってこなかったくせに?」
しかもこっちが送ってから3日ぐらいたってからだったよな?と聖は隼の話を疑ってかかった。
「いやだってさ、聖にとってアレはものすごい衝撃だったと思うから、おまえがバスケをまたやることはきっとないんだろうなって思ってたもん、マジで。だから逆にそれしか言葉が出てこなかったっていうか」
手にしたポテトチップスを口に放り込み、もぐもぐしながら隼はまた口を開いた。
「もしその話直接聞いてたら、俺聖の前でものすごいリアクションしてた自信あるよ。その証拠にメールの画面にも『はい?!』とか言ってたし」
アホだろ俺、と隼は聖を横目で見ながら言うと、聖は「確かにな」と同意しつつも軽く鼻で笑ってしまっていた。
「でもそれぐらいビックリしたんだって、俺は。だって聖にとって『またバスケを始める』ってことは『絶対どっかで日和先輩に会っちゃう』ってことじゃん?それを忘れてなのかわかっててあえてなのか……一体どういう風の吹き回し?って速攻で聞いてたと思うし」
隼はそうキッパリ言い放ち、またポテトチップスに手を伸ばした。
「聖さ……もしかしてその答えが今のおまえの本音なんじゃねーのか?まぁ、それが『並木優太がいたから』っていうなら話は別だけど」
どうなのよ?と隼はかってに聖のウーロン茶を飲み出した。
「優太がいたのは入部してから知ったからそれはないな……」
隼にそう返したあと、聖はしばらく間を置いてクッキーに手を伸ばした。
まわりはもう聖の話などどうでもよくなっているらしく隼の部屋にある玩具を物色して遊び始めていた。
その中で聖はクッキーをかじりながら思案に暮れていった。
そして2日後。
聖はある行動に出ることになる――。
こんばんは、愛梨です。
最近はここに何か書くのが楽しい私めです(笑)。
ここんとこずっとシリアスでしたから、今回はちょっとばかり「聖と愉快な仲間たち 中学時代編」でお送りしました。
いかがでしたでしょうか。
実は隼くん、一見ただ思ったことを正直に言っているだけなんですけど、これがなぜか全部聖にとっての決定打になっているという一種の『名脇役』でした。
まぁ今回はこれで隼くんはクランクアップなのですが、いつか彼を主人公にした話も書きたいなと思ってます。
そのときはもちろん聖が『名脇役』となる……ハズ(汗)。
さてさて。
佳佑と隼からのお告げ?導き??によりいよいよ聖は動き出します。
まぁ結論見えちゃっている部分もあるので面白くない部分もあるかもしれませんが、よかったらその結論に行き着くまでの『過程』を見守っていただければと思います。
ということで、またです。




