Vol.72
怒りモード全開の聖は佳佑を睨みつけずんずん近づいてくる。
「吉岡、これかたづけて」
ほい、と佳佑は聖を見たまま未散にモップの柄を2本同時に投げた。
「え、でも、先輩は……?」
かろうじて床に落すことなく未散はモップの柄を2本とも佳佑から受け取った。
「大丈夫。とりあえず西倉と2人きりにしてくれないか、吉岡がいると話しにくいから」
悪いな、と佳佑は未散にいたずら小僧のように笑って左目を閉じた。
――大丈夫かなぁ……でもいたら逆に佳佑先輩に怒られそうだしなぁ……。
かなり心配ではあるが、この部は縦社会がきちんとできているので先輩には『絶対服従』なのだ。
未散はモップを引きずりそそくさと用具室へ走り去った。
未散のその様子をわき目で見ると聖は突然佳佑の学ランの襟元に手を伸ばした。
「吉岡に何してるんですか?!」
両手で佳佑の学ランを掴んだ聖は佳佑を見下ろす。
「なんにもしてないよ」
「はぐらかさないでください!」
即で笑ってごまかそうとする佳佑に聖は言葉を叩きつけた。
「ほんとだって……まぁしようとはした、それは認めるよ……でもできなかった。嘘だと思うんなら吉岡に聞いてみな」
ほらはなせ、と佳佑は聖の腕を振り払った。
「西倉さぁ、おまえ調子いいヤツだな、なんなのそれ」
佳佑は呆れた表情で聖を見上げた。
「西倉はヨリ戻すんじゃねーの?だったら俺が吉岡に何しようが吉岡が俺とどうなろうがおまえには関係ないだろ。違うか?」
なぁ、と佳佑は聖に呼びかけた。
「それともなに?俺と吉岡がいいカンジになったの見て面白くなかったとか?やっぱり吉岡手放すの惜しくなった?」
どうなのよ?と佳佑は聖をじっと見た。
「…………」
聖はぐうの音も出ない。
「……じゃあこうしようよ」
佳佑は手をズボンポケットにしまった。
「俺に吉岡ちょうだい?で、西倉は元カノとヨリを戻す……どう?悪くない話だろ?」
「『吉岡ちょうだい』って、それどういう……」
佳佑の耳を疑う提案に聖は唖然とした。
しかし佳佑は全く動じなかった。
「どうもなにもないよ、欲しいからそう言った、それだけだけど」
反論あればどうぞ、と言いたげに佳佑は顎をかすかにしゃくった。
「……けどさ」
聖が何も言ってこないので佳佑は少しうなだれながら床を足のつま先で軽く蹴りながら言葉を続けた。
「今のまんまじゃ吉岡の中に入り込むの無理なんだよな。だって吉岡に100の気持ちがあるんだったら、99は西倉のことでいっぱいなんだん」
西倉さ、と佳佑は顔を上げ聖に切なげに笑った。
「いっそのことさすがの吉岡でも立ち直れないくらい切り捨ててやってよ。それをしてくれるならあとは俺がなんとかする、絶対にあいつのこと立ち直らせてやる。だから……思いっきり振ってやってよ」
「……どうしてですか?どうしてそこまで俺がやんなきゃいけないんですか?!そこまで先輩に言われる筋合いないですよ!」
「そのぐらいやってくれてもいいだろ?!じゃなきゃ俺があいつん中に入れねんだよっ!」
あくまで穏やかに言う佳佑にだんだん怒りが込みあがってきて聖は最後の方はもう叫んでいた。
それにつられてか佳佑も無性に腹が立ってきていつの間にかポケットから出していた手で聖の胸ぐらを掴んだ。
「……ほら、早く言って来いよ、吉岡のことぼろぼろにしてやれよ。とっとと振って嫌われて来い!」
先に口を開いたのは佳佑だった。
「多分部室か用具室にいるよ、さっさと行けって」
行けよ!と佳佑は掴んでいた聖の学ランの襟を突き放した。
「……相手が先輩じゃなかったらそうしてるかもしれない。だけど佳佑先輩にだけは『わかりました』って思えない。『吉岡をお願いします』なんて絶対言わない」
キッ、と聖は佳佑を睨みつけた。
「先輩に託すくらいなら俺は日和先輩を捨てる、先輩にだけは吉岡は絶対渡さない!」
怒りの鬱憤は言葉を発するだけじゃ物足りなかった。
聖は佳佑の肩を思いっきり突き飛ばしていた。
佳佑はかろうじて転ばずにすんだが壁に背中をぶつけた。
聖は無礼を謝ることもなくきびすを返して歩き出した。
――なんだよ……もう答え出てんじゃん、自覚なしかよ……。
背中が痛くてなのか聖のあべこべになのかわからないまま佳佑は思わず苦笑していた。
しかし痛いものは痛い。
西倉もうちょっと手加減しろよと思いながら「おーいってぇ……」と呟いて自分の後ろ手で背中をさすった。
「佳佑先輩、大丈夫ですか?!」
未散の方はというと2人を見ているのが怖くてどちらかの大きい声が聞こえるたびにびくっと肩を震わせ用具室に隠れるようにして縮こまっていたのだが、体育館から誰かが出て行くような足音を聞いてびくびくしながら体育館に出てきたのだった。
そしたらいたのが……背中が痛いと訴える佳佑だったのだ。
聖はどうしたのかが正直気にはなるけれど、たいしたことはないといえ痛がっている人のほうが先と思った未散は佳佑に駆け寄った。
「……吉岡」
「はい」
佳佑の自分を呼ぶ声に未散は佳佑を見ていた。
すると佳佑は……いつもの見慣れた穏やかな笑顔を未散に向けてくれていた。
「もう少し待ってな、『俺と付き合おうとしなくてホントによかった』って思える日がすぐ来るから」
「なんですか、それ」
意味わかんないです、と未散は佳佑の背中をさする手を止めることなく笑った。
「でも」
佳佑はそう言いながらそっと自分の掌を未散の頭に置いた。
「俺の過去を一緒にしょってくれるって言ってくれたのはホント嬉しかったよ。ありがとな」
まるで可愛がっている妹に言うように佳佑は未散にお礼を口にしていた。
でもそれは暴走しそうな感情をなんとか押しとどめさせた佳佑の、未散への精一杯の愛情表現だった。
理と……そして、きっと気づいてしまったであろう聖にしか知られていない自分のこの気持ちは決して未散には知られてはならないのだ。
もし知ってしまえば今の未散なら自分を選んでくれるだろう。
けれどいつか必ず未散は気づいて自分と聖との間で苦しんで……最後はきっと聖を選ぶ。
そして未散は自分にこう言うに違いないのだ。
佳佑先輩、ホントにごめんなさい――と。
それで未散が自分に対して後ろめたさを感じることもなく聖のところに行くならまだいい。
けれど佳佑はわかっているのだ、きっと未散は自分に対しての罪悪感を引きずり続けるだろう――と。
そんな結末が待っているこの恋をする覚悟は、情けないけれど今の自分にはなかった。
けれど、何にも考えないでいいんならこの手で守ってやりたかった。
たとえそれで聖から恨まれ、最後には奪われることになるんだとしても――。
佳佑は「いやいやそんな」と照れ笑いする未散の頭を撫でながら寂しそうに笑った。
こんばんは、嘘つき愛梨です(汗)。
一昨日「明日もアップする」って言っておきながら結局今の時間に(汗×2)。
す、すんません……(平伏)。
またもやMixiで載せていたときの話になっちゃいますが、ここもいろんな人からメールにてあれこれ頂きました。
一番多かったのが「佳佑のその行動ありえないでしょ、まるで仙人じゃん!」っていう意見でした(苦笑)。
確かに言われてみればそうかもしれない……ってそのときは苦笑いしたんですけど、でもそれが実はのちのちスピンオフを書こうと思ったきっかけの1つにもなりました。
で、前も話したとおり今はスピンオフを書いている最中(とはいっても思いっきり止まってますが)なわけですが、どうにもこうにもこっちで書いている佳佑に違和感を感じてしまったので必死こいて書き直しました。
まぁそれが仇となりアップが遅れたんですが(汗)。
それにしても……自分で書いといてナンですが、佳佑って悟ってるよな(笑)。
さてさて。
佳佑に核心を迫られぽろっと答えを口にした聖。
でも佳佑の言うとおりで本人全然自覚ありません。
そんな聖に大きなヒントを与える隼の登場です。
なにげに彼は出演時間少ないくせにキーマンなんです。
だって日和の浮気現場(?)を押さえたのも未散に聖を合わせたのも隼ですから。
さぁて、鍵を握る男園田隼くん、今回はどんな活躍をするのか……ご期待下さい。
ということで、またです。




