Vol.67
未散から手をはなせと言われバイバイと手を振られた聖は、ふと未散が自分に投げつけてきたものを思い出した。
アスファルトに目を落とすと缶コーヒーが2つ転がっていた。
聖は缶コーヒーへと手を伸ばした。
手が缶コーヒーに触れたとき、思わず「え?」と口にしていた。
――まだあったかいよ、これ……。
聖は手に取った種類の違う2つの缶コーヒーを思わず握り締めていた。
普通ならもうとっくにもっと冷たくなっているはずなのに、拾ったときに思っている以上にあったかかった。
多分それは聖と自分のためのものだったはずだ。
けれど未散は、それを聖と日和にと随分乱暴にではあったが差し出してくれた。
きっと冷たい風が吹き抜ける昇降口で待たされている間にはじめは自分が飲みたくて買ったのだろう。
でも自分だけ飲むのもどうかと思って結局は2本買った。
買ったコーヒーは1本はブラックでもう1本はコーヒーというよりカフェオレだった。
多分カフェオレが自分用でブラックが……聖用。
部活帰りに学校の近くのコーヒーショップに優太と3人で、または衣も入れて4人で、あるいは2人で行くと、聖はいつもブレンドコーヒーを頼んで砂糖やミルクはもちろんスプーンさえも貰わずにそのままカップを持ってテーブルについていた。
それを未散は覚えてくれていたのだ。
そしてあげくには迎えにまで来てくれた。
それなのに自分はというと自分から誘ったくせにそれをすっかり忘れて結果的には元カノと密会をしていた。
なにしてるの――。
そう呟いて、まるで目の前で大惨事が起こったような顔で自分と日和を見ていた未散。
あの顔を見て自分たちのことをどこから見ていたかなんて聞かなくてもわかった。
なのに未散は自分のこともそして日和のことも咎めなかった。
それどころか自分が置いてきた日和を気遣っていた。
そして最後には「嫌われたくないから何か言ってしまう前に帰してくれ」と健気に笑っていた。
――自分を傷つけた相手にどうしてそんなことが言える……?
自分に背を向けるまでずっと笑っていた未散にかけてやれる言葉はそれしかなかった。
でも聞いても無駄だから聞かなかった。
だってあたし聖くんに嫌われたくないもん――。
どんなに胸を締め付けられて苦しくても、きっと未散は笑ってそう答える――それがわかっていたから聞けなかったのだ。
コーヒーをぼんやり見つめながら聖はのろのろと歩き始めていた。
――なんか俺っていっつもこんなのばっかり……。
自分の不甲斐なさにため息も出ない。
聖の足取りはホントにおまえはバスケ部員なのかといいたくなるくらい重かった。
――こんなことになるんだったらさっさと言えばよかったな……今日まで待っててもらった意味全然ないじゃん……。
別にカッコつけるつもりはなかったのだが、
「俺からの誕生日プレゼントはこれね」
って指輪を渡すつもりだった。
もちろんそのときは未散の左手の薬指につけてあげようと思っていた。
そうすればわざわざ口にしなくてもわかってくれるはず――。
そう見込んでの計画だった。
けれどそれは全て自分のせいで台無しになった。
そして挙句には「あたしは聖くんが好きだもん」って未散に言われてしまった。
なにがおもしろくて女に先に好きとか言われてるんだか。
自分が先に言いたかったから待っててもらったんじゃなかったのか。
――もうやだ……どっか誰も知らないところに引き篭もりたい……。
聖は足もとにあった石ころを見つけ蹴飛ばそうと振り上げた。
しかし残念なことに足は空を蹴っただけ。
見事に空振りしてしまった。
「ちっきしょう!なんなんだよ!」
なんだか石にまで「おまえはほんっとに間が悪いねぇ」とバカにされた気がして、思わず聖は自分に蹴られることなくそこにある石ころに怒鳴った。
けれどそれをしたところで気が晴れるわけでもなく、再び聖はとぼとぼと歩いた。
そして部室に戻ると。
日和の姿は、もうなかった。
日和からしてみたらそれは当然のことだろう。
自分の学校でもないのにいつまでもひとりでここにいるのは不自然だし、ましてや聖は日和には何も言わずに部室を出てきてしまったわけだから日和としては帰るしかないだろう。
だが今の聖にはそんな思考回路が存在しなかったので日和がいないということに青くなっていた。
「なんで帰っちゃうんだよ……」
がらんとした部室相手に聖はそう言うと、やる気なく缶コーヒーをテーブルに置くと足を投げ出して椅子に座った。
そしてさもめんどくさそうに缶コーヒーの1本を手にしてプルタブを開けた。
「……うわっ、甘っ!」
聖は眉間にしわを寄せると缶コーヒーを置いた。
どうやらカフェオレの方を開けてしまったらしい。
――缶コーヒーにまでバカにされてんのかよ……。
聖は缶コーヒー相手に顔をしかめた。
「それにしてもなぁ……まだ持ってたとはなぁ……」
ぶつくさ言いながら聖はテーブルに両手で頬杖をついた。
日和の左手にあった指輪を目にしたとき、日和に対して頑なに閉じていた自分の心が大きく開いた。
一方的に別れを告げたあのときは、てっきり捨てられていたんだろうなと思っていた。
そう思っていた指輪を、日和はあげたあの日と同じように大切にしてくれていた。
だから「もう1回だけ、あたしのこと好きになって」と日和に言われた時、自分は「本当に信じていいんですか?」って言っていた。
ごめんなさい、もう遅すぎます。無理です――とは言えなかった。
だってそのときはもう、聖の心は完全に日和と最後に会ったあの日に戻っていたから――。
あれからもう1年半が過ぎていたのに日和はなにも変わっていなかった。
自分を見上げる瞳も自分の名前を呼ぶ声も簡単に包み込めるぐらい小さな手も、そして今でもかすかに唇に残っているぬくもりも……何ひとつ変わってなかった。
これが未散と出会う前だったら、きっと何の迷いもなく日和とやり直すことを考えたはずだ。
いや……もし未散が部室のドアを開けなかったら、未散との約束なんて思い出すこともなくあのままお互いを求め合っていた気がする。
……けれど。
それなのにもかかわらず未散に見られてしまったとわかったとき、逃げ出した未散を夢中で追いかけた。
そして……日和にはなんの一言もなく部室に置き去りにした。
――あんなことしておいてそりゃないよな……俺ってヒドい奴……。
「あーっ!くっそ!」
聖は空いている手をロッカーに叩きつけ声にならない声を上げた。
しかしどうも壁を叩いて骨に当たったらしい。
「いってぇ……」
聖は壁に叩きつけた手の小指側の側面をさすりながら押さえた。
「どうしよう……俺、どうすりゃいいの……?」
聖は再び足を投げ出すと天井を仰ぎ目を閉じた。
それからまた重い重いため息をついた。
こんばんは、愛梨です。
今回は聖くんサイドに完全に絞って書いてみました。
ここでも「口より先に手が出て後悔する」聖くんです(苦笑)。
実はこの部分、Mixiで載せていたときも両論賛否でした(苦笑)。
「聖のスケコマシめ!」だの「日和はなんなんだ!」だの「未散の根性ナシ!」だのまぁみなさん言いたい放題でした(苦笑)。
でも、こういう部分こそ10代の恋愛じゃないかなと思います。
後先考えずに突っ走っちゃったり、もう一度取り戻そうと捨て身で挑んだり、逆に色々考えてしまって怖気ついてしまったり……。
これが大人だったらもうちょっと探りを入れてから行動を起こすんでしょうけど、そんなまどろっこしいことは普通高校生はやらないですから(笑)。
はぁ、いいなぁ、こういう恋愛もう1回したいわ……(←おいおい)
さてさて。
このどうにかなるのか?という状況に「彼」が久しぶりに登場します。
なにもかもお見通しの彼がとった行動とは?
そして彼が抱える過去とは……?
……あ、ここまで書いたら「彼」が誰だかわかっちゃうじゃん(汗)。
ま、いっか。
ということで気になる人は次をどうぞ!
ということで、またです。




