Vol.64
中途半端な手直しのまま保存したりしたので読みにくくなってました。
す、すみませんでした……(平伏)。
今は手直しが終わりましたので安心してお読み下さい。
そろそろ昇降口へ行こうかと聖が椅子から立ち上がると誰かが外からノックをしてきた。
――さすがに待たせすぎたよな……。
少しだけ申し訳なさそうな表情をしながら聖はドアのノブへと手を伸ばした。
本当はとっくの昔に帰ことはできたのだが未散と昇降口で待ち合わせをしているところを部員に見られたらなんか恥ずかしいので、みんなが帰ったら帰ろうとダラダラと部室にいたのだった。
で、ようやくひとりになったので「さてと」と思っていたら未散が迎えに来てしまった……というわけだ。
「吉岡ゴメンな、今行く……」
謝りながら聖はドアを開けた。
しかし、最後まで言い切れなかった。
そこにいたのは、未散じゃなかったのだ。
「……帰ったんじゃなかったんですか?」
驚いた表情を隠すことなく、聖は目の前にいる日和にそう質問していた。
「今日は現地解散なんだ。それにちょっと聖に渡したいものがあって」
そう言いながら日和は「入っていい?」と目線だけで聖にたずね、聖がおろおろしている隙を狙ってさりげなく部室の中に入りドアを閉めた。
「もう今は趣味が変わっちゃったんだったらゴメンね」
そう言うと日和は持っていたカバンから小さい紙袋を取り出した。
「ありがとう……」
いらない、とも言えず聖はその紙袋を受け取った。
一応礼儀として日和の前で袋を開ける。
「…………!」
中身を見た聖は感激というか驚きというかで声が出ない。
聖の掌に袋からこぼれ落ちたのは、日和に指輪買ったあの日指輪を買ってしまったためにお金がなくなってしまったので買うのを諦めたネックレスだった。
「本当はそれ、去年の誕生日に聖にあげようと思ってて、こっそり買ってずっと持ってたんだ」
今更遅いよね、と日和は寂しげに笑った。
「ねぇ聖」
「はい……」
日和の呼ぶ声に聖は日和を見下ろした。
「先輩、それ……!」
にわかに信じがたいものを目にした聖は思わず日和の左腕を取っていた。
日和の左手の薬指には、聖が買った指輪が夕日に当たって鈍く光っていたのだ。
「聖にあんなことしておいて勝手なのはわかってる、でもあたしは今でも聖が好きよ」
だから、と日和は聖に悲しげに笑った。
「これもどうしても捨てられなかった……聖が嫌な顔ひとつしないで買ってくれたことばっかり思い出して、どうしても捨てられなかった……」
日和は左手を大事そうに右手で包み込むようにしながらも、その右手には涙を堪えようとしてか徐々に力が入っていった。
「…………」
聖は明らかに動揺していた。
最後に彼女を見たときは見知らぬ男と手を繋ぎその男に笑いかけていた。
でも自分が現れた途端顔をこわばらせた。
そして最後にはその彼を庇っていた……。
そんな日和が今はこんなことを言った。
でもあたしは今でも聖が好きよ――と。
どういうことだ?
なんなんだいったい?
「じゃあ……あの時一緒だった彼はどうしたんですか」
意味不可解な日和に聖は聞きたかったことをそのまま口にしていた。
「今はもう大学生になった。でもそれ以上のことは知らない」
日和は顔を上げると表情を歪めながらそう答えた。
「彼とダメになったから俺に戻るって事?そんな都合のいい話あるわけないでしょ」
そう言われるのは想定範囲内だったけれどそれでもやっぱりふざけるなと思ってしまった。
聖は掴んでいた日和の左腕を突き放した。
「……彼は、そうじゃないの」
ぽつりと日和はそう漏らした。
「あれは、彼がついたとっさの嘘」
「……嘘?」
嘘、という言葉の中にある真実が知りたい聖は日和を顔を見ていた。
「彼は……『もしも聖があたしより年上だったらきっとこんな感じなのかな』って思わせてくれる人だった……その中でもね、いちばん聖に似てたのが『手』だった……大きいんだけど指が長くてキレイで……だからあたしは彼にどんどん惹かれていった」
「…………」
聖には返す言葉がなかった。
彼に自分を見ていた日和。
そんなこと、気がつきもしなかった。
「…………」
隠されていた事実を知った聖は呆然と立ち尽くしたまま動けなくなっていた。
「だけど聖に会って目が覚めた、『やっぱり彼は聖じゃない』って思った。けど……あんな状態でなに言ったって言い訳にしかならないでしょ?だからあたしは……聖の言ってることを受け入れるしかできなかった……『聖待って!』って言いたかったけど言えなかった……」
言いながら日和は少しだけ強引に引っぱると自分の頬で聖の手に触れた。
「本物だ……本物の聖の手だ……」
ずっとずっと欲しかった聖の手の暖かさに日和の肩が小さく震えた。
気がつくと聖の手は日和の涙で濡れていた。
「…………」
今更ながら聖は日和に対してやってしまったことを後悔していた。
あの時日和の言い分を聞いていれば、携帯電話の番号を変えなければ、こんなふうに日和を泣かせることはきっとなかった。
今ならよくわかる。
悪いのは日和だけじゃない。
そこまで追い詰めた自分にも非がある――と。
――先輩ごめんな……俺も悪かった……。
そう思った瞬間、聖は自由になる手を日和へと伸ばしていた。
その手は日和の頬をそっと撫でた。
「聖……?」
自分を見下ろして泣きそうな顔をしている聖に日和はもらい泣きをしそうになっていた。
その日和の表情は別れを告げたあのときの日和と聖の中で重なっていく。
「先輩、すんません……ごめんなさい……」
謝っている時にはもう、聖は日和の顔を見れなくなっていた。
日和の頬から手をはなせないままうなだれていた。
「聖は謝らなくていいんだよ?悪いのは全部あたしなんだから」
謝る聖に対して日和は優しく微笑むと首を振っていた。
その姿に聖はお互いがまだ中学生だった頃を思い出していく――。
部活が自分達の代に変わったとき、部長は「来年は県大会に行くぞ!」とやる気マンマンだった。
もちろんそれに聖も賛成だったし2年生もほとんどが同意していた。
そのため練習が延長することはしょっちゅうで、見回りに来た用務員のおっちゃんに「いい加減帰れ!」と怒鳴られたりもしていた。
そのぐらい延長してしまったときは当然日和も図書室を追い出され聖を外で待つ羽目になった。
ある時は雨の中傘をさして、またある時は残暑が厳しい中タオルで汗を拭いながら、そしてまたある時は身を切るような寒さの中で足踏みしながら……そうやって日和は毎日のように聖が来るのを待っていた。
そんな状況だったわけだから、聖は日和にほぼ毎日「すんません!」と謝っていた。
けれどそれに対して日和が怒り出すことは一度だってなかった。
「ううん、聖は謝らなくていいんだよ?今日もお疲れ様」
受験生なのに聖を気遣い労ってくれていた――。
そんな日和を会えなくなってから忘れてしまっていた。
だからメールの返信がなくなったくらいで、電話に出てもらえなくて折り返しが来なかったぐらいで疑心暗鬼に苛まれたのだ。
だったら日和の家の前にでも行って待っていればよかったのだ。
すんません、顔見たくて来ちゃいました――。
きっと自分を見て驚く日和の姿を見つけたらそう言って笑えばよかったのだ。
だけど実際の自分はそんなことをしようともせず、「自然消滅を狙われているのでは」と日和を疑った。
だから簡単に隼の目撃証言も信じてしまったし、現場を押さえたときにはただ「裏切られた」と悔しくて、涙を浮かべて黙って自分の話を聞いていた日和のことなどなんにも考えてなかった。
傷ついたのもこんな思いをしているのは自分だけだとあの時は思っていた。
けれどそうじゃない。
何も言えなかった日和も自分と同じだけ傷ついていたに違いないのだ。
「先輩……ホント……すんません……」
聖の手はいつの間にか日和の頬からはなれていた。
謝りながら力なく日和の肩を掴んでいた。
しかしその手はどんどん落ちていき、最後は床についてしまっていた自分の膝の上に置かれた。
膝に置かれたその手は少しずつ拳になっていく。
そしてその拳にはひとつ、また1つと涙が落ちていった。
「だから謝らなくていいってば」
聖を見下ろしていた日和はそう言いながら聖と同じように膝をつくと、聖の頭をそっと抱えた。
そこからはもう、聖は言葉を紡ぐことはできなくなっていた。
嗚咽が込みあがり涙でむせた。
まるで子供が母親にしがみつくように日和の背中に手を回していた。
そんな聖に日和は何も言わずに聖の頭をやさしく撫で続けた。
「……聖、お願いがあるんだ、聞いてくれる?」
嗚咽が収まりつつあった聖に日和はポツリと漏らしていた。
聖は乱暴に涙を拭うと黙ったまま日和を見上げた。
「聖、もう1回だけでいい。もう1回だけ、あたしを好きになって」
もう遅いかな?という顔で日和は聖に笑った。
「ホントに信じていいんですか……けど俺はあんなの……もうたくさんです……」
やり直してもまた同じ目に遭うんじゃないかという不安がないといったら嘘になる。
でも今は奇跡が起こったように日和がまた目の前にいるという現実に聖は完全に支配されていた。
聖は日和の左手を取っていた。
そして指輪がはめられている日和の薬指にそっと自分の唇を押し当てた。
それを見た日和の目からは涙がこぼれた。
「あたしはもうあんな間違いはしない……信じて……」
聖の頭を抱き締めたまま日和は聖を見つめた。
「聖……ずっと会いかったよ……」
切なげにつぶやいたその言葉を最後に、日和は優しくだけど、強く聖の唇を捉えていた。
ちょ、ちょっと待って!なにするんですか――。
まさか日和がこんなことをしてくるなんて思ってもみなかった。
聖の目は驚きで見開いていた。
だからはじめはそう言うつもりで日和の方を掴んだ。
だけどその決心は日和の体温が唇に伝わってくるにつれてどんどん鈍っていく。
確かにあの時は本当に許せなかった。
2度と会いたくなかった。
辛くて苦しくて抱え切れなかった。
だから1年かけて忘れた……はずだった。
だけどそんなことなどできやしなかったのだ。
会いたくなかったのは、この瞳に日和が映る限りいつまでも忘れられなくなるのが心の奥でわかっていたからなのかもしれない。
あたしは今でも聖が好きよ――。
日和からのこの言葉を待っていた自分がどこかにいたことを、日和が恋しかったことを、今こんなにも思い知らされていた。
――きっと俺もそうだったんだと思う。ホントは俺もずっと会いたかった……。
聖の手が日和の肩からはなれていく。
その手は腕を伝って下りていった。
――日和先輩もうどこにも行かないで。俺のそばに、ずっといて……。
自分の胸の中にいる日和を会えなかった時間を埋め合わせるかのように、聖は無意識のうちに日和を壊れるくらい力強く抱きしめていた。
聖はもう、今はこの腕の中にいる日和のこと以外なにも考えられなかった。
何もかも忘れていた。
……なにしてるの?
そう未散に言われるその時までは。
こんばんは、愛梨です。
大好きだった元カレ(あるいは元カノ)に振られて、年数が経って「ヨリを戻そう」って言われたとき、例え今は他に好きな人がいるとしても心は動いてしまう。
例えそのときはものすごくこっぴどく振られて再起不能になるんじゃないかと思うくらい落ち込んで泣いたとしても、自分からキライになったわけじゃないから結局承諾してしまおうかと思ってしまう。
もちろん不安はあるけれど「今度はそんなことにはならない筈」と言い聞かせて……。
そういう経験は歳を重ねている方であれば経験したことがある人が多いと思います。
今回はまさしくそれです。
だって完全に未散のこと忘れてるもん、聖。
さてさて。
確か未散は部室に向かっている最中でした。
んでもって部室の中はこんな状況。
いやぁ、どうなっちゃうんでしょうか?!
気になります?
じゃあ次行ってくださいね!←またこのパターンかよ(苦笑)
ということで、またです。




