Vol.62
優太が部室のドアを開けると、ちょうど聖がロッカーに手を掛けて立っていた。
しかし聖の姿はロッカーに隠れてしまってよく見えない。
「聖?」
優太はひょこっと聖の脇から顔を出した。
「……あぁ、優太か」
ふっと現実に引き戻されたような表情をして聖は優太にふっと笑った。
――なんだ?どうしたんだ、聖のヤツ。
優太から見た聖はなぜか左の胸を左手で押さえていて、笑っているのになんだか辛そうに見えた。
「さっきさ、廊下で変な女に会ったよ……雨貝さん、って言ったかな」
優太は荷物を床に置くとロッカーに寄りかかった。
「もしかして、さっきまでここにいた?」
聞こうかどうしようか散々迷ったが、やっぱり気になる優太は少しおどおどしながら聖を見上げた。
「……まぁな」
随分間をおいて聖はロッカーに手を掛けたまま口を開いた。
「あのさ、すっげーイヤなこと聞くかもしれないけど……あの女、誰?」
優太は聖から視線をはずすとポケットに手を突っ込んだ。
「……まぁ元カノ、ってヤツ?」
色々考えてなのか聖はまた間をおいて、今度は吹っ切ったように努めて明るく優太に答えた。
「あんまりいい別れ方してないからちょっと気持ち的に、さ」
うまく最後まで言葉にできない聖はそのあとはごまかすようにして学ランのボタンに手を掛けてボタンを外し始めた。
「ほんとは高校入ってバスケするつもりなんかなかったんだよ。彼女に……日和先輩にこうやってまた会っちゃうってわかってたから」
学ランを脱いで聖はロッカーにあるハンガーを取り出した。
「でもいるわけないと思っていた吉岡がここでバスケ続けてた……それがわかった時はもう、日和先輩にまた会っちゃうかもしれないなんてすっかり忘れてまた俺はバスケを始めて……」
ハンガーに学ランを通すと、聖はロッカーにハンガーを戻した。
「そしたら……今日部室で再会しちゃいました……まぁ、そんな感じ?」
自嘲気味に鼻で笑いながら聖はシャツのボタンに手を掛けた。
「……あんまりいい別れ方してない、って?」
いい加減自分も着替えないと、と思い始めた優太は遠慮がちに聞きながらその場で学ランの第一ボタンに手を掛けた。
「結論から言うと俺がフラれたのかな、二股掛けられちゃってたというかさ……その時一緒にいた男に『おまえがほったらかしてたから俺は仕方なくおまえの代わりをしてたんだ』って怒られて……でもあの時の俺はそんなの全然理解できなくて、どうしても許せなくて、その場で彼女に別れを告げた。でも実際は彼女が言えないから俺が言ったんだけどさ」
そこまで言うと聖は一気にシャツを脱いでまたロッカーからハンガーを出してかけた。
「……俺、逆だと思ってたよ」
話を聞き終えた優太が学ランをそばにある椅子にかけた。
「てっきり俺はおまえの方が雨貝さんをフッたんだと思ってた」
「なんで?!」
聖は驚いて優太を見下ろすと瞬きをした。
「……いや、なんとなく、カンてやつ。彼女、おまえに未練たらたらな気がしてさ」
自信がない優太は下を向いてごにょごにょと言いながらシャツも椅子の背に置いた。
「なぁ聖、もし、もしもだよ?彼女が『ヨリを戻して欲しい』って言ってきたらおまえどうする?」
自分でもなに血迷ったことを聞いているんだろうと思いながらも優太はジャージを袖に通した。
「それはないだろ……それに」
ジャージを頭からかぶった聖は首を出して優太を見た。
「仮にそんなことがあったとしても俺は戻らないよ。彼女のことはもう終わったことだから」
着替え終了の聖はパタンとロッカーを閉じると「先に行くからな」と優太に言い残して部室を出て行った。
――やっぱり気のせいだったかな。
優太はどうしても気になった。
聖のいつになく歯切れの悪い口調。
そうかと思ったら無理に明るく言ったり。
それはまるで自分に言い聞かすような、そんな言い方だった。
――大丈夫かよ。やっぱり嫌な予感がする……。
シューズの靴紐をしめながら、優太は眉間にしわを寄せ口を尖らした。
こんばんは、愛梨です。
さぁさぁ、雲行きが怪しくなってきましたよ(汗)。
優太のイヤーな予感は当たってしまうんでしょうか。
しかも練習試合と未散の誕生日が同じ日です。
これは一体何を意味するんでしょうか……?
何が起こるのか、気になる人は次をどうぞ!
ということで、またです。




