Vol.59
それは5月の下旬のことだった。
「なぁ聖」
「うん?」
「おまえさぁ、日和先輩と別れてない、よなぁ……?」
最後の大会に向けての練習が終わってジャージを脱ぎながら、隼は微妙な質問をしてくる。
「別れたつもりはないよ俺は……まぁ確かに最近は全然会ってないけど」
向こうも練習で忙しいみたいでさ、と聖は隼に返した。
「まぁしょうがないよなぁ、毎年インターハイ行っちゃうような高校のマネージャーだもんなぁ」
言いながら隼は脱いだジャージをたたんだ。
聖、待ってるからね。来年は一緒にインターハイ行こうね――。
最後に会った日、日和は聖にそう言っていた。
そして新学期が始まると、お互いに部活が最優先になっていたので会うことはせずに電話かメールをしていた。
けれど4月中旬の頃から「最近は毎日遅くまでマネージャーの仕事が終わらなくて、家に帰ってきても疲れてすぐ寝ちゃう。電話できなくてごめんね」なんていうメールがよく入るようになった。
そしてそのメールの間隔もどんどん開いていった。
そして……とうとうそのメールすらも入らなくなった。
5月に入ってから聖は何回か電話したりメールを送ってみたが折り返しの電話もメールの返事もなかった。
――もしかして自然消滅を狙われている……?
そう思い始めていた。
だからさっきの隼の質問は聖が見て見ぬフリをしてきた部分なのだ。
「……なぁ隼。おまえ、なんか見たんじゃないのか?」
聖はシャツを探すためバッグに手を入れた。
「……何を?」
隼もシャツをカバンから探しながら答えた。
「『何を?』っておまえ、自分でふっかけた話忘れるなよ」
聖はシャツのボタンをはめながらちら、と隼を見た。
「あぁ、その話ね……」
隼としては終わった話になっていたのだが、聖が聞き直してくるのでもう一度元に戻した。
「最初はたまたまかな、って思ったんだよ。でも……俺、もう5回ぐらい見てるんだよね」
隼は言いにくそうに切り出しながらシューズの紐をほどいた。
「……何を?」
冷静に言ったつもりだったが、聖のその声は完全にいつもと違っていた。
「日和先輩が男と歩いているとこ。しかも手まで繋いでた。あれは……たまたま同じ方向に帰っているような雰囲気じゃなかったよ……」
隼はもう聖の顔を見れなかった。
あえて脱いでいる最中のシューズを見詰めていた。
「でも見間違いかもしれないし、日和先輩のそっくりさんかもしれないし……」
今度は言い訳するかのように早口で聖に言いながら隼はシャツの裾を制服のズボンにしまいベルトをしめた。
「隼、ちょっと付き合え」
すでに着替え終わった聖は荷物を肩に引っ掛け隼の腕を掴んで歩き出していた。
「ちょ、ちょっと待てって!付き合うから!俺の荷物っ!」
聖の引っぱる腕の強さに負けそうになりながらも隼は机においてある自分のカバンをなんとか掴んで聖についていく。
「聖、どうする気……?」
昇降口で靴に履き替えながら隼は恐る恐る聖に聞いていた。
「決まってるだろ、現場取り押さえるんだよ!」
言うや否や聖は隼を置いて走り出した。
もし隼の言っていることが事実でそれを目の前で見てしまったら自分はどうなってしまうのかなんて今の聖には想像がつかない。
でもこのまま知らないままでいるのはもっと自分が哀れだ。
どうか隼が見たものは他人の空似であって欲しい――。
そう祈りながら聖は隼に日和を見かけた場所へ案内させた。
だがそんな聖のかすかな希望は無残にも崩れ去ることになる。




