Vol.58
3月下旬――。
聖と日和は手を繋いでアクセサリーショップに入っていった。
日和は4月から高校生になるので中学生同士で歩くのは今日で最後だった。
「本当は欲しいけどなくなったら聖が困るもんね……」
卒業式の日に日和が少しだけつまらなそうに聖の第2ボタンを貰えないことを愚痴っていたので、まだ日和には内緒なのだが今日はその代わりになるものを買いにさりげなくこの店に入ったのだ。
「わーこれかわいい……」
日和はあれこれと手にとっては感激していたが、しばらくすると日和がしきりと手にするものが決まってきた。
でもなんだか難しい顔をしている。
「……どうしたんですか?」
聖は日和の隣に並んで日和を覗き込んだ。
「ううん、これかわいいなあと思って。でも3000円かぁ、高いなぁ」
右手の薬指に値札がついたままの指輪をはめて日和は上にかざすと「でもこれ一応値下げしてるんだよねぇ」とつぶやきながら、日和は指輪を外し名残惜しそうに元に戻そうとした。
「日和先輩」
聖はまだ指輪を持ったままの日和の手を捕らえた。
「それ、第2ボタンの代わりということでいいですよ」
――3000円は正直痛いけど日和先輩が喜んでくれるならいいか……。
聖は意識して穏やかに笑うと日和が持っていた指輪を取り上げた。
「……いいの?」
日和は遠慮がちに聖に聞いてくる。
聖はそれに対して笑ったまま静かに頷いた。
「その代わりお願いがあります」
「お願い?」
不思議そうに聞き返す日和に聖はまた頷いた。
「俺もこれ買います。で、ココにはめるんで、日和先輩もココにはめてもらっていいですか?」
そう言いながら聖は日和が夢中になって指輪を見ている間に選んだ指輪を自分の左手の薬指にはめて指差したあと、日和の左手の薬指を指した。
「……なんか聖のお嫁さんになったみたいで照れるね」
日和は聖の提案にはにかみながら笑うと黙って小さく頷いた。
店を出た時には2人の左手の薬指はきらきらと太陽の光に照らされて輝いていた。
これから会うときはこの指輪を左手の薬指にすること。
そんな約束も2人の中で交わされていた。
けれど。
2人がこうして歩くのはこの日が最初で最後となったのだ。




