Vol.56
着替えたら職員室に来いと顧問に言われた聖は、憂鬱な気分のままバッグを肩に引っ掛けのろのろ歩いていた。
階段を下りて左へ曲がると職員室があるのだが、その前の廊下で顧問ともう来ていた日和が聖を待っていた。
――やだなぁなんで俺なんだよ……。
部室でも聖と顧問の会話を聞いていた先輩に、
「西倉ぁ、変なことしたら承知しねーぞ」
「聖、なんなら俺が代わろうか?」
とまぁ、聖からしたらうっとうしい以外の何者でもない言葉を掛けられすでに気が重いのに、
「西倉頼むぞ、ちゃんと家の前まで送ってくれよ」
と顧問には最後の念押しまでされてしまった。
外履きに履き替え一応日和の歩幅に合わせて歩くものの、なんだかとっても家までが遠くに感じる。
――はぁ、早く先輩んち着かないかなぁ……。
気まずい雰囲気が2人の間を取り巻いた。
「……西倉」
聖より3歩ぐらい先を歩いていた日和が聖を呼びながら振り向いた。
「……はい」
聖は思わずびくっとして立ち止まった。
「……西倉って、あたしのこと嫌いだよね?」
日和はそう言いながら怒ったような、泣きそうな顔をして聖を見上げた。
――うっ、どうしよう。なんて言い訳しよう……。
まるで衣に言われている気がする聖はまったく言葉が思いつかない。
聖の思考回路は完全に停止していた。
「そうわかった、もういいよ。明日からは違う人に送ってもらうように頼むから……ごめんね、嫌いな女と一緒に帰るなんてイヤだよね」
返事をしてこない聖に日和は背を向けるとさっさと歩き出した。
「ち、違うんですっ!」
気がついたら聖は日和の背中にそう言っていた。
別に勘違いされたままでも都合はいいはずだった。
そうすれば送らなくてもいいし胸が痛むこともない。
でもどうしてだったんだろう。
このまま気まずいのはイヤだ――。
そう思ってしまったのだ。
「べ、別に雨貝先輩が嫌いとかじゃないんですっ」
何から言えばいいのかわからないまま聖は続けた。
「小1のとき好きだったコがいて、でも俺はいじめちゃってて、それで結局そのコには振られちゃって、で、そのコに先輩が似てるもんだから……あ、いや、す、すんませんっ!」
話はめちゃくちゃだった。
最後にはいろんな意味を込めて聖はぶんっと日和に頭を下げた。
「……そんなに似てる?」
「……え」
聖が見上げると日和がすぐ目の前で不安そうに聖を見上げながら立っていた。
「そのコにそんなに似てるの?」
無理に笑顔を作りながら日和は聖にもう一度聞いた。
聖は返事の代わりに首をぶんぶんと横に振った。
似てるも何も聖の記憶には衣がどんな顔をしていたかということ以外はまったくといっていいほどないので日和とくらべようがなかった。
だけど確かに言えるのは、避け続けた自分のことを衣はきっと気にも留めなかっただろうけど、日和の方は気にしてくれていた……それだけははっきりしていた。
「西倉、お願いだからあたしを見て。あたしは雨貝日和なんだよ?西倉が昔好きだったコのそっくりさんなんかじゃない……」
そこまで言うと日和は聖の目の前でぼろぼろと涙をこぼした。
そして聖の方はというと、目の前で女の子が泣いているというのにただ呆然と立ち尽くしていた。
日和の涙の理由を聖が知るのはそれから1年後のこと。
そしてそれまでには聖の日和への感情も徐々に変わっていったのだった。
こんばんは、愛梨です。
多分中坊ってこんな感じじゃないかなぁ……と思って書きました。
男の子が意味のある女の子への気遣いができるようになるのってどんなに早くても高校生になってからですからね(笑)。
今でこそそれなりに気遣いができる聖ですけど、中学生のときはこんな感じでした(苦笑)。
さて、次回ですけど。
引き続き聖の中学生時代編でお送りします。
場面はここから約1年後、日和が部活を引退した日まで一気に飛びます。
ホントはここでゆっくりとこのときの聖から見た日和を書きたい所ですが、書くとなんかややこしくなるので今回は割愛します。
でもいつか書きたいなぁとは思ってますので、気になる方はどうか首をながーくしてお待ち下さい(苦笑)。
ということで、またです。




