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Vol.54

 未散の誕生日まであと10日というある日のこと。

 聖が部室の前まで歩いていくと、部員そして顧問までが部室のドアの前で全員ニヤニヤ顔で聖を待っていた。

「西倉、お客さんだ」

 顧問が「おまえもスミにおけないな」と言いたげに笑うと、肘で聖をつついた。

「西倉はついでみたいなモンだけど、挨拶したいって言うから部室で待っててもらってるよ」

 部長も聖を顧問の反対側からやっぱりニヤニヤした顔で肩を思いっきり叩いた。

「……なんでみんなそんな顔してるの?」

 何が楽しいのかがわからない聖はどうも気になる。

「だってそのお客さん、すっごいカワイイ女のコなんだもん」

 西倉いいよなー、とみんな声を揃えた。

「……誰ですか、一体?」

 見当がつかない聖は少し恐怖を感じながらみんなの笑顔につられて笑っていた。

「まあ、入ればわかる」

 どうぞごゆっくり、と部員は部室のドアの前をあけると聖にやっぱりニヤけながら手を振った。

――誰だよ……開けるの怖いなぁ……。

 1人部室の前に残された聖はひと呼吸してドアのノブを回してそのまま押した。

 ドアを開けるといたのは……明らかに私立高校っぽいブレザーの制服を着た女のコ。

 部室にある椅子に腰掛けていた。

「……久しぶり、聖」

 部室にいたその彼女は、聖を見るとそう挨拶して遠慮がちに笑った。

――すっかり忘れてた……バスケをやればいつか「この日」が来てしまうってことだったのに……。

「…………」

 彼女の顔を見て聖は声が出なかった。

 聖は未散がこの学校でバスケを続けていることを知ったことでまたバスケを始めたわけだが、もしそれがなかったらバスケをもう一度やろうとは絶対に思わなかった。

 未散を再び見かけるまではバスケなんか2度とやるもんかと思っていた。

 その原因を作ったのは……目の前にいる彼女なのだ。

「なんでわざわざ来たんですか、別にマネージャーなら他にもいるでしょ」

 時間をかけてやっとふさがったはずの心の傷が、彼女に言葉を投げつけた途端にえぐられ始めた。

「あたしが行くって言ったの。聖がいるのもわかってた。多分、会っちゃうんだろうなっても思った」

 そう言うと彼女はまっすぐに聖を見た。

「わかっててどうして来たんですか。俺はもう先輩の顔なんか見たくなかったのに……」

 聖の方は彼女を見ることができない。

 自分のロッカーのドアを勢いよく開け、ロッカーの中だけが視界に入るようにしていた。

 でも、そんなことをしても全く意味がない。

 聖のえぐられた心の傷はどくどくと血が流れ始めていた。

「そうだよね……でもあたしは聖に会いたかった。だからインターハイ予選でコートにいるのを見つけたときは涙が止まらなかった……」

「…………」

 彼女の言葉に聖は振り向いた。

 彼女はそんな聖に泣きそうになりながら笑いかけた。

「最後に会った日に『俺はもう2度とバスケットボールは持ちません』って言ってたのに、1年たったら並木優太と並んでスーパープレイヤーで注目されてるんだもん……まさかそんなことになるなんて思わなかった……でもよかった、またバスケ始めたんだね……」

 話をすればるほど彼女の声はすすり泣く声に変わっていった。

「こんな所で泣かないでください、俺困ります」

 思わず手を差し出しそうになる気持ちを押し込み、聖は彼女から顔を逸らしてロッカーのドアに再び手を掛けた。

「ごめんごめん、聖の優しい所につけ込みそうになった」

 彼女はポケットからハンカチを出して目の下に当てた。

「……1年以上見ないと男の人って変わるね」

 少し落ち着いた彼女は眩しそうに聖を見上げた。

「なんにも変わってないですよ、俺は」

 聖はつっけんどんに返しながらガクランのボタンに手を掛けた。

「ううん変わった、すごい変わった。カッコよくなって大人になった」

「…………」

 背中で聞いた彼女のその言葉に反応して振り向かないようにするには聖にとってはかなりの努力だった。

 今彼女がどんな表情かおをして自分を見ているのか、それを見てしまったら自分が何をしてしまうのか、それをわかっていたからのような気がする。

「……じゃあ、あたし帰るね」

 彼女はそう言うと立ち上がった。

「17日にまた会うけど。ウチと練習試合だからよろしくね」

 彼女はそう言うと部室から出て行った。

 彼女がいなくなるのがわかると足もとから力を奪われるような感覚に聖は襲われた。

 体を支えようとしてロッカーに手をついていた。

――こんなに時間が過ぎたのに……もう終わったと思ってたのに……。

 心の傷はまだズキズキしていた。

 聖は思わず学ラン越しに胸を掴んでいた。


 人生で初めて自分のことを好きだと言ってくれたひとだった。

 そして、人生で初めて自分が憎んだひとだった。

 それが彼女だった。

 彼女の名前は、雨貝日和あまがいひより

 

 そう。

 聖の「初めての彼女」は年上の女だったのだ。

 こんばんは、愛梨です。


 ついに登場です、ラスボス日和ちゃん!!(笑)

 聖の元カノというのは想像つきましたかね?

 まぁ、トップページを読んだ方なら想像もなにもないですけどね、書いてますから(汗)。


 しかも日和、外見がまたやっかいなんです。

 それは読めばわかるんでいいんですけど……なんかすんません、ものすっごいベッタベタな展開にしてしまってます(汗)。

 

 さて次回ですけど、またまたタイムスリップしたいと思います。

 今度は中坊聖くんをご覧に入れましょう。


 ということで、またです。

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