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Vol.52

 それは10月の終わりのこと。

「聖ぃ、いい加減にしろよ。もう何ヶ月たったと思ってんの?」

 あっちい、とTシャツの裾を持って、優太はぱたぱたと体に風を入れた。

 今はリバウンドのトレーニングを終えて小休止。

 あまりに暑くて体育館の外にシューズのまま出て優太は聖を巻き込んで涼んでいた。

 こんなふうにやきもきしながら3年も自分たちのことを見守ってくれていたんだろうかと未散の辛抱強さを尊敬しながら、優太は「いつになったら動くんだよ」と聖にせっついた。

「んなこと言われたって……」

 優太の攻め立てるような言い方に聖はうなだれてTシャツの裾を意味もなく引っぱりながら答えた。


 4ヶ月前の文化祭の日。

 聖は重大なミスをした。

 いや……正確には重大なミスを優太に指摘されてしまった。

 しつこくナンパしてくる男から未散を助け、さらには2人きりになるチャンスにまで恵まれた。

 一時いっときは雲行きが怪しくなったが、聖としてはそれはそれは一大決心で未散に衣との事に関しての誤解を解き、愛の告白をした。

 その結果未散にはなんとか理解してもらった。

 それで気をよくしてしまった聖はそこからついついイケナイ悪戯を始めてしまったのだ。

「んんっ……!」

 ほんの少し聖の唇が首筋を這わせただけで未散の甘い吐息が漏れた。

 恐らく未散にとっては初めての感覚だったのだろう、完全に聖の寄りかかり咄嗟に聖の腕を力なく掴んでいた。

 こうなってしまったら聖の方は面白くてしょうがない。

 未散が抵抗しないのをいいことに調子に乗って唇を這わせる場所を肩や背中にまで広げた。

 ……けれど、

「聖くんもうやめよ……いつまでするの……?」

 きっと誰も聞いたことがない未散の上ずった声と自分に振り向いて見上げる潤んだ瞳に、

――これ以上同じことしたら間違いなくこの場で吉岡押し倒すわ……。

 危ない危ないと思いつつ、

「しょうがねぇな、今日はこれで許してやる」

 と、何を許すのかよくわからないことを言ってのけ、聖は意味深に笑いながら未散から腕をはなした。

 だけどあの時の未散は今でも聖の頭の隅にいて、未散が見せるふとした仕草に刺激されて突如思い出すこととなり、そのたびに聖は慌てて掻き消していた。

 おまけに未散には、

「うん、わかった」

 と、これまたどういう意味なのかがわからない返事をされてしまった。

――なんだよその返事……俺の都合で理解していいわけ?

 未散に直接真意を聞けない聖は今も変わらず悶々としている。

 つまり……悪戯をしたのはこっちのはずがモノの見事にその仕返しをされてしまっている、というわけだ。

 それでもとりあえず収拾はついた――少なくとも聖はそう思っていた。

 しかし優太はそれに対して非常に痛い突っ込みをしてきたのだ。 

「……なんだそれ、すっげー中途半端じゃん。遠まわしすぎてわからん」

 優太は聖にそう言うと口をへの字にした。

「わかるって、優太じゃあるまいし」

 完全に優太を馬鹿にしたように聖は鼻で笑って返したのだが、優太はますます口の端を下げた。

「いやわかんないね、ってか俺はわかりたくない。ダメ、そんなの」

 優太を腕を組み、ギロ、と聖を見上げた。

「優太にダメ言われても……」

 聖はぽりぽりと頭を掻いた。

「じゃあ聞くけどさ、未散はなんか返事したのか?俺にはどこでなにと未散が返事したのかさっぱりわからなかったぞ?」

 ほらどうした言ってみろといわんばかりに優太は鼻の穴を膨らませて相わらず聖を見上げ続けた。

「それを言われると確かに……」

 聖のこの弱気な発言がいけなかった。

「ほらみろ!未散わかってねーじゃん!ダメ!もう1回やり直し!」

 優太はすかさず聖に命令を下したのだ。

「そんなぁ」

 優太を見下ろして聖はもう泣きそうな顔をする。

「そんなぁ、じゃない!悪いのは聖だろ!」

 優太は聖の脇腹をグーで押そうと腕をさっと伸ばした。

「もう無理だよ……あれ以上無理なにしろって言うんだよ……恥ずかしいじゃん……」

 優太に押されそうになる脇腹をなんとかかわしながら聖は抗議した。

「なにが『恥ずかしいじゃん』だよ?!相手からどんな返事が来るのかわからないままビクビク言うよりマシだろ?!そのぐらい我慢しろ!ちゃんと言えっ!」  

 だーっ!まったくよー!と優太はもう1回拳で聖の脇腹を攻めた。

「すぐそれができるなら誰も苦労しないって……」

 今度は見事に脇腹に優太の鉄建を食らった聖は「いってぇ……」と脇腹をさすった。


 同じ時間、未散も未散で似たような突っ込みを衣に入れられていた。

「ふーん、そう。それはよかった」

 後夜祭前の片づけをしながら未散の話を聞いていた衣は「あーよかった、これでもう知らないフリをしなくてすむ」とかなりホッとしながら心の中で胸をなでおろしていた。

「あれ?でも待って」

 衣はなんか抜けている気がする、と思ったのだ。

 衣装をたたみながら衣は未散に呟いた。

「なんかさ、未散はどこで西倉くんに返事をしたんだ?って思っちゃったんだけど」

「そ、そうかな」

 脱いだ服をわたわたとたたみながら未散は衣に答える。

「うん……西倉くんは『あぁここで言ったんだな』ってわかるんだけど」

 たたまれた服を衣はダンボールにしまいながら思ったことをそまま未散に伝えた。

「……言われてみればそうかもしれない」

 未散の服をたたむ手が止まってしまった。

「えーっ!?ダメじゃんそんなの!」

 最初にダメ出ししたのは自分の癖に、さらに衣は未散にダメ出しをした。

「どうしよう、ね、衣、どうしよう……」

 未散は急におろおろし始めた。

「どうしようって言われても……」

 無責任は衣は困っている未散になにも言ってあげられない。


 そんなわけで、優太と衣のせいで2人の関係は振り出しに戻ったような状態になってしまった。

 しかもそれが未散最大の悲劇の始まりになろうとは、このときは誰も知らない。

 こんにちは、愛梨です。


 未散と聖のコイバナ後編を始めました。

 それにしても……聖くんちょっとやらしいから!高校生なのに!!(汗)

 未散も未散で相当やらしいし!!(苦笑)。

 そんなことしてるから優太と衣に突っ込まれるんだってば!……なんて全然関係ないのに思ってみたりする私です(笑)。


 で、前回予告したとおりそのうちラスボス(?)が登場してきますけど、次回はその前の余興というか、ちょっとだけ2人の距離が縮まる胸キュンエピソードでお送りします……って、「胸キュン」なんて誰も今どき言わないわね(苦笑)。

 

 ということで、またです。

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