Vol.51
無事に悪党から救出し未散の手を取り逃げ続ける聖は、階段を駆け上がると今は物置化している3年生の教室のドアを開けた。
そして未散を押し込むようにして中に入れ、自分も入ってドアを閉めた。
実際は優太が男をひっ捕らえたのでもう追っ手はないのだが、そんなことはわからない聖は未散の手をはなさないままドアの壁に寄りかかり息を潜めた。
「聖くん怖い、怖いよっ……」
もうここにはあの男はいないのはわかっていても、さっきまでの自分の手を縛るように掴んでいた力の強さや声や目つきを思い出すだけで下から恐怖が押し寄せる。
未散は思わず溺れた人のように聖の左腕を手繰り寄せ抱きかかえていた。
――吉岡ちょっと待って、それやめて、俺がマズい……。
祭りはまだまだ盛り上がっているわけで、おそらくこんな物置みたいになっている教室には誰も来ないわけで、目の前には自分に全て頼りきっている惚れた女がいるわけで、その女が昨日聖に衝撃を与えた姿をしているわけで、無防備に自分の腕にしがみついるわけで……。
――ヤバい、ヤバいヤバいヤバいっ……。
未散がしがみついてくればしがみついてくるほど、女特有の感触が聖の腕には伝わってくるわけで、聖の空いている手が制御不能寸前になる。
「……ったく、吉岡自覚なさすぎなんだよっ!」
もう無理と思った聖は未散から腕をはなす口実に未散の手を振りほどきながら冷たく言い放った。
「昨日からあれだけみんなに言われてるのになんでわかんないんだよ。だからこんなことになるんだろうーが」
まだ自分の腕に当たっていた余韻が残っているため未散に何をしてしまうかわからない聖は、彼女を見ないことがいちばんの得策と思い未散に背を向けた。
「わかってるよ、珍しがられてからかわれてたってことぐらい……聖くんだってそうでしょ?」
情け無用で腕を振り払われた未散は愚痴り始めた。
「どうせ似合いませんよ、衣みたいにかわいくないですよ、ギャルソンの方が似合いますよーだ……」
未散も聖に背を向けてプイッ、と横を向くと、
「助けていただきまして感謝しておりますっ、ありがとうございましたっ!」
不機嫌極まりない表情で聖を睨みつけ、可愛げない言い方でお礼を言った未散はドアに手を掛けた。
――こいつは人の気も知らないでっ……!
ムカッときた聖は振り返ると未散に手を伸ばしていた。
またやってしまったと一瞬思ったがもう遅い。
何の予告もなく後ろからドアを開けようとする未散の手を掴むと、空いたもう1つの手で未散を強引に引き寄せていた。
「なにすんのよっ!はなしてっ!あたしは衣じゃないっ!」
抱きしめられた聖の腕の強さに、未散の中であの日の悲しい思いが一気に押し寄せた。
「もうやだっ!衣の代わりなんか絶対やだっ……!」
聖の腕から逃れようと未散は死にもの狂いでもがいた。
けれどそうすればするほど聖の腕は自分の体に絡みついていく。
「お願い……もうはなして……はなして……」
力尽きた未散は泣きながら聖に懇願していた。
「もういいでしょ……いい加減にしてよ……」
聖の浴衣の袖を掴むと、未散は右に左に弱々しく揺らした。
――こんなかわいいの誰がはなすか、バーカ……。
頭には来るけれどさっきの男の気持ちがよくわかると思いながら、ぐすぐすいいながら駄々っ子のようにまだ暴れる未散を聖はさらにきつく抱きしめた。
「いい加減にしろは俺のセリフだよ、誰もそんなこと言ってねーだろ……?」
なんでだよ、と聖は未散の背中につぶやいた。
「なんでこんなの着てんだよ……こんなの着ちゃったら吉岡がほんとは超エロカワイイ女だってみんなにバレちゃうじゃんか……そんなの、やだったのにさ……」
「…………」
予想外の聖の言葉に未散の動きが止まった。
でもそれに気がつかない聖は腕の力を緩めることなくさらに言葉を続けた。
「見に行ったときみんなかわいかったよ、そう思ったのは認めるよ……けどさ、吉岡だけは無理。かわいいって思うだけじゃすまなかった。ずっと見てたら人がいるのも忘れて俺がどうにかなっちゃそうだった……そういうの、吉岡全然わかってねーんだもん、すっげー腹立つ……」
未散の手を掴んでいたその手をさらに強く握り締め、聖はドアから未散の手をはなさせた。
「吉岡のやることなすこと全部に俺がどれだけ引っ掻き回されてるかお願いだからわかってくれよ……俺の好きな女が小橋だとかそんなこと思うなよ……」
言いたい放題言った途端急に恥ずかしくなってきて、聖は未散の肩に顔を埋めた。
「……今ここにいるのもあの日聖くんの目の前にいたのもあたしだった?衣じゃなくて……?」
それまで黙って聞いていた未散が少しだけ聖に振り返りそう返していた。
「言っとくけど他の女で好きな女見れるほど俺は器用じゃないし、興味がないならどんなに綺麗でかわいい女でもむやみやたら触るような、そんな節操ない男じゃないつもり」
聞いてることにちゃんと答えているのかかなり怪しい回答を聖はやっぱり顔を伏せたまま未散に返した。
「小橋のこともあれはもう大昔の話。とっくに時効成立してるから。あれは単に小橋に謝りたかったことがあってそれがずっと気になってて忘れられなかっただけ、小橋自身をどうこうじゃない」
だから、と聖は続ける。
「あの時吉岡に謝ったのは吉岡になんの断りもしないであんなことしちゃったから。小橋の代わりにしたからじゃないよ……」
聞かれてないことにまで答えている気がするが、結局思う事全部を聖はぶちまけた。
――あーもうなにやってんだろ俺……。
こんなことまで話すつもりはなかったのに、もっとカッコくいきたかったのに、今の自分はかなり情けない。
おまけにそれがきっちり未散に伝わってしまっていると思うととってもカッコ悪かった。
でも今更どうすることもできず、聖は未散の肩にため息をついた。
――え、嘘、泣いてる……?
しばらくして自分の腕にぽたぽたと涙が当たることに聖は気づいた。
――うわーまたやっちゃったよ……なに泣かしてるの俺は……。
おそるおそる聖は顔を上げた。
思ったとおり未散は自由になる手でしきりと目をこすっていた。
けれど……なぜか顔を見ると笑っていた。
――それって、あたしの自惚れじゃないんだよね、思ったまま解釈していいんだよね……?
未散は自分の力で涙を止められなくなっていた。
初めは都合よく考えているだけだと思っていた。
でもここまで言われてしまっては「聖くんの好きな女は衣」と思ってしまうような悲観的思考を持つことのほうがもはや難しかった。
――聖くんの好きな女は衣じゃない。衣じゃなくて……。
まさに泣き笑いとはこのこと。
笑いたいのにあとからあとから涙が頬を流れた。
「そうやってまた泣く。頼むからさ、こういうところであんまり女のコになんないでくれる?俺またおんなじことするよ?」
言いながら聖は後ろから未散を覗き込んだ。
思ったとおり未散は……聖が黙っていられない顔をしていた。
――今は俺は悪くない、絶対悪くない。そんな表情する吉岡が悪い。
心の中でそう言い訳しながら聖は後ろから未散に近づくと……唇で右の頬に触れた。
――え?え?!な、なに?!
突然のことに未散は自分の右のほっぺに手を当てながら聖に振り向いた。
「悪いけど今度は謝んねーからな、俺悪いことしてないもん」
弁解する聖は未散が何も言ってないのになぜか怒っていた。
いや、開き直っていたというほうが正しいかもしれない。
「……聖くんだからいいです、許します」
聖のなんだか偉そうなモノの言い方に、思わず未散は笑っていた。
まだ残っていた最後の涙が未散の笑顔にこぼれ落ちた。
それにつられて聖もまた、笑っていた。
こんばんは、愛梨です。
未散と聖のコイバナ編はいったんここで終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
でもこれ、まだまだ続きます。
だって、なんか中途半端感が拭えないでしょ?(笑)
実際次回はそこを優太と衣に突っ込まれるんですけどね。
しかも、しかもです。
またもや新キャラが登場します。
RPGで言ったらラスボス的存在のキャラが登場します。
一体それは何者なのか。
それは……続き読んでください←結局それかいな(汗)。
それでは次回より後編に入ります。
引き続き応援よろしくお願いします(平伏)。
それでは、またです。




