Vol.40
優太から電話が入るなんてこれっぽちも考えていない未散は、「男子お疲れ様会」の会場になっているカラオケボックスで他の女バス部員と一緒になって歌って踊ってタンバリンを振り回していた。
未散たちのいる部屋は主役達そっちのけで大いに盛り上がっていた。
「もしもし?!え?!なに?!聞こえない!」
ポケットに入っていた携帯がぶるぶるいうので出てみたが、何も聞こえない。
「ちょっと待って!切らないで!」
未散は部屋を出た。
「……はい、ごめんなさい。どなたです?」
『どなたです?じゃねーよ!なんだよこっちは大変なのに!』
電話の相手は優太だった。
『未散、悪いんだけどさ、学校戻ってきて?』
「なんで?」
『いいから戻ってきてくれよ』
「だから、なんでって聞いてるの。なんで戻らなきゃいけないのよ」
いきなり命令を出してくる優太に対して、学校まで自転車で15分もかかるのでめんどくさいと思ってしまった未散はなんとか逃げる口実を作ろうとする。
『未散さ、最後聖が外したの見てただろ?』
「うん」
『誰も聖が最後に外したことなんて責めてないのに、どうもまだ最後に外したこと気にしててもう1時間も座ったまま動かないんだよ』
「……で?」
『で、もう男じゃダメだから女にしようってことになって……』
「……で、あたしなわけ?」
優太の用事がようやくわかった未散は今度は逆に優太に質問をした。
『だって未散しか思いつかなかったんだもん……』
優太の答えは語尾になるにつれ小さくなる。
『な、このままじゃ聖動かないんだよ。未散頼む!待ってるから』
「え、や、ちょ、ちょっと優太?!」
イイもイヤも未散が言う前に、電話はぶちっと切れた。
――なんなのよ、言いたい放題言って。
「あーもう!なんなのよ!」
携帯をポケットにしまいながら怒りつつも、未散はもう1回ポケットに手を入れていた。
そして……自転車の鍵を握り締め廊下を走り始めていた。
「……な、ひどいだろ?」
「…………」
優太のことを無視して未散は聖に気づかれないようにこっそり開けた男バス部の部室のドアを無言で閉めた。
「……ね、ほんとにあれをあたしがなんとかするの?」
眉間にしわを寄せて未散は優太に振り返った。
「なんとかして。とりあえず俺たち男はもう降参だから」
ごにょごにょと言いながら優太はポケットから部室の鍵を取り出した。
「ハイこれカギ……あとは頼んだ!」
優太は部室のカギを無理やり未散に押し付け、逃げるように行ってしまった。
「やっぱり優太はおバカだ……」
優太の小さくなっていく足音を聞きながら未散は大きく大きくため息をつき頭を抱えた。
昨日といい今日といい一応優太としては気を利かせているつもりなのだろうが、これはちょっと違う気がする。
ただの部活仲間の女と好きな女では同じ「元気出して!」の言葉でも相手への入り方は全く違う。
それをわかっていてやるなんて気が遠くなりそうだった。
――あたしなんか来たって意味ないじゃん……あたしが言ったってしょうがないじゃん……衣が言わないなら誰が言ったっておんなじだよ……。
未散はまた、はぁと深く深くため息をついた。




