Vol.39
聖の隣に椅子を運んでくると理はどかっと座った。
「西倉、正直助かったよ。ほら、俺たち受験生じゃん?このまま勝っちゃってたらみんな浪人生コースだったし。心優しい西倉は俺たち3年のことを考えてわざと外してくれたんだろ?」
理はそう言って持っていたペットボトルを開けると入っていた水を飲んだ。
「公立の進学校が県ベスト4まで残るだけでも大したもんさ」
理は聖の左肩にもたれるように手を置いた。
「だからさ、そんなに落込むなって……な?」
理はできる限り笑顔を作り、聖の顔を覗き込んで聖に同意を求めた。
「……すんません……俺のせいで……」
しかし、聖は理の顔も見ないで謝るとまたうなだれてしまった。
理は完全にお手上げの表情でみんなに手で『ダメダメ』と合図した。
それを見た部員全員が最後の頼みの綱だった理の答えにがっかりしながら聖に目をやる。
――こりゃほっとくしかないか……。
作り笑いをやめ理はさっきから誰が何を言っても謝る以外は何も語らずピクリとも動かない聖にため息をついた。
「おい相方」
理は優太に肩を組むとしゃがませた。
「なんかないのかあいつを立ち直らせる方法は。みんな帰れねーよ」
理は優太にヒソヒソ話す。
あのあとボールは……リングにはじかれ床へバウンドし、試合は終了した。
でも3年生は、
「今まで地区大会1回戦敗退が常だった俺たちがここまで来れた。それだけで何も思い残すことはない」
「ここで終わっておかないと受験がヤバイ」
とかなりの爽快感あるいは安堵感しかなく、他のメンバーも、
「優太1人ではここまで来るのは無理だった。聖が来てくれて、コンビ誕生のおかげでここまで来れた」
と思っている。
つまり、聖を責める気など誰一人として更々ない。
だが聖はというと、
「負けたのは全部俺のせい」
とすっかり悲劇の主人公になってしまっているのだ。
最初は佳佑が、
「西倉が来てくれた最後の2週間がいちばん楽しかったよ。おまえと並木のおかげで俺たちは夢を見れた。ありがとな」
と声を掛けたのだがそれがいけなかったらしい。
聖はこのときも佳佑の顔を見ずに、
「……連れてけなくて、ほんと、すんません……」
と、佳佑は涙ながらに謝罪されて終わってしまったのだ。
そのあとみんなであれこれ考えて聖に声をかけるが全てムダに終わってしまった。
もう打つ手がない。
しかしこのままにするわけにもいかないので多分何も出ないとわかってはいるのだが理は優太に案を練らせようとしたのだ。
「んなこと言われても俺わかんないっすよ。あそこまで落ち込んだ聖見たことないし、試合に負けても俺あそこまで落ち込まないし……俺に聞かないでくださいよ」
理の想像通りの返事が優太から来る。
「並木はほんとにおめでたいヤツだな……お前のその性格、少し西倉に分けてやれよ」
「んなこといわれても。あれが聖のいい所なのに俺みたいになっちゃったらダメに決まってるじゃないですか。聖はいいんです、あれで」
理の嫌味に全く気がついてない優太は真っ向から正論で反撃する。
「わかる、それはわかるよ、うん。並木が2人いたら俺たちも迷惑だしな……って、バカ。今はそんなことどうでもいいんだよ、なんかないのかよ?!」
話に乗った自分が悪いのに、理は優太に責任転嫁した。
「じゃあ聞きますけど、理先輩がもし落ち込んだらどうしてほしいです?」
「そりゃ決まってるだろ、かわいい女のコに『元気出して!』って言って貰う」
「……それって、聖にアリだと思います?」
「あん?」
理が気のない返事をすると、優太が藁にもすがる思いのような目で理を見つめてくる。
――やべ。こいつ俺の答え、本気にしてやがる。
こっちはちっとも真面目に答えていないのに優太は大真面目に理に質問してくるから理はちょっとだけドキドキしてしまっていた。
「さぁなぁ……けど、男に言われるよりは少しは意味あるんじゃね?だって男がさんざん励ましたのにあれだぞ?」
理は優太にそう言いながらやっぱり1ミリも動かない聖を再び見た。
「……わかりました。理先輩、あとは俺がなんとかしますから打ち上げ先に行ってていいですよ」
優太は理に自信満々な顔をした。
「……ほんとに大丈夫か?」
理はそんな優太に心底心配な顔をする。
「はい……多分ですけど」
「……わかった、あとはまかせた」
理はニッと笑って優太の頭をぐりぐりと撫でると、
「よし、みんな帰るぞ、打ち上げ行くぞ!」
と手をパンパン叩いてみんなの輪の中に入っていった。
そして優太の方は……部室の物陰に隠れ携帯電話を取り出し未散の番号をしていた。
――かわいくないけどまぁいいだろ。未散のこと聖は綺麗なコって思ってるし。
優太は未散の番号を見つけると発信ボタンを押した。




