Vol.4
小学校6年生になってからはますます優太人気は上昇した。
今もそうなのだが当時から「ど」がつくくらいチビの癖になぜか優太はバスケ部に入部。
大丈夫なのかと衣は心配したが、優太のほうはいうと「どチビだからこそできるんだよ」とフットワークを生かしたプレイングで関係者たちが注目する選手にまで成長した。
そして女のコ達からはというと、同級生や後輩達には「カッコイイ」先輩達には「カワイイ」と評価され、声を掛けられれば笑顔で応えるし、「あげる」と差し入れを渡されればそれがこと食べ物となると「どうもありがと!」とやっぱり嬉しそうに笑って言ってしまう性格も手伝って外部にまで知られる人にまでなっていった。
けれど衣のほうは……そんな積極的なことができなかった。
友達から誘われなかったら試合には行ったことがないし、差し入れのほうもしてあげたいと思いつつも「嫌いなものをあげちゃったらどうしよう」「ウザいと思われたらどうしよう」と考えただけで気後れしてしまって何もできずにいた。
そうやって優太はどんどん衣から離れていってしまったのだ。
しかし、そこに救世主が現れた。
それが未散だった。
未散とは中学1年生のとき初めての席替えで隣になった。
そのときは未散もまだ衣より少し大きいくらいで怖くなかったし、
「あたし英語わかんないよーどうしよー衣教えてー」
と、人懐っこく話しかけてくれた。
で、いつも、
「優太っ、衣天才だよ、あんたも教わりなよ」
そう言っては優太をも巻き込んでくれたのだ。
すでにこのときには、
「優太ってすごいよねぇ、今日も3年生のすっごい綺麗な先輩に告白されてたよ。これで何日連続なんだろ」
と、未散が何気に優太のことを口にしたのに対して、
「優太その女になんて言ってた?!」
と思わず聞いてしまったことにより、あっけなく「自分が優太が好きだ」ということを未散に白状してしまっていた。
小学校が一緒、しかも同じクラスになったこともあるのにまともに話したことが1回もないのを未散はこのときに知り、それはそれは驚いていたが、
「まあ、任せてよ」
ということで、いつも勉強ができない馬鹿なふりをしつつ衣と話をし、そのあとさりげなく優太にも話をふっていつの間にかそれなりに優太と会話ができるようにさせてくれた。
こうして優太を好きになって7年目にして衣はやっとまともに優太と話せるようになったのだ。
……しかし。
話せるようになったのはいいのだが何かというとすぐに、
「衣かわいい」
「衣大好きっ」
「衣愛してる」
と、どこまで本気なのかさっぱりわからない歯の浮くような台詞を優太は毎日のように衣にのたまっていた。
「何言ってんの、バッカじゃないの!?」
衣はいつもそう冷たく優太には返すのだが、
「その怒った顔もかわいいっ!」
とまたそんなことを言い残し、必ず犬コロにするみたいに頭を撫でて「じゃあなー」とすたこらさっさと去っていく。
「もう!あたしは犬じゃないっ、バカ優太っ!」
と、優太のせいでくしゃくしゃになってしまった頭を自分で撫でながら優太の背中に怒るのだが、半分はいつも嬉しくて笑ってしまっていた。
3年になり、衣は信じられない噂を耳にした。
優太が県内にあるバスケが全国レベルでも屈指の私立高校のスポーツ推薦を蹴って、自分と同じ高校に入るために勉強を始めたというものだった。
もちろんまわりも初めは誰も優太が本気でそんなことをするわけないと信じちゃいなかった。
スポーツ推薦でその高校に行けば高校バスケットボール界のトッププレイヤーになれること間違いなしなのにそれをやめるなんて、どう考えてもおかしい。
それに、衣は常に学年3本指に入る秀才であったが優太は学年でいつも3ケタ。
とてもじゃないが成績では差がありすぎてありえない話だったのだ。
しかし、部活引退後の優太の成績はめきめき上がり続け最後の定期テストでは学年で7番をとってまわりをあっと言わせた。
そして……衣と同じ高校に合格してしまった。
一体何が優太をそこまで動かしたのかを知っているのは未散だけで、まわりはもちろんのこと衣も本当の理由は知らない。
タテマエ上は、
『男は賢くなきゃダメだろ。バスケできたって生きていけない、食ってけないだろ』
とまぁ随分と大人的な理由にはなっているのだが。
だが衣にとってはそんなとはどうでもよかった。
また優太に毎日会えることが嬉しかった。
優太には失礼だが、成績のことを考えたらもう高校は一緒ではないだろうと諦めていたからだ。
……けれど。
毎日会えるということは優太が女のコ達に言い寄られるのを見てしまうということ。
今日みたいなことを毎日見るということ……。
まだ入学して10日も経っていないのに、ギャラリーにいた彼女達から見た優太はすでに「女のコたちのヒーロー」だった。
本当ならみんなに紛れて一緒になって声を掛けられればどんなに気が晴れるだろう。
だけど衣にはそんな勇気はない。
……いや、そんなのは綺麗ごとだ。
彼女達と一緒だと優太に思われたくない。
冗談かもしれないけれど、優太の「大好き」という言葉は自分だけの特権だと思いたい。
だけど彼女達が羨ましいと思っている自分がいるのも確かなわけで――。
……それに。
優太はバスケ仲間ということ以外なにもないとはどんなに頭ではわかっていても、部活でも隣にいられる未散にでさえ嫉妬することもある。
さっきだって未散に頑張って笑ってを振ったけれど本当はこう思っていた。
お願いだから優太の隣になんかいないでよ!離れてよ!――って。
でも……親友に腹を立ててしまう自分に情けないやら悔しいやらで、衣の頭の中はすでにドロドロになっていた。
――あたしおかしいよ……。
「ひっ……くっ……」
とうとう衣は歩くことができなくなりその場にしゃがみこんでしまった。
学校の廊下なので声を上げて泣くこともできない。
泣きやまなきゃいけないのに涙は容赦なく流れていく。




