Vol.3
未散と優太が衣を追いかけ始めようとしていた頃、衣のほうは目にいっぱい目を溜めてひたすら下を向いて小走り気味に教室へ向かっていた。
『ねえ知ってる?なんか今年の1年生で超可愛い男のコがいるらしいよ』
『知ってる知ってる、並木優太くんでしょ?』
『今日バスケ部って練習試合やるらしいんだけど並木くん出るんだって!』
『ほんと?!行こ行こ!』
すれ違う女のコ達が体育館に向かいながらそう楽しそうに会話をしているのを聞いているだけで衣の目からはみるみる涙がこぼれていく。
小学生のときからそうだった。
優太はいつも人気者だった。
勉強はイマイチだったけど、カッコよくて明るくて優しくて正義感のある、スポーツならなんでもこい!の男のコだった。
小学校1年生のとき『可愛いからいじめてしまう』心理そのもののクラスの男共にありとあらゆるいたずら……とはいってもスカート捲りとか追いかけられて髪の毛を引っ張られる程度だが、それを毎日のようにされていた衣は反撃することもできずにいつもめそめそと泣いていた。
その時必ず衣の目の前に現れては、
「女の子泣かしちゃダメだって先生言ってただろ!!」
あっち行けっ!と奴らを蹴散らしてくれたのは同じクラスの優太だった。
そしてその後は必ずといっていいほど、
「衣ちゃんもう大丈夫だから泣かないで」
そう言っては衣が泣きやむまでぎゅっとしてくれて頭もなでなでしてくれた。
断っておくが当時の優太は衣に対してなにか特別な感情――つまり「恋愛感情」があったわけでない。
当時の担任の「男の子は女の子に優しくしましょう」という言いつけをちゃんと守らなくては、ということでそれを実行しただけだった。
それからぎゅっとしたのも、いつも優太の母君が自分が泣いているとしてくれることを真似しただけ。
だから……優太の方は特に深い意味でやったわけではない。
だが衣にとってはそんなことをしてくれる優太は『優しくて強いヒーロー』だった。
たったそれだけことから衣にとっての優太は、大きくなるにつれて『ヒーロー』から『想い人』へと変わっていく。
けれど、ヒーロー優太はだんだん衣だけのヒーローではなくなっていった。
困っている人がいたらほっとけない。
女の子が泣いていたらほっとけない。
そう言っては皆に分け隔てなく優しい優太が、
「優太くんて、優しいしかっこいいしいいよねー」
と、女の子達みんなのヒーローになっていくのに時間はかからなかった。
ただ1つ救いがあったとすれば当時の優太は女の子に全く興味がなかったことだ。
いろんなクラスの女の子に「優太くん好き」と言われても、
「俺も好きだよ、沙希ちゃんも洋平もみんな好きー」
そんなアホな返事をして、
「優太くんのバカッ!」
と、告白をした女の子に怒られて、
「え、なんで……?」
……と、きょとん、と立ちんぼしていることがよくあった。




