Vol.2
入学式から2日後。
優太に連れられて未散はバスケ部の部室に向かっていた。
「行ったらびっくりしたよ、だって未散と背がおんなじぐらいの人ばっかなんだぜ!」
「当たり前じゃない高校生なんだから……ってか、優太が小さすぎるのよ」
「るっさいな、今から伸びるんだよ。見てろ、絶対そのうち未散よりでかくなってやるからな!」
「はいはいわかりました。じゃ、とりあえず頑張って15センチぐらい伸ばして下さい」
言いながら未散は女子バスケ部の部室のドアをノックした。
優太のほうはというと「くっそー180センチになって未散を見下ろしてやる!」とぶつぶつ言いながら男子バスケ部の部室へ歩き出した。
そんな優太を未散はちょっと鼻で笑って見送り「失礼します」とドアを開ける。
その瞬間、
「いらっしゃーい!」
黄色い声が部室に響いた。
「吉岡未散さんだよね?お待ちしてました、ようこそ我がバスケ部へ!」
1人の先輩が目をまあるくして立ち尽くす未散の手を取りブンブンと上下に大きく振る。
「あの、すみません、どうしてあたしの名前を……?」
自己紹介も何もしていないのにまるでずっと前から自分の事を知っているかのような歓迎を受けた未散はちょっとだけ目を白黒させる。
「県内の高校の女子バスケ部員で吉岡さんを知らないとか、吉岡さんを欲しがらない学校は多分ないと思うよ?その身長が1人いたらぜんぜん違うもの」
「そ、そうですね……」
確かに中学生の段階で170センチ以上の身長を持つ女子バスケットボールプレイヤーはそういない。
先輩の答えに未散も多少納得した。
しかし「デカい」というだけでこんなにも人に喜ばれたことは初めてで、未散はかなり気持ちがこそばゆい。
「……で、今日はどうしたの?さっきはついつい『いらっしゃい』なんて言っちゃったけど、それで正解だった?」
「あ、ハイ、よろしくお願いします!」
未散が頭を下げると女子バスケ部に再び歓喜の叫びが沸きあがった。
――やっぱり優太ってすごいわ……。
スコアボードをゴロゴロ引っ張りながら、隣で笑顔を振りまき手をギャラリーに振り『並木くーん!』と女のコ達に手を振り返されている優太を未散は半分尊敬の眼差しで見下ろしていた。
今からバスケ部は新入生歓迎の男女混合の練習試合を始めるのだが、いつどこでその話を聞いたのか体育館の観客席にはありえないくらい女子生徒がごった返していた。
その原因を作ったのは……この優太め、である。
「優太っていつの間にこんなに有名人になってるの?」
「……知らん」
「こんなことして先輩達は大丈夫なの?」
「ってより先輩達が『やれ』っていうからやってるだけ」
そう未散に返しながら優太はまた笑顔で『ありがとー』とか言いながら手を振った。
中学のときもそうだったのだが、どうも世の女性達には優太のルックスは受けがいい。
未散が優太を男として見れない原因の1つにもなっているが、見た目の上での唯一の欠点は「ど」がつくくらいチビである事ぐらいか。だって……いまだに身長は158センチだし。
――しかしよくもまぁ、優太1人にこんなにも女のコばっかり集まるもんだ。
ボードを出し終わり今度はボールカゴを倉庫に取りに行きながら眺めていた未散だが、沢山の女のコ達の群れの中に衣を見つけて硬直した。
優太は相変わらずファンサービスを続けている。
それを見ていた衣は今にも泣きそうな表情をしていた。
隣にいた未散には作り笑顔で手を振ってくれたが、すぐにその笑顔は消え未散に背を向け始めていた。
――やばい、優太気づいてない……。
「優太っ、愛想振りまくのやめなっ!」
未散は手を振るためあげていた優太の腕を強引に下ろした。
女のコ達からは「やだぁ!」「ちょっとなによあのデカ女!」とブーイングモードが出始める。
「な、なにすんだよ?!」
不意をつかれた優太はびっくりして未散を見る。
「衣が来てたんだってばっ!」
ほらあそこ!と未散はあごで衣がいたところを指す。
しかし……衣の姿はすでに人ごみに紛れて消えていた。
――嘘だろ……。
優太の表情からも笑顔が消える。
「せ、先輩、あと何分で試合始めますかっ?!」
優太は焦り顔で漫談で盛り上がっている先輩達の輪に入った。
「うん?あ、もうこんな時間か。そろそろやるか。……どうした並木、顔真っ青だぞ」
部長の小田佳佑が優太に答えながら顔色が悪い優太を心配した。
「す、すんません、ちょ、ちょっとトイレ!」
佳佑の言葉を半分聞いたかどうかのところで優太は衣を追いかけるため走り出した。
「あ、あたしも行って来ます!」
これはまずい、と思った未散も優太の後を追いかけた。
「……随分我慢してたんだな」
佳佑は未散と優太の猛ダッシュを見て呑気に言いながら「よーし始めるぞ!」と部員達に声をかけた。




