Vol.37
県大会前日の、最後の練習の休憩中。
「……なぁ優太」
「あぁ?」
「おまえってさ、吉岡のこと女としてみたことないわけ?」
「……は?」
優太は聖の疑問に返事するかのように「何を言ってんだ聖は」という顔をした。
ここ最近の聖の疑問は1つ。
それは、未散と優太のありえないほどの仲の良さだった。
それは単に聖にはあんなに男同士のように何でもかんでもい合える女性の存在が今までいなかっただけなのだが、それにしても2人の関係が聖にとっては考えられないのだ。
「だって、中学のときは吉岡って美人で有名だったじゃん。優太知らないか?」
「え、そうなの?!」
聖の聞き捨てならぬ情報に優太はぎょっとして聖を見る。
――これはどう考えても優太に聞いたのが失敗だったな……。
自分の好きな女以外は誰がかわいいとかそういう話にはてんで弱そうな優太にはしてはいけない質問だったと、自分のミスを認めざるを得なかった。
「あーでも聞いたことあるよ、それ」
「うん、俺も知ってる」
「俺さ、今だから言えるけど吉岡のことこっそり見に行った。みんな巻き込んで」
「俺も行った。『吉岡さんがいるぞ!』って誰かが言うから『嘘?!どれどれ』って」
「でもちょっと実物見てがっかりしたかなぁ、黙ってればいいのに並木相手に本気で喧嘩するし。あれは女じゃない」
「あ、それ言えてる」
「でもそれだからいいんじゃない?並木とおんなじで。あの見た目で中身も女っぽかったらそれはそれで扱いにくい気がして俺はヤダね」
「あーそうかもなー」
いつの間にか聖と優太会話を聞いていたまわりがやいやい言い始めていた。
「正直言ってないなぁ、未散とは最初からあんな調子だし」
難しい顔をしながら優太は聖に答えた。
「……でも」
優太はまた首をひねって聖に答える。
「俺の背があと15センチくらいでかいか未散の背が15センチくらい小さかったらわかんなかったかも……まぁ仮定の世界だけど」
いや待てよやっぱりそんなことになっても一緒かな、と優太はまだぶつくさ言っている。
「小橋がいるのにか?」
聖は試しに優太に突っ込んでみた。
すると優太からはこれまた驚きの答えが返ってきた。
「だって先に仲良なったの未散だし。衣なんか未散がいなかったら喋れてねーもん」
そう言いながら優太は立ち上がった。
「確かにおせっかいだしすぐ怒るし暴力的だけど、俺は衣とは違う意味で未散は好きだね。なんていうの、未散は聖とおんなじなんだよ、男とか女とかじゃないっていうかさ」
そこまで言うと優太は座っている聖を見下ろした。
「俺は未散の彼氏になりたいとは思わない。けど、未散の彼氏が変な男だったら俺きっと許さないだろうね。アイツに変な虫がつかないようにしないとな」
「……お前は吉岡の保護者か」
腰に手を当て鼻を膨らまして語る優太を見上げ、聖は鼻で笑った。
だが、聖は思う。
優太は未散を友達と思っている。
けれど、未散は……?
――こういうときに限ってどっちかが恋愛感情持ってたりするからなぁ……。
実は聖はそれを恐れていた。
惚れるときは背が自分より低いとか友達が惚れているとかなんて関係ないもの。
もし未散がそれに該当しているとしたら……。
――ひとまず様子を見てみるか……。
そんなわけで聖の偵察はまだまだ続くのだ。
未散の核心に迫るそのチャンスはすぐに訪れた。
バスケ部は毎日交代で男女一人ずつあと片づけをすることになっている。
で、今日は優太と未散が当番なのだが、
――これは聖に片づけ当番を代わってもらわなくちゃ。
きっと未散が喜ぶだろうという実に安易な考えのもと、本当は今日の男子の当番は自分なのだが優太は帰ろうとする聖の背中を追いかけシャツの裾を掴んだ。
「聖、片づけ当番代わって。次聖に当たった日に俺やるから」
優太はお願いっ!といわんばかりに聖に手を合わせた。
「いいけど、な……」
聖が「なんで?」と聞こうとする間もなく、
「サンキュ、じゃ、よろしく!」
優太はあっという間に部室へ消えていった。
――相変わらず早いな。
聖は「な」だけ言ってやめていた。
「あれ?優太は?」
その頃未散はというと、転がっているボールを拾いながら優太を探していた。
「優太は俺に当番押し付けて帰ったよ」
はい、と聖はすぐそばにあったボールを拾って未散に渡した。
「あ、ありがと……」
――もーなんてことすんのよバカ優太っ、少しは心の準備させてよ……。
優太から何も聞いていなかった未散はこの急展開についていけず心の中で優太にクレームをつけ、聖に対してちゃんと笑っているだろうかと不安になりながらも聖に笑顔を作って礼を言った。
――これって偶然?それとも優太がわざと?……いや、それはないな……うん、ないない。優太に限ってそれはない。
ついさっきまで自分が言いだしっぺで男子の間で未散の話をしていたのでもしかして感づかれたかと思ったのだが、考えてみたら優太がそこまで敏感じゃないことに気がついて聖は掃除用具室にモップを取りに行きながら1人納得する。
「……あのさ」
唐突すぎるかなと思いつつも聞くなら今しかないと思った聖はモップをかけながら思い切って未散に声を掛けた。
「何?」
未散は相変わらずボールを拾い続けている。
「吉岡ってさ、ありえないくらい優太と仲いいよね」
「え?」
「いや、俺には2人の世界は不可解というか」
どんな顔をしているのかわからないが、未散がこっちを見ているのが明らかにわかるのを感じながら聖はあえて床に目を落としたままモップをかけ続ける。
「吉岡は優太が男に見える時ってないの?」
「え」
「ま、俺の素朴な疑問なんだけどさ」
聖はモップの柄に寄りかかるようにして立つと意識して自分が発した言葉のままの表情で未散を見た。
「んーよく聞かれるんだよね、それ」
未散にとっては「またか」という質問だったらしい。
別に驚きもせず淡々と答えた。
「確かにバスケやってる姿はカッコイイよ、それは認める。だけど……バスケ取っちゃったら落ち着きないしおバカだし、あたしよりものすごくチビだし。だからあたしの中では、実際はタメだけど『世話の焼ける後輩』に近いよね」
まるで優太と打ち合わせしたかのように、未散も優太をけなし始めた。
だけど、と未散は続けた。
「だけど……喋ったこともないのにずっと衣が好きで、バスケも勉強も衣そばにいたい一心で頑張って……そんなのずっと隣で見てきたから、優太に対しての『好き』は、もう別物になってたな。……あ、でも、そんなこと優太に言ったら絶対いい気になるから言ったことないけどね」
未散はちょっと笑いながら持っていたボールをかごにしまった。
「それ……嘘偽りない?」
「え?」
「誤魔化してない?」
「……うん」
なんで聖はそんなに確認するんだろうと思いながらも、未散は頷いた。
「いや……俺は女とそういう人間関係って作れないからすごいなって思っただけ」
「……そう」
未散にはあからさまには言えないのでなんとか聖はその場を取り繕った。
もしかして変に思われたかも、と心配ではあったが、未散の方は別に不信感を持つことなくまたボール拾いを始めていた。
――よし、だったら次は「あの話」を修正すればいいな……。
このときの聖はそう思っていたのだ。
……だが。
翌日に聖には予測不可能なことが待っていたのだ。
それはいつまでも未散に誤解を解かなかった代償として聖に襲い掛かる。
そして。
その代償に未散も巻き込まれてしまうのだ。
こんばんは、愛梨です。
ずっとこれを読んでいる方なら「聖、それはないから」って突っ込みたくなるでしょうけど、実は聖、かなーり本気で「未散はもしや優太が好きなんじゃ?」と気にしてました。
あぁ、なんかいいなぁこういう展開。
モロに高校生って感じで(笑)。
さて、次回からは県大会の模様をお伝えしつつ、最後にちらりと書いた『代償』もなんなのかを綴っていきます。
これ、「聖は衣が今でも好き」っていう誤解がなかったらただただ「きゃあ~!!」っていう展開なんですが、その誤解がある故にかなーり心理的に切ない展開になります。
何が起こるのかは……読んでみてのお楽しみ、ということでいいですか?←なにをもったいぶってるんだか(笑)
ということで、またです。




