Vol.34
優太と聖が部室から出ると未散が待ち構えていた。
「優太、ちょっと顔かして」
未散は優太のほっぺをぎゅうぅっとつまんでそのまま歩こうとする。
「イタイイタイイタイ!何だよ、今から練習だろ?!」
とっても変な顔になりながらも優太は未散に抵抗した。
「馬鹿言わないで!練習より大事なことに決まってるでしょ?!」
未散はつぶやいて優太のほっぺから手を離した。
「優太さ、あたし言ったよね!?『衣に謝れ』って。謝った?!」
「……何を?」
優太は真っ赤になったほっぺをさすりながら未散の問いただしにけろりと答える。
――この男は……!
「ふざけんじゃないわよ!アホは優太の方じゃないっ!」
優太の返事が大いに気に入らない未散はべしっと優太の頭を叩いた。
「痛ってぇな!なんなんだよっ?!」
今度は頭をさすりながら優太は上目遣いで未散を涙目になりながらも睨む。
「謝らない上にさらにわめき散らして何がしたいの優太は?!」
「何って……だって……」
「だってじゃない!なんで優太に怒られたのかわかんなくて衣はさっきからずっと泣いてるんだからね?!」
このおバカッ!と優太の言い訳一切無用で未散はもう一回優太の頭をぺしっと叩き、相変わらず怖い顔をして優太にガンを飛ばした。
――こりゃ収まりそうにないな。
「優太、行って来い」
優太と未散の喧嘩を傍観していた聖が実に客観的な意見を述べる。
「……う、うん」
まだ頭をさすりながら優太は聖に頷いた。
「衣教室にいるから早く行って!」
未散は優太の背中をどん!と押した。
「聖、佳佑先輩にちょっと遅くなるって言っておいて!」
背中を押された勢いに乗って優太はそのまま廊下を猛ダッシュで駆け出していった。
「ホント優太ってバカだよねぇ、どうしようもないことに怒っちゃってさ」
未散は優太後ろ姿を見送りながら腕を組むとため息をついた。
「……あれ、吉岡にもバレてる?」
「バレてるよぉ。聖くんもとんだ災難よね」
お気の毒さま、と言わんばかりに未散は聖に苦笑した。
「いや、かわいそうなのは俺より小橋だろ。わけもわからず優太に叱られて、あげく大嫌いまで言われてさ」
優太が角を曲がるところを見ながら聖は両手を自分の頭に乗せた。
「なんでそんなことまで知ってるの?」
未散は驚いて聖を見上げた。
「だって……現場が俺のクラスのまん前の廊下だったからさ」
未散の問いに答えながら聖は今度はこきこきと首を鳴らした。
「まぁ俺が悪いんだけどね……言葉足らずだったというか……」
「え?」
「あ、いや、こっちの話」
独り言のつもりが未散には聞こえてしまったらしい、聖は慌ててごまかした。
「あ……そういえば、もう大丈夫?」
話を逸らそうと聖は怪我のことを持ち出して未散にたずねた。
「あぁ、もう平気。今日から練習やれるし」
ほら、と未散はジャージのすそを巻くり完治した足首を聖に見せた。
「いや、俺が言ったのはこっちだけど?」
聖はそう言うと未散の目の高さまでかがんだ。
そして……そっと未散の頬に手を伸ばした。
当然未散の方は。
聖の手が自分の頬に触れた時、心臓が飛び出しそうな思いをしながらも動けなかったのは言うまでもない。
「未散、ゴメンな」
突然優太は未散の顔も見ないで謝り出した。
部活が終わった帰り道。
今日は珍しいことに、優太は衣を先に帰らせ未散と帰っていた。
「ほんとだよー。ほんと優太って世話が焼ける」
未散はぽん、と軽く優太の頭を叩いた。
「衣にちゃんと謝った?」
「……うん」
「ならいいよ」
よかったよかった、未散は満足げに頷いた。
「いや未散、そうじゃなくて」
優太は立ち止まった。
「……しんどかったろ、衣から話聞いて」
「何の話?」
未散は「何言ってるの?」という顔をして優太に笑いかけた。
「俺の前で無理すんなよ、ほんとは苦しいんだろ?」
「なんで?」
「だって……衣があんなこと言うから……」
優太はぼそぼそと呟く。
「だから何の話?別にあたしには何の関係も……」
「嘘つくな!」
あくまでシラを切ろうとする未散の腕を掴むと、優太は強引に引っぱり自分に顔を向けさせた。
「言っとくけど俺は、衣よりも未散の方が一緒にいる時間長いんだぞ?だから変な話だけど衣のことよりもおまえのことのほうがわかってるんだからな」
水臭いよ未散、と優太は少し悲しい顔をして未散を見上げた。
「優太……」
未散の目からひとしずく、涙が頬を伝った。
「未散」
優太は未散に優しく微笑んだ。
「この話は衣も聖も知らない、俺しか知らない話だから。だから……今から未散が泣こうが何しようが俺は見なかったことにできる」
優太はそこまで言うと背伸びをして未散の頭に手を置いた。
「優太、5分でいい、背中貸して」
ごめんね、と未散はまたひとつ涙をこぼした。
「5分と言わず何分でもどうぞ。小さい背中で申し訳ないけど」
優太はハイ、と未散に背中を差し出した。
それを見た未散にはもう強がる気力はなかった。
優太の肩に手を置き頭を優太の背中につけ声を押し殺した。
肩に置いた手はどんどん力がこもった。
その通りだった。
優太の言うとおりだった。
本当は誰も悪くない。
優太の取った行動は大馬鹿もいいところだ。
そんなのは初めからわかっていた。
だから未散は衣の話も関心がなさそうに聞き、優太をアホとこき下ろし、聖にもご愁傷様と同情した。
だけど優太の「ほんとは苦しいんだろ?」の言葉に、辛うじて繋いでいた我慢の糸はぷつりと切れていた。
それでもこんなところで泣いてしまっては優太はまた何をしでかすかわからない。
あくまで優太は衣の彼女。
優太だって久しぶりに会った親友が自分の彼女に言い寄っていたことをおもしろくなく思っていたに違いないのだ。
……それなのに。
優太が今いちばん心配しているのは自分のこと。
彼女を先に帰らせてまで思う存分泣けとそばにいてくれる。
それに……聖だって今きっと自分と同じ想いをしているのだ。
恐らくだけど、もう叶わないとわかっている衣への想いを封印するため……いや、捨てるためにわざと自分を傷つけた。
けれど……その傷を癒してくれる人は誰もいないのだ。
優太の優しさが、聖への自分の想いが、そして……聖の行き場のない心の痛みが胸にしみる。
未散はもう立っていられなかった。
嗚咽も堪え切れなかった。
そして最後には、優太の肩から手が離れずるずると落ちていった。
――未散、頑張れよ……。
優太は未散からもらい泣きしそうになるのを必死で我慢して、後ろ手で未散の頭を子供をあやすように撫で続けた。
この日を境に、未散と優太は立場が逆転するのである。
こんばんは、愛梨です。
未散と優太の友情編はいかがでしたでしょうか。
こういう友情のあり方は男同士あるいは女同士ではできなかったりしますけど、異性での友情ならこういうのはアリなんじゃないかと私は思ってます。
「いやそれ、そう思ってたのあんただけだから!」って時に突っ込まれたりもしましたけど(汗)、学生時代はなんていうか「仮にコイツが女だったとしても友達になっただろうな」と思える殿方ってちらほらいたんですよね。
つまり、もう男とか女とかじゃなくて1人の人間として好きだったというか。
まぁこの辺は同意していただける方いただけない方がいると思うんですけど、私は「男女間の友情はアリ!」と思ってるのでこのように書いてみた次第です。
なので、残念ながら(?)今回はこれがきっかけで泥沼化……とはなりませんのであしからず(苦笑)。
……さて。
ここしばらくは未散視点で綴ってきたのでそろそろ聖視点で参ります。
何にも知らない未散と思いっきり勘違いされている聖がちょっとかわいそうになるくらいの甘ーいプラトニックラブ(?)でお送りします。
ということで、またです。




