Vol.32
公園を出てすぐに衣の家まで着くと、
「また明日な」
衣の家の玄関が思いっきり道路に面しているのも忘れて、優太は衣の頭に手を乗せると顔を衣のおでこに近づけた。
「優太、怒らないで聞いてくれる?」
優太の顔が自分から離れた後、衣はうつむいた。
「何?どうした?」
帰ろうとして衣に背を向けた瞬間に衣が言うので、優太は首だけ衣に振り向いた。
「優太がいない間にね――」
優太に言わないのは自分が心苦しいので衣は言葉を選び全てを話した。
「……そう」
優太はできるだけ落ち着いて一言返した。
「怒ってる?」
優太にとっては決して気分のいい話ではない。
衣はちら、と優太を見る。
「……またな」
優太は衣に笑うと背中を向け歩き出した。
けれど明らかに優太の目は笑っていなかった。
――やっぱり怒ったよね……。
わかっていたとはいえ気が重い。
はぁと衣は小さくため息をつき、優太の背中を見送った。
翌朝。
――あれ、喧嘩でもしたのかな。
自分には普通に挨拶をしてくれる優太と衣だが、衣は優太を避け優太は衣を怒っているように未散からは見えた。
「ねぇ衣、どうした?なんかあった?」
どうも2人の様子が気になる未散は衣の席に近づくと衣の隣にしゃがみこんだ。
「うん……昨日ね……」
何も知らない衣は未散に包み隠さず話をする。
それはつまり、未散が早くも恋に破れたということを意味していた。
お昼休み。
「おいっ、衣っ!」
未散とお弁当を広げようとしていた衣に優太がものすごい剣幕で近づいた。
「なぁに?どうしたの?」
見ていた未散が優太を見て笑った。
――なんで?なんで未散はそんなに平気なんだよっ?!
衣に「何怒ってんのよねぇ?」と普通に笑いかける未散が優太は気の毒でかわいそうでしょうがない。
「衣ちょっと来い」
「え、なんで?」
「いいから!」
優太は衣が持っていたお弁当の入った袋を無理やり取り上げて机に乱暴に置くと、腕を掴んで衣を連行していく。
「ちょっと!何なの一体?!」
衣は1人でカンカンに怒っている優太に連れて行かれるまま歩く。
衣の問いかけに答えようとしてか優太は急に立ち止まった。
「……お前、未散に何言った?」
優太は衣に振り返り怖い顔をして睨みつけた。
「え、なにって……」
「なんて言ったのかって聞いてんだよっ!答えろ衣っ!」
衣の言葉を遮って優太は衣の腕から手をはなすと上から言葉を投げつけた。
「…………」
衣の方は優太がここまで自分に怒ったのを見たのは初めてで圧倒され言葉が出ない。
「なんでだよ……なんで話すんだよ……なんで聖のこと、よりによって未散に喋っちゃったんだよ……」
「なんでって……だって未散が聞いてくるから……」
鬼のような形相でぶつぶつと自分に呟く優太に怯えながらも衣はぼそぼそと答えた。
――なんてことしてくれたんだよ、ばかばかばかっ、衣のばかっ!
衣の困惑した顔を見れば見るほど余計に腹が立つ優太は、すでに廊下を通る人やすぐ目の前の教室にいる人全員の注目の的となっているのにも関わらずとんでもないことを叫んだ。
「衣のアホ!お前なんか大っ嫌いだっ!」
優太は言いたい放題言うと、衣に背を向けずんずん歩き出した。
優太の衣への怒りは頂点に達していた。
聖の好きな女が未散の親友である衣だということがどうにも許せない。
未散の恋路をいちばん残酷極まりない形で邪魔をした衣にどうしても怒りの虫がおさまらない。
衣からしてみたらとばっちりもいいところなのだがそんなことに優太が気づくはずは……当然ない。
――なんで聖が好きなのは衣なんだよ……なんで衣は未散に「聖に好きって言われた」って言っちゃうんだよ……。
「あーっ!くそっ!」
優太は抑えきれないこの怒りを置いてあったゴミ箱の蓋にぶつけた。
蓋はガンッと音を立てて勢いよくクルクル回った。




