Vol.30
算数で生まれて初めて80点を取った興奮が冷めないまま優太は聖を連れてグラウンドにある鉄棒の前に来ていた。
別に聖を庇護するつもりはないのだが彼は決して運動音痴ではない。
だが、どうも逆上がりだけができないのだ。
「じゃ、やってみて」
優太はどうぞ、と聖を促した。
「……やるの?」
「だってなんで逆上がりできないのか俺がわかんないもん」
ついさっきまで口にしていた台詞をそのまま優太は聖に、聖は優太に言っていた。
――うぅ……カッコ悪いなぁ……。
鉄棒を握ったまま、聖は固まる。
「……あ、わかった。まずそれがダメ」
「……あ?」
「ダメだって、こんなに肘がまっすぐじゃ」
もっと鉄棒に寄って、と優太は聖の背中を押す。
「……はい、やってみて」
優太は聖にニコニコと笑う。
「…………」
こんなのでいいのだろうかと思いながらも、聖は地面を蹴った。
――あ!
聖の見ている世界が下から上へと回った。
そして、……鉄棒はちゃんとおへその下にあった。
「すげぇ!できたっ!」
やっほーい!と優太はまた踊りだした。
「なぁ、もう1回やってみて?」
着地した聖を優太はわくわくした顔で見る。
「いくよ……ほっ」
聖はまた地面を蹴り上げた。
足やおなかが鉄棒に吸い寄せられていく。
そして……2回目も無事に成功した。
「よっしゃーっ!できたできたっ!よし、行こうぜ!」
優太は鉄棒から降りたばかりの聖の手を取った。
「行くってどこに?」
聖は優太に聞く。
「決まってんだろ、先生に言いに行くんだよ!絶対俺達が1番乗りだって!」
せんせーい!と職員室に向かって優太は叫びながら聖と手を繋いで走り始めた。
こんな感じで聖がすっかり優太のペースに巻き込まれるような形で始まったのだが、この日をきっかけに聖は優太といつもつるむようになる。
のちのちこの2人の仲の良さは学年内の名物となり、学年一小さい優太と学年一大きい聖で「チビデカコンビ」と誰かに名づけられた。
だがこの友情はわずか2年で幕を閉じる。
というのも、小学校4年の終わりに親の仕事の都合で聖が転校してしまったからだ。
だが風の噂で優太がバスケをやっている事を知り、聖も中学からバスケを始めた。
いつか、きっといつかまた優太に会えると信じて。
残念ながら中学のときは一度も会うことはなかったが、高校生になり偶然ではあったのだがその夢が叶ったのだ。
……しかし。
それは同時に衣との再会も意味していたのだ。
こんばんは、愛梨です。
聖少年編はいかがでしたでしょうか。
それにしても……優太も聖もできないことが随分かわいいなぁ……(笑)。
さてさて。
次回からは現代に戻ってまいりますが、そこですでに大問題が発生します。
とはいっても実に些細なことなんですけど、それが大問題になるのが高校生のコイバナです。
どんな大問題が起きるのか、気になる方はまたお越し下さい。
それではまたです。




