Vol.29
3年生になり、クラスが変わった初日。
――げっ、げげげっ!
クラス替えの張り紙を見て聖は心底嫌な顔をする。
というのも、自分の名前の上に、
「並木優太」
を発見してしまったからだ。
――まさか小橋も同じクラス……?
不安になりながら聖は女子のメンバーを確認する。
――よかった、違う……。
違うクラスの欄に衣の名前を見つけ聖はホッとした。
――だけど……参ったなぁ……また並木と一緒かよ……。
1年生のあの時の大失恋から聖が願っていたことはただ1つ、
「神様、どうか次のクラス替えでは小橋と並木とは別々になりますように!」
だったのに、残念ながら神様は半分しか叶えてくれなかった。
おまけに次のクラス替えは5年生に上がるときまでお預けなので2年間我慢するしかない。
――しかも俺の席の前あいつじゃん……もう最悪だ……。
すっかりブルーな気分で聖はのろのろと廊下を歩いた。
というのも……このときの聖は、この後すぐに優太と友情の契りを交わすことになるなど塵にも思っていなかったのだ。
翌日。
「よし、じゃあ発表するぞ。まずは……」
担任は次々とペアを発表していった。
これは担任の「1学期中にクラスのみんなと1回は話そう」という勝手な企画のもと、今日から始まったクラス内の行事だった。
手順はこうだ。
まず、一人一人が「誰かの助けを借りて直したいこと、克服したいこと」を紙に書き、担任はその内容を見てペアを決める。
期限は1週間でどちらも克服できたら担任からご褒美がもらえる、というものだった。
「んじゃ次……お、お隣同士だな。並木と西倉」
――な、な、なんだと……?!
優太と一緒に名前を呼ばれた聖は愕然とする。
しかし優太の方はというと、
「よろしくな」
くるりと後ろを向き、にかっと笑って聖に挨拶する。
――なんで笑うんだよ……。
理由は単に優太が1年生のときのことを何も覚えていないからなのだが、聖の方はその無邪気な優太の笑顔がこの時はなんだかとても怖かった。
お昼休み。
「これがお互いの克服したいものだ」
はい、と担任は2人を見ながら両手を差し出した。
「……はい」
「……ありがとうございます」
担任にもらった折られた紙を2人は同に開ける。
そして、2人同時に読んだ。
「……嘘だよぉ!マジで?!信じらんねぇ!」
そして……2人同時にお互いを指差しバカにしたように笑った。
「仲いいな、お前たちは」
期待してるぞ、と担任は2人の頭に軽く手を乗せたあと教室から出て行った。
「なにこれ、おまえばっかじゃねーの?」
「おまえこそなんだよ、こんなのできねーヤツ信じらんねぇ」
席に戻りながら聖は優太を、優太は聖をバカにする。
「でも……おまえにとってはできないから辛いことなんだよな?」
優太は紙を見ながら呟いた。
「……よし、絶対何とかしてやっからさ、俺のもよろしくな」
優太は聖にまたニッ、と笑った。
「……うん」
聖には優太の笑顔はなんだか眩しくて頷くだけで精一杯だった。
放課後。
聖と優太は教室にいた。
まずは優太の克服したいものを一緒にやり始めた。
優太の克服したいもの、それは「算数ができるようになりたい」だった。
「じゃあ、やってみて。はい」
聖は担任からもらった算数のプリントを優太の机に乗せた。
「……やるの?」
優太はすでに涙声。
「だってなんで算数が苦手なのか俺わかんないし。……はい、やって」
聖はプリントを優太に押し付けた。
「……間違っても怒んない?」
優太は目をうるうるさせて聖に聞く。
「怒んないからやって、ほら早く!」
聖は優太をせかした。
「……はい」
優太はかなり渋々鉛筆を取り出し計算を始めた。
早速聖が優太の様子を見てみると……早いのはいいのだがミスが多すぎることに気がつく。
「……あのさ、なんで『14+27』が『31』になんの?」
「……え、なんでって……だって4と7足したら11じゃん。で、……あ……」
こんな具合のミスばかりを優太は連発していた。
――うーん、どうすりゃいいのかな。
聖に違う違うと連呼されもう泣きそうな顔をして聖を見つめる優太を見ながら聖はうーむと腕を組む。
――ゆっくりやったらミスが減るかな。
「……あのさ、別に急がなくていいからもっとゆっくりやってみなよ」
はい、と聖は担任にもらった算数のプリント2枚目を優太の机に置いた。
「……うん」
鼻をすすり上げ優太はもうもう一度鉛筆を持った。
――おっ、おっ、いいぞいいぞ……。
今度の優太はスピードは多少落ちたもののほとんどミスなく計算を終える。
「……すげえ!80点取れた!」
聖がマルつけをした答案用紙を掲げ、優太は今まで見たことがない点数に感動する。
――今までどれだけひどい点数だったんだろうな……。
聖にとって算数での80点は「良くも悪くもない普通の点数」の部類なので、喜びの小躍りをする優太を見て呆れ笑いをする。
「すっげーなおまえ、天才だよ!」
うっほーい!と優太は聖の手を取りそのまま引っ張った。
「よし次はお前の番だ、行くぞ!」
「え、おいっ、ちょっと待てって!転ぶっ!」
足をもつれさせながら聖はハイテンションの優太についていく。
行き先はグラウンド。
それは聖の克服課題である「逆上がりができるようになりたい」に挑戦するためだった。




