Vol.26
部活が終わった帰り道。
大きい影と小さい影が1つずつ、夕日に照らされ道路に映し出されている。
大きい影は普通にまっすぐ動いているが、小さい方は右に左にぶれながら動いていた。
「ったくぼさっとしてんじゃねーよ!どうしたら顔面にボールぶつけるんだよ、よけるだろ普通は!……俺には絶対理解できん」
自分の分のほかに未散と聖の荷物を持って優太はよろよろしながら歩く。
「……うるさいなぁ、しょうがないでしょ!?」
だって聖くんの横顔があまりにもキレイなんだもん、だからつい見とれてしまったというか――。
……なんて言えるわけもなく、未散はさっきから文句を言い続ける優太には「うるさい!」しか言い返せない。
「優太もういいから、俺が悪かったんだから」
聖は未散を背負い直しながら「ごめんな」と優太に謝った。
「……あの、あたしのほうこそごめんなさい。家まで送ってもらっちゃって」
少しだけ身を乗り出して未散は聖に謝った。
「だって帰れないでしょその足じゃ」
お安い御用だよ、と聖は未散に笑いかけた。
「聖、いいよいいよそんな気ィ遣わなくて。未散は大丈夫、その辺の男より強いんだから……な、未散」
しかし優太の悪乗りは容赦ない。
このまま優太に喋られては自分がどれだけ女らしくないかをバラされるのも時間の問題だ。
「もう!いいから黙ってて!」
優太にこれ以上何を言われるのかと考えただけで恐ろしくて仕方がない。
未散は懇願した顔で「もうやめて!」と優太に口をぱくぱくする。
――おかしい、なんか未散いつもと違うな……。
いつもならこのあとはもっともっと自分にくってかかってきて聞いているまわりに笑いを提供するぐらいは当たり前なのに、今日はやけにおとなしい。
確かに背負われている身なので自由がきかないというのもあるのだろうが、いつもの未散だったら少々無理をしてでも自分に叩きのひとつやふたつ入れてくるはずなのに。
――今日は未散のヤツやけに女の子だな……。
喋り方も顔の表情のひとつひとつつもいつもと随分違う。
おしとやかというかなんというか……下手をすると衣よりも女の子に見える。
聖と会話する未散の姿は優太には初めて見る姿で、気味が悪いというかものめずらしいというか、なんだか変な気分になりながらチラチラと未散を見てしまっていた。
その原因を作ったのは聖だということにのちのち優太は気づくのだが、それはもう少し後のことである。
「本当?じゃ、西倉くんも同じ学校だったんだ」
未散を家に届け聖とも別れた優太はそのまま衣の家に寄っていた。
「クラスが違うから俺も知らなくてさ、だから今日部室行ってびっくり、ってヤツ」
衣に言いながら優太は衣ママからもらったケーキについているシートをはがす。
「今どこに住んでるの?」
「こっから電車で30分、って言ってたな」
「ふーん」
衣もケーキのシートをはがす。
「でも随分変な時期に入部したね」
衣はフォークを持った。
「それがさ……俺なんだって。最初は通学が大変だから部活やる気なかったらしいんだけど、俺がココにいるって最近知ったみたいでさ。聖とバスケはやったことないから今からすっげー楽しみ」
ケーキのせいなのか聖のせいなのか、優太は実に機嫌よくフォークをケーキに刺した。
「ふーんそうかぁ、懐かしいなぁ……5年ぶりぐらいになるのかな」
衣もケーキにフォークを入れる。
「衣さ、聖に会いたい?」
優太は大きく口を開けてケーキを口に入れる。
「会ってみたい気もするけど、あたしのことなんて覚えてるのかなあ。だって小1と小2のときしかクラス一緒じゃなかったし、喋ったこともないし」
衣もケーキをほおばる。
「ま、そのときはそのときだよ」
よし決まり、と優太は残りのケーキをぐさっと刺した。
翌日の部活開始前。
「聖さ、衣……小橋衣、覚えてない?……小1と小2でおんなじクラスだったんだろ?」
優太は聖に荷物を出しながら質問していた。
「ちなみに今は俺の彼女。5年かかって口説き落とした」
「……そう」
幸せそうに話す優太に聖は努めて普通に返事をする。
「衣は聖のこと覚えてるみたいだから、会ってみない?」
優太の提案に対し聖は予想外という顔をした。
「……え、小橋と会うの?」
口調はいたっていつもと同じにしたが、心の中ではかなり動揺しながら聖は優太に返した。
「……いや、俺はいいよ」
聖は優太に断りを入れロッカー開けた。
「え?なんで?」
「なんでって……」
即で優太の突込みが入り聖は言葉に詰まる。
「もしかして聖が衣のこと覚えてないとか?」
優太がまた質問してきた。
「……そういうわけじゃないけど」
「じゃ、なんで?……あ、もしかして俺に気ィ遣ってる?」
「……そうじゃないけど」
「じゃ、なんで?」
「…………」
言っても言っても質問が返ってくる優太に聖はもう返す言葉が思いつかない。
「……よし、決まり。衣にメールしておくわ」
優太はかってに決定して携帯電話取り出した。
――マジかよ……。
断りきれなかった聖は優太に気づかれないように深くため息をついた。
というのも、聖にとって衣は……「会いたくない人」だったのだ。
優太は聖のことを「小3から小4までの2年間いつでもどこでも何をやるでも一緒だった、でっかくて男らしい、無二の親友」と思っていて、それ以前の記憶はない。
衣も聖のことは「小1と小2でクラスが同じで、みんなよりちょっと大きい男の子。でも小4が終わったと同時に引っ越してしまった」ということぐらいしか覚えいない。
だが聖はしっかり覚えていた。
実は小1のとき衣をいじめていた張本人は自分だったこと。
優太とはそのことで毎日のように取っ組み合いの喧嘩をしていたこと。
そして、衣をいじめた理由は愛情の裏返しだったということを……。
こんばんは、愛梨です。
あら?なんか未散の方は最初からいいムードじゃない?って思いきや、そんなのは気のせいでした(汗)。
そうなんです、聖の過去には今とは全く違った形で衣や優太がいるんです。
これが未散と出会ってしまった今にどんな障害となって降りかかるのか、見ていただければと思います。
ではでは次回からはしばらくタイムスリップして小学生の頃の聖・優太・そして衣をご覧下さい。
それではまたです。




