Vol.23
翌日。
外は体育館にいるのがもったいないくらいいい天気。
……けれど。
優太の心は雨降り。
「いつもならココで終わっているのに」と喜ぶ先輩達に「これもひとえに並木のおかげ」とお褒めの言葉を頂戴しているのだが、今日はそれを聞いても素直に喜べない。
本当にほめて欲しい女に褒めてもらえてない。
それどころか、今日はその女の姿を見ていない。
ボールを見てしまえばギャラリーで何が起ころうが何も見えなくなり、誰が何と叫ぼうが全く何も聞こえなくなる自分の集中力に今日は救われていた。
でなければ今日はもう動けていない。
――くっそー空青いなあ……。
優太が見上げた空は涙でにじんだ。
そのころ未散はスポーツドリンク2本を片手に人を探していた。
もちろん相手は優太。
ダテに優太と3年つるんでないし優太のなんでも顔に出る性格も手伝って、おかしいのが気になって気になって仕方がない。
今朝は「いやあ、さすがにインターハイ予選となると緊張しちゃって眠れなかったんですよぉ」と目が腫れている理由をみんなに説明していたが、実際は震度5の地震が来ても平気で寝ていられるほど肝っ玉が座りすぎている男なのでそんなわけがない。
そして試合開始前後やタイム中は、誰も気がついていないが何度も何度もギャラリーを見渡しては落胆していた。
初めて衣が試合を見に来たときから優太はどこに座っていようが必ず衣を見つけ、
「衣っ、見てろよ、絶対勝つからな! 」
とカッコよく勝利宣言をし、
「負けたら承知しないから!」
と言い返す衣を指差し、笑ってコートに入っていく姿をいつもなら1日1回は見かけるのだが、今日はそれがない。
それに、……まあ、別に試合に支障が出ているわけではないのでいいといえばいいのかもしれないが、今日の優太を見ているとわざと疲れるように追い込んでいる気がしてならないのだ。
それはまるで、空いている時間は疲れで何も考えられなくなるようにしているようで痛々しい。
「……はい」
体育館の外に出てようやく優太をつけた未散は、優太のほっぺに少しぬるくなってしまったペットボトルを当てた。
「……サンキュ」
受け取った優太は蓋を開けぐびぐびと飲み始めた。
「本日の我がバスケ部MVPがなんでこんなところにいるわけ?」
未散も蓋を回す。
「……そんな気分じゃねーんだよ」
「……そう」
半分飲んだところで暗い顔をして言葉を返す優太に、未散はそう返事をして隣に座る。
「……昨日さ」
「え?」
優太の声に未散は優太を見る。
「昨日衣に言っちゃったんだよね、『今日衣が応援に来なかったら俺はもう衣とやり直すのは諦める、衣は自由にすればいい』って。けどさ……ほんとにそうなっちゃったら俺耐えらんねーよ……」
優太が持っていたペットボトルはめきめきと音を立てて壊れそうになる。
「…………」
未散は何も言葉が見つからないまま半分つぶれたそのペットボトルを見つめていた。
未散はペットボトルをぶらぶらさせながら廊下を歩いていた。
これ以上優太のとなりにいても気まずくなる一方でなんとなくいずらくなり「捜索され始める前に戻ってきなさいよ」と言い残して優太を置いてきてしまったのだ。
だけど「薄情だったかあ」と思うと足取りが重い。
「うりゃっ!」
「ひゃあっ!」
後ろから気配なく近づいてきた男に脇腹を掴まれ未散は声を上げた。
「ちょっと、なんなの?!」
未散はムッとして振り返った。
「なんだよなんだよ、そのどよよんモードは」
そこにいたのは……なんだか偉そうに腕を組んで立っている理だった。
「ごめんなさい、大きい声出しちゃって……」
「……なんだよ、そのしおらしいのは」
素直に謝る未散に理は気持ちが悪いものでも見たかのような顔をする。
「だっておとなしくなれって言ったの、理先輩じゃないですか」
なんとか意地で未散は理に言い返す。
「冗談だよ、どうせ並木の雰囲気に呑まれたんだろ」
理はやれやれという顔をする。
「なぁ吉岡」
「はい」
「吉岡は友達思いだよな?……ってことは、先輩思いでもあるってことだよな?」
「……はい?」
理の唐突な話に未散は質問系の返事をする。
「このまま並木と衣ちゃんが元に戻らなかったら俺とか佳佑に申し訳ないと思うだろ?」
思うよな?!と理は強制的に未散に同意を求める。
「……まあそうですね」
未散はとりあえず同調する。
「それとさ……俺達さ、並木がいるから今夢見ちゃってんだよね、『もしかしたら県大会行けるかも』って。けど、あの並木のまんまじゃ不安なんだよ。……これは副部長命令だ、なんとかしろ」
「……またですかぁ?」
「やかましいっ!俺と佳佑に報いをよこせっ!」
渋い顔をする未散に理は、びしいっ、と未散を指した。
「お前のその世話焼きスピリッツはこーいう時に使うもんだろ、違うか?」
違わないよな?!と理はまた強制的に頷かせようとする。
「タイムリミットは2時間だ。時間の許す限り世話をして来い」
ほら行けっ!と理は未散の背中を押した。
「もーっ!わかりましたよ、やればいいんでしょ、やればっ!」
行ってきますっ!と未散はやけになって返事をすると走り出した。
「……さすがだね」
伸びをしながら後ろから佳佑が理に声を掛ける。
「吉岡と並木はウチのムードメーカーだから暗くちゃ困るからさ」
頼むぞ吉岡、と聞こえはしないのだが佳佑は未散の背中にそう呟いた。
「けど……佳佑よく気づいたな。並木が元気ないのは俺もわかったけど吉岡はわかなかったよ。そういうのって気づくのいっつも俺なのに」
なんで?と理は手を腰に当てながら佳佑を少し見上げる。
……理のこの作戦、実は立案したのは佳佑だった。
「こういうときは神経逆なでたほうがいいと思うから理から言ってやって。俺だと言ってもそういう捕らえ方できないだろうから」
衣と優太のことで気が晴れない未散を何とか元気にしようと佳佑は考えて適任者の理に頼んだのだった。
「さぁ、なんででしょうねぇ……」
佳佑は少し頬を緩ませる。
「……そういうことか」
理はそれ以上聞かず意味深に笑った。
どうもこんばんは、愛梨です。
実は次回で優太&衣のコイバナは終了します。
最後の最後はやっぱり未散に活躍してもらいます。
さて未散はなにをするんだか……ご期待下さい。
それから最後にちょっとだけ「え?」っていう発言をした佳佑。
これについてはまたあとで話の展開がありますので今は覚えておいてください。
ということで、またです。




