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Vol.21

「以上で生徒総会を終了します……」

 総会の司会者であった副会長がそう告げると、「はい、はいはいはいっ!」と元気よく右手を上げて一人の男が議長が座っている前まで歩み寄った。

――よし、行ってみますか。

 そう思いながらこの行動に出たのは言うまでもなく理である。

 生徒会の面々は知っているので普通の態度だが、生徒たちの方は何が起きたのかと一瞬どよめいた。

「はいすみません、はいそこ!座って座って!」

 理は生徒達を静まらせた。

「えー会長の福原です。みなさん、お疲れ様でした」

 理は副会長の彼女からマイクをぶんどると挨拶を始めた。

「実は昨日まではこれで総会は終了する予定でした。……ですが、今朝になってぜひ生徒総会の場で話をしてほしいという案を持ってきた方がいました」

 ……もちろんコレは嘘。

 理の考えた目暗ましである。

「まぁ僕としましては『今日言われてもねえ……』と一度はお断りしました。でも『あるもの』を見せられて僕は考えを変えました。コレです」

 理は役員に「持ってきて」と指示をするとゴミ袋7個を運ばせた。

「……僕はこのゴミ袋を抱えてやってきた彼に聞きました、『コレは何だ?』と。すると彼の返事はこうでした、『2週間の間にある1人の女子高生の靴箱や机の中に入れられ続けた手紙だ』って」

 理はそう言いながらゴミ袋に目を落とした。

「で、彼はさらにこう言ました、『2年前、自分の身に起こったあの惨事がまた起ころうとしている。コトが起こってからでは手遅れだから早くやめさせてほしい』って」

 理はそういったあと全員を見渡した。

「3年生の方はもうおわかりでしょう。……そうです、この件を持ち込んできたのはその事件の当事者である小田佳佑くんです」

 佳佑の名前を出した途端3年生はいっせいに騒がしくなった。

「はい、静かにして!」

 理は制した。

「私事で恐縮ですが……僕はあの時の彼を目の前で見てました。1・2年生の皆さんには申し訳ありませんが、詳細はとてもじゃありませんが僕の口からは言えません。多分、勇気を出して彼が本にでもして出版したら爆発的ヒットするんじゃないかと思うくらい、あまりに悲しい出来事でした」

 まあそれは冗談ですが、と理は付け加える。

「で、話を戻しますが……生徒会長としてもあのような惨劇は2度と起こってはならないと思います。少しだけ話しておくと、この事件により1人の女子生徒が犠牲になりました。もしかしたら今回のコレもその始まりかもしれない……そう思ったら、僕はもうこの提案の提出を拒否する理由がなかったんです」

 理はそこまで言うと全員の反応を見るためにしばらく黙る。

「…………」

 話を聞いていた生徒達は、理の思惑通り誰も理の話が単なる公私混合とは解釈していなかった。

 全員黙り込んでしまった。

――よし、うまくいった。

 理は1人心の中でほくそ笑む。

「……ま、暗い話はここまでにしましょう。じゃ、本題にいきますね」

 理はそう言いながらゴミ袋から一つの手紙を取り出した。

「もう1回最初から話しますと、最初にこれらを発見したのは皮肉にも先ほど話にも出てきた小田くんでした。この事実を知ってから、彼は今皆さんの目の前にある手紙を被害者の彼女から全部集めていたんです」

 そう言うと理は一番自分の近くにあったゴミ袋を上から軽く叩いた。

「まぁここでは誰がやったのかなんて追求するつもりはありません。けど……俺がまず言いたいのは、こんな身の毛もよだつようなこと、ウチの高校に受かるような可憐な乙女が書いちゃダメですっ!ってことです」

 ちょっと読みますね、と理は持っていた手紙の封筒を破り読み始めた。

「…………」

 理の朗読中、体育館の雰囲気は一気に気まずくなる。

「……今、1つ読んだのを聞いただけでけっこう気分がへこんだはずです。もしこれを毎日のように何コも貰っていたらどうなります?気が狂いそうになりません?どうです?」

 理は女のコたちに意見を求めるような眼差しを向ける。

 当然、誰もなにも返事をしない。

――よしよし、みんな青くなったな。

 生徒達の反応を確認して理はすかさず話を次に進める。

「あの、1つ断っておきますけど、俺は別にこの手紙を貰った彼女とその彼氏くんがくっつこうが別れようがどうでもいいんですよ。だけどね、ここまでやってしまうのはただのイザコザじゃすない。れっきとした彼女への集団いじめです。だってそうでしょ、彼女1人にこーんなに沢山の人数でよってたかってこんなことしたわけだから」

 理は手紙を持った手を人差し指を生徒達に向けながら左から右へ動かす。

「こういうのって一歩間違えると命に関わります。もし小田くんが気づかなかったらこの学校から自殺者が出たかもしれない。恐ろしいことです」

 だから、と理は話を続ける。

「だから俺は総会後で申し訳なかったですけど登場させていただいたわけです」

 理は、一度口を閉じたがまた開く。

「あの、どうせならもっと堂々とやってください。こんな卑怯なやり方ではなくて、ちゃんと正面から彼女に宣戦布告しましょうよ、『あんたから奪ってやる』って。それならいじめになりませんから」

 言いながらつい笑ってしまった理に釣られて何人かも笑う。

「けど、その時ひとつだけ気をつけてほしいことがあります。……それはですね、そんなことをすると彼女の彼氏くんが黙ってない、ということです」

 理はそこまで言うと手紙を封筒にしまった。

「どうやら話によりますと、その彼氏くんはかなりの暴れ者です。例えば……自分の友達がいじめられていたら、誰だろうと関係なくまわりが止めるまでいつまでも暴行を加えるそうです。それはたとえ女相手でも一緒らしいです」

 佳佑から聞いた話を思い出しながら理はちょっと話に尾ひれをつけた。

「それからこれは俺の前で起こった話ですが……このゴミ袋の中身については当然彼氏くんも知るところとなりました。で、手紙の1つはこうなりました」

 理は制服のズボンのポケットに手を入れた。

 そして、拳を握ってポケットから手を出す。

 その手は理の頭の上に掲げられると、握られていた拳を広げた。

 それと同時に手からはだいぶ大きめではあるが紙吹雪が舞い散った。

 そして最後には床に落ちた紙をゴミ屑のように何度も何度も踏みつけた。

「…………」

 生徒達は息を呑んで見ていた。

「……すごいでしょ?差出人不明の手紙にここまでやったんです。もし、差出人の相手を彼氏くんが知ったら差出人の女性がどうなっちゃうか……俺は正直言って知りたくないです、ハイ」

 理はせっせと紙吹雪を拾いながら、「まあ、それはいいとして」とまた喋る。

「もし、彼女に自殺なんかされたら面倒だと思うなら、彼に憎まれたくなかったら、もうこんなことはやめたほうがいい。……それでも構わないというならもう俺は何も言いません、ご自分の責任でどうぞ遠慮なくおやりください。でもそのときは……誰もあなたのことを庇ってはくれません。俺も申し訳ないけれど……そのときは警察に突き出します」

 理はそう言うとにっこり笑った。

「…………」

 理を見ていた全員はその理の笑顔がなんだか怖くて気持ち仰け反った。

「あ、そうそうもうひとつ」

 理はわざと思い出したようにまた口を開いた。

「まぁココまで言ったらさすがにもうやめるとは思ってますけど念のため言っておきます。……このゴミ袋ですが、被害者である彼女が卒業するまで生徒会の権限で保管しておきますので彼女に1回でもお手紙を送った記憶のある人はそのことを忘れないでください。……あぁそれと」

 まだ喋るネタがあるのか?という顔をみんなにされながらも理は最後の締めを口にする。

「もし、今後このような嫌がらせの手紙を受け取ってしまった方は遠慮なく生徒会役員へ提出してください。そのときはこのゴミ袋と一緒に警察へ届けて指紋を検出します。指紋が一致した方はそれなりの処分が学校側からあると思ってください。学校側としても2年前のような事件が発するのは避けたいのでそこまでやるつもりです」

 もちろんそこまでするつもりはないのだが理はダメだしをしておいた。

「以上臨時の議題についてでした。質問異議がなければ、拍手をお願いします」

 誰も文句を言えるはずもなく拍手が湧き上がった。

「……ご静聴ありがとうございました。では、解散します」

 理はそう言って一礼した。


「……もっとちゃんと言えばよかったのに」

 部室にゴミ袋を持っていきながら同じようにゴミ袋を抱えて隣を歩く理に佳佑は理の演説の感想を述べる。

「学校側から『あんまり言うな』って釘刺されてたんだよ」

 理は佳佑にそう返した。

 ……もちろんそんなのはデタラメだった。

 これは理なりの佳佑への思いやりだった。

――ホントは吹っ切ってないくせに後輩のために強がっちゃってさ。

 初めて衣から預かった手紙を渡してきたときの佳佑の表情かおを思い出すとこっちまで悲しくなった。

 佳佑の優しさに甘えちゃいけない。

 理はそう思ったのだ。

「お、理先輩っ!佳佑先輩っ!」

 後ろから呼ばれて理と佳佑は振り返ると優太がどたどたと走ってきた。

「なんだよ騒々しい」

 理は優太に笑いながら少し怒った。

「あ、あの、ほんと、すんません、ありがとうございました。ありが……」

 優太は頭を下げながらお礼を言おうとしたが、感激のあまり途中で詰まる。

「……ったく、並木泣きすぎだから」

 また俺の言ったことに反応しやがって、と理は優太の首を腕で絞めた。

「まぁそうだな、おまえの力で地区大会1回戦敗退が常のうちのチームを県大会まで連れてってくれよ。そしたら許してやる」

 頼むぞ並木、と理はさらに首を絞めた。

「わ、わ、わかりました、だから、はなしてください……俺死んじゃう」

「よし、よく言った」

 いつの間にか泣きやんだ優太を見て理は腕を放した。

「じゃ、俺からもわがままを1つ」

 首をさすっている優太に佳佑は肩を組んだ。

「必ず大会までに小橋さんとよりを戻すこと。あとは今度はちゃんと小橋さんのこと守ってやること。これは部長命令だからな、ちゃんとやれよ?」

 佳佑は優太の肩から手をはなしてぽんぽんっ、と優太の頭を優しく叩いた。

「……佳佑先輩ーっ!」

 せっかく泣きやんだのにまた優太は大声で泣き出した。

「俺の努力ムダにしやがって……佳佑のせいで台無しじゃん……もう知らねーぞ、佳佑が泣きやませろよ」

 理は呆れたように佳佑を見ると佳佑と優太を置いて部室へ歩き出した。

――参ったな。並木ってこんなに泣き虫なのか……。

 予想外の展開に、残された佳佑はわんわん泣いている優太をあやしながら苦笑した。

 

 

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