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番外編とある側妃の結婚生活3

アレクセイは声をかけてよいものか、迷った。それくらい、三人の様子は陰鬱なものだった。雰囲気が重たくてどうしようもない。

仕方なく、アレクセイは同じ公爵家出身で友人のエドワードに小声で話しかけた。

「…エド。陛下のご容態はどうなんだ?」

単刀直入に問いかけるとやっと、エドワードは旧知の仲である青年に気がついたらしい。「…ああ、アレクか。お前にも知らせがいったんだな」

何ともいえない顔でエドワードは言った。アレクセイは黙って頷いた。

「そうか。俺たちは昨日の夜遅くに知らせを聞いてな。そのまま、王宮の客室に詰めていたんだ。妹のアン、妃殿下も後宮を出て陛下の続き部屋に公妃様と待機している」

「…何でわたしにも知らせてくれなかったんだ?」

何故、もっと早くにという意味を持たせて問いかけると代わりに皇太子が答えた。

「…そなたがいくら公爵家を引き継ぐ立場といってもわたしは信用できなかった。だから、知らせるのが遅れた」

皇太子は淡々と答えた。アレクセイは成る程と肩を竦めた。

自分は皇太子から信用されるに足る存在ではないらしい。まあ、それも仕方がないか。側妃を下賜されたとはいえ、それに見合う働きをしていないのだから。

アレクセイはため息をつきながら皇太子やエドワードやジェイミーの三人をみやる。

「…そうですか。わたしは殿下から、信用されていないとは常々感じてはいましたが。側妃を下賜された時点で曰く付きですからね、わたしは」

「…アレクセイ。殿下にあまり、そのようなことは」

エドワードがアレクセイをたしなめようとしたが。皇太子は構わないと頷いた。それにより、エドワードは押し黙るしかない。

「…わたしがそなたを気に入らないと思っていたのは見抜いていたか。まあ、そういう勘の良い所が余計に気に食わないんだがな」

そうですかと言いながら、アレクセイは三人の横にあった一人掛けのソファーに座った。

彼がふうとため息をまた、ついた時だった。応接間の奥まった所にあるドアがいきなり、開いた。

「…サミュエル様。兄様方、大変です!」

ドアを勢いよく開けて応接間に出てきたのは艶やかな黒髪と琥珀色の瞳の若い女性だった。アレクセイは驚いてその女性に見いってしまう。

「…アン。どうして出てきてしまったんだ。ファルキリ子爵もいるというのに」

呆れながら皇太子は注意をする。アンと呼ばれた女性は決まり悪そうな表情をした。

「ごめんなさい。まさか、スージー様の旦那様もいらっしゃるとは思わなくて」

「…まあ、子爵ならいいか。アン、君は後宮に戻っていなさい。昨日はあまり休めていないだろう?」

皇太子の言う事に女性は素直に頷いた。アレクセイはアンといった女性の黒髪にあることを思い出した。

(…あの黒髪は。噂に聞いた事がある。確か、シンフォード公爵の令嬢が黒髪だったはずだ。すると、この方はもしや…)

アレクセイはそこまで考えてスージー、妻の言葉も思い出した。

『…妃殿下はとても綺麗な黒髪をなさっていて。神秘的というか』

アレクセイは今まで間近で皇太子妃と対面したことはなかった。せいぜいが結婚式の折などに遠目で見るくらいだ。皇太子妃は何故か、肖像画が出回っていなかった。そして、極めつけが夜会などにも滅多に出てこないでいた。だから、彼女の姿形は意外と知られていない。

アレクセイは素早く思考を纏めると頭を深々と下げた。

「…大変、失礼をしました。妃殿下、お初にお目にかかります。わたしは南の御方のスージーの夫でアレクセイ・ファルキリ・ウィザードと申します。以後、お見知りおきを」

丁寧に挨拶をすると皇太子妃は黙ったままだった。アレクセイは不思議に思いながらも顔を上げる。

皇太子妃は困ったように笑っていた。透明感のある琥珀色の瞳に困惑が映し出されていた。

「…あの。アレクセイ様でしたか。丁寧な挨拶をありがとうございます」

そう言って皇太子妃は微笑み、そのまま、夫に近づいた。

「…サミュエル様。その、陛下が意識を取り戻されました。至急、寝室へ来ていただきたいと直々に陛下が仰せです」

伝言を終えると皇太子妃ことアンは応接間を後にした。




その後、エドワードたちの心配をよそに大公陛下は意識を取り戻し、食事を簡単にできるほどに回復した。陛下が食事をとったのは意識を取り戻してから一時間後の事だったが。サミュエル皇太子は傍目にもわかるほど脱力していた。まったく、人騒がせなとぼやいていたがアレクセイは聞かぬふりをした。

陛下が翌日にはベッドから起き上がって見舞いに来ていたアレクセイやエドワード、ジェイミーに「心配をかけたな」と声をかけていた。アレクセイは複雑になった。

妻のスージーは後で陛下の危篤情報を聞いたらしく、かなり心配していた。スージーは陛下の事を義理の父君だったからと慕っていた。それもあり、夫のアレクセイ以上に回復を願っていたが。こんなにあっけなく、陛下が意識を取り戻されると心配したこっちの方が馬鹿らしくなってくる。

そんなアレクセイを見て友人のエドワードが話しかけてきた。

「…アレクセイ。まあ、そんなに怒るなよ。陛下が早めにお元気になられてよかったじゃないか」

「まあ、それはそうだが。エドワード。陛下は仮病を使ったわけじゃないだろうな?」

思わず、エドワードに詰めよっていた。エドワードは困ったように肩を竦めた。

「そんなことあるわけないだろう。陛下はその。毒を使われたんだよ。といっても、そんなに強いものじゃなかったらしい。すぐに解毒を侍医殿がしたから助かっただけだ」

「…毒だって?もしや、反皇太子妃派がやったのか」

アレクセイが眉をしかめながら言うとエドワードはだろうねと頷いた。「…メアリアンは未だに貴族の連中には受け入れられていない。殿下が妃をあの子一人だけにすると宣言したからな。余計に年頃の娘を持つ奴らは躍起になっている」

エドワードはそう言いながらため息をついた。アレクセイも同感だと言わんばかりに肩を竦めた。

「なるほど。ならば、側妃たちの親族なども犯人の中に入りそうだな」

「そのようだな。アレクセイ、こう言っては何だが。君も疑われていたんだ。スージー殿は実家の両親とは縁を切っているそうだが。それでも、両親や親族たちはスージー殿の考えなど関係なしにメアリアンに手を出してくるだろうと殿下は言っていた」

だから、君が両親にそそのかされてはいないかと殿下は勘ぐっていたらしいともエドワードは言った。アレクセイは呆れ返ってしまう。

「…わたしが殿下の正妃様を害する訳がないだろう。そんなことをすれば、スージーから離縁されてしまう」

「まあ、それもそうだな」

エドワードは言いながら悪いと謝りながら笑った。アレクセイは相変わらずだなと苦笑したのだった。

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